第192話:ジャーロック・ホムホム。


 結局その日はもう食事どころではなく、即座に解散。

 犯人が誰なのか分からない恐怖からか皆自室に籠る事にしたようだ。


 こちらとしても下手に動かれると困るのでその方が助かる。


 本当なら全員一か所に集めておきたいところだが夜通しそうする訳にも行かず、まずはライルの回復を待つ事にした。


 そして翌日の朝。


「いやーすまない。まさか毒を盛られるとは思いもしなかった」


 そう言って呑気に笑うライル。

 まだ完全な状態とは言えないが、一応日常生活に支障が出るような後遺症は無い。


 ベッドから上半身を起こし、アリアが用意した軽食を食べていた。


「笑い事ではないぞ兄上! 何者かが兄上を殺そうとしたのだ! あの二人のどちらかに間違いない!」


「いやいや、そう決めつけるのは早計だ。私を恨む人間はそれなりに多いだろうからね」


 アリアが憤慨するのもあの二人を疑うのも分かるが、確かに誰がやったのかを決めつけるにはまだ早い。

 情報が足りなすぎる。


 そして……城内はさらに騒然とする事になる。


 王の遠縁だというサイラスという男、あいつが昨夜闇討ちにあい重傷を負っていた事が分かった。


 何故今までそれが分からなかったのかと言えば、あの馬鹿野郎は夜中に城から抜け出して街に繰り出していたらしい。


 馬鹿としか言いようがない。

 自業自得である。それに、よくもそんな状態で外をふらつく気になった物だ。

 あとサイラスなんかにあっさり抜け出されている城の警備にも問題がある。


 あんな事があった後で皆怖がっていたのもあってか職務放棄していた奴等がそれなりにいたらしい。

 いろんな事が重なっておきてしまった更なる事件。


 一応サイラスは一命を取り留めたらしいが、今回の件からは離脱するとの事。


 普通に考えたら毒殺未遂事件なんてのがあった日に呑気に出歩く時点でサイラスが怪しいのだが、その本人も闇討ちされている以上奴も違うのだろう。


 そうなってくると一番怪しいのは大臣という事になってしまう。


 この国でもまた大臣が悪だくみをしているのか?


 当の大臣は自室に籠って出てこないとの事。


 大臣が犯人だろうとそうでなかろうと、このままでは更に被害者が出る。


 おそらく新たな王の候補が最後の一人になるまで……。


 場合によっては全滅するまで。


 さっさと解決してくれないと和平どころじゃないぞ……。


『だったら君が解決するしかないじゃない』

 そうは言ってもなぁ……。あまり気が進まないんだが……。


『出来る力があるのにやらないのは怠慢よ?』

 なんでそんなに乗り気なんだよお前は……。


『だって楽しいじゃない♪』

 ……ほんと人としての良識ってもんがお前には存在しないんだな。


『ドラゴンだからねっ!』

 はぁ……。分かった分かった。じゃあ必要なのを頼むよ。頭の良い奴で頼むぞ。


『こんな事もあろうかとずっと温めていたのがあるのよ♪ 真実はいつも一つか二つ!』

 なんだそりゃ……。


 ママドラがノリノリで俺の中に流し込んで来たのは、とある私立探偵の記憶。


 いや、記憶、というかその物。ちょっと頭がクラクラするくらいの情報量を流し込まれた。


『さぁミナト君……いや、探偵ジャーロック・ホムホム! 貴女の手でこの事件をまるっと解決してちょうだい!』


「ほんとノリノリだな君は。しかしこの僕に任せておけばこんな事件すぐに解決してみせようじゃあないか。豪華客船にでも乗ったつもりでいたまえ」


 ……うぅ、ちょっと頭クラクラするな。

 なんだこの脳みそから手足が生えてるみたいな奴は……。


『面白いでしょう? 使う機会をずっと待ってたのよね♪』


「……とにかく、僕に任せておけば大丈夫。早速思考に入ろうか」


 とにかくまずは情報収集。あの時出された食事を作ったコックの所へ行ってみよう。






「ふむ、では君があの時料理を作ったので間違いないのだね?」


「そうだが、もしかして俺を疑ってるのか? 俺は仕事に誇りを持ってるんだ。料理に毒を入れるなんて……」


「そういうのは求めていない。君が作ったのかどうかを聞いているだけだ。聞かれた事以外を答える必要は無いよ」


 コックはムスっとしてしまったがこいつが入れたとは思っていないのでそれはいい。


「ちなみにここの食材は今もローラが搬入しているのかい?」


 ダリルの厨房へはローラが食材を納めているという話だったがそれは今でも一緒だろうか?


「ローラちゃんを知ってるのか。おい、あの子を疑ったりしないだろうな?」


「君もいちいちうるさい人だねぇ。確認だよ、か・く・に・ん。ローラが搬入しているのならば疑う箇所が一つ減るからね」



 こういう時本来ならば身内すらも疑うべきなのが探偵という職業なのだが、今回はもともと食材方面は可能性が薄いと思っていたから別に構わない。


 なぜならば、食材にあらかじめ毒を含ませておくというやり方では特定の誰かを狙う事は難しいし、全員殺すつもりだったならば話は別だが、ローラが王候補を皆殺しにしようとする理由は無いだろう。


『まぁローラが君にまで毒を盛る意味がないものね』


 ……はい?


『あら、もしかして気付いてなかったの? 盛られてたわよ? 毒』


 なんだと……? 僕は毒を摂取していたのか。


『君の身体はもう毒なんてなんの効果も無いものね。一切気付いてないとは思わなかったけれど』

 情報提供感謝する。

『え、うん……なんか調子狂うわねぇ』



 しかしそうなってくると話がいろいろ変わってくるぞ。


 全員かどうかはともかく犯人は少なくともライルと僕……このジャーロック・ホムホム……ではなくミナトか。最低でもこの二人を殺そうとしていた。


 現段階では殺害対称が二人なのかもっと居たのかは判断できないが……。


 とにかく潰せる所から潰していくか。


「次の食材納品はいつになるかな?」


「あぁ? 食材の納品は明後日だが……もしローラちゃんに話を聞きたいってだけなら今日にでもできるぞ」


 どっちみち今日納品がなければ家に押し掛けるつもりだったのだが、今日来るというのであれば好都合だ。


「今日は確かメイドの友達の所に遊びに行くって話だったからもう来てるんじゃないか? 楽しんでいる所を邪魔するのはやめた方がいいぜ」


「ふむ、検討しよう」



 その言葉は嘘ではない。


 検討した上で該当メイドの部屋へ向かった。



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