第264話:断じて違う。


「いっててて……な、何が起きたんだ?」


「これでもほとんどダメージ無しとは恐ろしいのう……」


 おそらく見かねたラムが上空から俺に何かしらの攻撃をしたんだろうけれど、物凄い衝撃が走って視界がぐわんぐわんした。


 並大抵の攻撃は俺には効かないが、いったい何をされたんだろう……。


「……えっ」


 俺の足元に真っ黒な丸い物体が落ちていた。

 恐る恐るそれに手を伸ばすと……。


「おもっ! ラムちゃん……まさか俺の頭に鉄球落としたのか?」


「落としたのではないのじゃ。魔法で加速をつけて物凄い勢いで投擲したんじゃよ♪」


 ……俺の聞き間違いかな?


「一応聞いておくけど、これって普通死ぬからね? 分かってる?」


「でもミナトはこの程度じゃ死なんじゃろ?」


「ま、まぁそうだけど……」


 怖い。なんだこの子、やっていい事と悪い事の基準がバグってんのか……?


「……という訳で、じゃ。儂はその気になったらこれくらいはやってしまう乙女なのじゃが……それでもティアの裸を見ようとするのかのう?」


「いえ、俺が悪う御座いました……」


「分かれば宜しいのじゃカーッカッカッカ!」


 悪役みたいな笑い方しちゃってこの子は……。


『ふふ、一本取られたわね? ラムちゃんを怒らせたくなかったら行動には気をつけないといけないわよ♪』


 もっとガンガン行けって言ったり気をつけろって言ったりいったいどうしたいんだよ……。


『あら、前から言ってるけれど私は面白ければそれでいいのよ♪』

 あぁ、そうだろうね……。


 周りを見ればいつの間にかティアは大きな布をマントみたいに身体に巻き付けてほっぺたを膨らませていた。


「ミナトってばこういう時だけ強気になるのよくないんだゾ?」


「お、おうすまんかった。ちょっと調子に乗り過ぎたわ」


「そういうのは……その、ネコちゃんの後に、改めて……ね?」


 普段グイグイ来てる時とは違って、恥じらいながら顔を真っ赤にしてそんな事言われちゃうとなんていうかグッときちゃうよね。


『ティアは意外と君の理想に近いのかしらね?』

 そ、それは分らんが……。


「私がどうかしましたかぁ?」


 ティアが急にネコの事を呼んだから本人は不思議そうに首を傾げていた。

 というかネコも胸の周りに布を巻いている。いつの間に……ティアのといいネコのといい誰が用意したんだこんな邪魔な布。


「これっ! どこを見とるんじゃどこを。それにミナトもいつまでもはしたない恰好しとらんでこれでも巻くのじゃ」


 ラムが自分のストレージから肌触りのいいサラサラした布を取り出して俺に渡してくれた。


 どうやら他の二人にも布を渡したのはラムだったって事か。

 余計な事を……。


『今日の君ちょっとエロ方面に強気よね? どうしたの? 溜まってるのかしら?』

 嫌な心配の仕方しないでくれる?


「とにかく、早く帰って風呂入ろうぜ。身体中気持ち悪くてきつい」


「それは同意なんだゾ♪ 久しぶりにこんなのと戦ったからもうくたくた……」


「お前ら肝心な事を忘れておるんじゃないかのう?」


 早く帰りたい俺とティアにラムの冷酷な言葉が突き刺さる。


「ほれ、討伐した証拠としてこいつらのエリマキでも切り取ってくるのじゃ。儂はその間に集中しておくのじゃ」


 うげ、そうだった。まだ終わってなかった……。


「……ラムちゃん、二~三体しか居なかったって事にするわけには……」


「ダメじゃ。儂らの強さを見せつける為にも大袈裟なくらいがちょうどいいんじゃよ。ほらさっさと取ってくるんじゃ!」


「ごしゅじん、諦めて頑張りましょうよう。私も手伝いますからぁ♪」


 なんでこいつはぬめぬめべちゃべちゃな状態でこんなにも上機嫌で居られるんだ……?


『さっきまで君もノリノリだったくせに』


 いや、それは仕方ないだろう。男子としては服だけを溶かす液体なんて夢の展開だぞ?


『……何を言ってるのかよく分からないけれど、お風呂入りたかったら早くやる事やっちゃうのが一番よ?』


 分かってるよ!


「よし、ティア、ネコ、さっさとこいつらからエリマキを回収するぞ。一か所に集めて、纏めて俺のストレージに放り込んで帰ろう」


 それからちまちまとエリマキワニガエルのエリマキを切り取る作業に移る。

 生きている間は魔法も物理も受け付けない皮膚だが、息絶える事で表面が硬化し、刃物でも切り取る事が出来るようになっていた。


 むしろエリマキ部分は結構尖ってて危ない。

 気をつけながら次々にエリマキを切り取り、一か所に集めていく。

 あっという間に山になっていくが、まだラムの方は準備が出来ていないらしい。

 一度であの街まで戻るっていうのは相当魔力を消費するのだろう。


 真剣な表情で黙々と魔力を高め続けるラムをチラ見しつつ、俺達は全てのエリマキを集め終わった。


「よし、儂は準備オッケーじゃ! そっちはどうかのう?」


「俺達も大丈夫だ。ちょうど終わった所だよ」


 エリマキを全部ストレージに放り込み、ラムの元へ向かうと、ほどなく集中が終了するところだった。


 本当に万能だなこの子の力は……。


「では帰るとするかのう? 風呂に入るなら街ではなく家の方がよかろう?」


「あぁ……街に行くのは風呂の後にしようぜ」


「ごしゅじん、お風呂一緒に入りますかぁ?」


 ……やめろ。

 今の精神状態だとうっかり頷いてしまいそうだ。


『ムラムラしてるって事?』


 だ、断じて……ちがうっ!


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