第252話:嘘と宴会。


 俺が作り上げた嘘っぱちのステータスだが、まず職業のバトルマスター。

 これは剣士、武闘家、魔法使い、僧侶などの基本的な職業を全てマスターした者が到達する事の出来る職業。

 おそらく自力で到達できる最高の職業だろう。


 これでも十分箔が付くと思ったんだが、勇者の後じゃいまいちだったかもしれない。


 本当はスキルとかはそれなりに強いのにしておけばいいと思っていたんだけどティアのインパクトに負けない為にはジュディアのスキル情報を拝借するのが一番かと思い、剣技レベル測定不能と剣聖技を引用させてもらった。

 ちなみにジュディアが剣聖技レベル7に対して俺は15とかなり盛ってしまったが。


 しかしそれでもティアを上回るインパクトを与える為にほんの少しだけ本当の情報を混ぜる必要があった。


 それが特殊スキルドラゴニカ。

 これはドラゴンの力を身に纏う事が出来るという伝説級のスキルだ。


 ちなみにドラゴンの血肉を百体以上喰らった者にのみ発現すると言われている。

 本当かどうかは知らないけど。


 本来はドラゴンと同化しているので必然的に常時ドラゴニカ状態って感じなのかもしれない。


 さて、なんでこんなにも話を盛ったかと言えば言ってやりたい事があったからに決まってる。


「おい、お前オーガスって言ったよな。……でさ、誰が何を教えてくれるって?」


「……か、勘弁してくれ。俺が悪かった……なんなら土下座して謝罪させてもらう。だから、俺はどうなっても仕方ないが他の皆の非礼をどうか許してくれ」


 オーガスとかいう鎧の大男はガタガタと震えて鎧をガチガチ鳴らしながらゆっくり土下座の姿勢に入ろうとした。


「……はぁ、真面目かよ……」


 本当は悲鳴をあげてここから逃げ出すのとかを期待してたんだけど。


「やめろやめろ、俺が虐めてるみたいじゃないか……そういうの良いから。さっきの事は水に流してやるよ」


「ほ、本当か!? ありがてぇ……!」


 周りのギャラリー共もホッと胸をなでおろした。

 こいつら俺が暴れて皆殺しにするとでも思ったのかねぇ……。


「だけどお嬢さん達本当にすげぇパーティだったんだな……いや、だったんですね」


 うぇ、気持ち悪っ。


「その敬語やめろ。慣れてねぇ事しなくていいから。普通にしてくれ」


 オーガスは俺の言葉に目をカッと開き、満面の笑みを浮かべた。


 だから気持ち悪いってば……。


「おぉぉぉ! 今日は伝説に立ち会った素晴らしい日だ! みんな飲め! 俺のおごりだぁぁぁぁぁっ!!」


「マジかよ!?」

「オーガスが奢りなんて明日雪でも降るんじゃねぇか?」

「マスター酒だ! 酒もってきてくれ!」

「ささ、お嬢さん方こっちへ来て座って下さい!」


 もう大騒ぎになってしまった。

 俺達を席につかせてどんちゃん騒ぎをしたかったようだが、俺はそんなのに参加するつもりは……。


「んくっ、んくっ、んくっ、ぷはーっ! うんめぇぇぇぇぇっ! ちょっとミナト、早くこっちに来て一緒に飲もうよぉ?」


 既にティアがテーブルの上に腰かけて酒のジョッキを空にしていた。


「お、おいティア!」


「いいじゃない私もミナトも未成年じゃないんだから~♪ 頭固いと損するだけだゾ♪」


 こいつ……。


「ささ、姐さんもこっちきて一緒に飲んでくだせぇ! 酒代は俺が払いますんで!」


 オーガスがその場に跪いて席につくよう大きな手ぶりで促した。


「……まったく、しょうがねぇな……そっちの二人にはジュースを用意してやってくれ。いいか?」


「勿論ですぜ! ささ、ユイシスお嬢さんとラムお嬢さんもこちらへどうぞ! おいテメェら道を開けろ! ラムお嬢さんが通りにくいだろうが!」


 ……なんだこれ。

 オーガスってのは結構仕切りやだったようで、皆にテキパキ指示を飛ばしてるから何してるのかと思ったら、いつの間にか席に着いた俺達を取り囲むように人だかりができていて、オーガスがそれを「一人ずつ順番だ!」とか言ってる。


 そこから何が始まるのかと思えば、まるでアイドルみたいな事をやらされた。


 つまり握手会だ。


 俺達全員と握手したいって皆が騒ぎ出したのでオーガスが列を整理したらしい。

 なかなかの手腕だがそもそも握手を断ってくれよ。


 その後夜遅くまで握手会は続き、皆からの質問攻めにあう羽目になった。


 おやじは一人で静かにカウンターで飲んでいたが、しばらくするとこちらに手を振って「じゃああとは頑張れよ」と声をかけて出て行ってしまった。


 そこは「そろそろ帰るぞ」だろうが!

 せめてこの状況から抜け出したいのだが、握手や質問に答える事が楽しくなってしまったらしくて俺以外の連中が意外と乗り気なのが問題だった。




「はぁ……つかれた……」


 閉店の時間になり店を追い出されたところで握手会が終了したので俺達はホールを使い、家に帰ってきた。


「しかしこれだけ目立てばすぐにでも声がかかるじゃろ♪」

「私だけレベル低いから浮いちゃってますぅ」

「職業勇者ってのはちょっと悪目立ちしすぎちゃったかなぁ?」


 懐かしの我が家は埃が消えただけでかなり住み心地よくなっていた。


「いろいろ言いたい事はあるけどよぉ……今日の所はとにかく寝ようぜ……」


 いくらなんでも疲れちまったよ。

 どれだけ飲んでも酔う事は無かったけれど、今後の事を考えるといろいろ頭は痛い。


 とりあえずギルドに登録ってミッションは終わった。

 後は仕事を受けてこなしていくだけだ。



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