第181話:未来の旦那様。
魔物の大群が帝都の空を埋め尽くす。
城壁の外でも戦闘音が聞こえてくるので地上部隊もいるのだろう。
そちらはエクスの話だと英傑が数人対処にあたっている筈だ。
ジキルの奴も確かそっちだった気がするが、確か土の中から砂鉄を抽出する事も出来る筈なので心配は要らないだろう。
むしろ砂鉄さえ用意出来ればジキルの戦い方は対多数には適している。
問題なのは英傑武器が破損している奴等だが、ジオタリスも斧が壊れていたので実力を発揮できるかどうか。
一応武器屋の協力で自分達が使いやすい武器を用意してもらったらしいのでそれなりには戦えるだろうが……。
「まぱまぱ、こっちにもくるよ!」
……まずは人の心配よりも自分のやるべき事をやるか。
とはいえ街中での戦いならエクサーでやったような戦い方は絶対にダメだ。
帝都がクレーターになっちまう。
魔導シューターのリンと科学者のガジェットを組み合わせるのもちょっと心配だなぁ。
そんな事を考えながらも、魔物は待ってくれないので各個撃破したり空間魔導士グリゴーレのスキルなどを駆使しながら立ち回っていると、なにやらイリスが俺の知らない事をやっていた。
「うりゃりゃりゃりゃーっ」
やってる事はどうという事もない。ただ虚空に向かって目にもとまらぬ速さで拳を連打しているだけなんだが……その一撃一撃が衝撃波となって魔物を次々に撃墜していく。
飛ぶ剣撃ならぬ飛ぶ拳撃というやつだ。
「ねぇまぱまぱ見てくれた!?」
「おう、凄いぞイリス」
「やったーっ♪ 褒めて褒めて♪」
いや、今褒めたじゃんよ。
イリスは周りにぼとぼと落ちてくる魔物の残骸をクルクルと華麗なステップでかわしながら俺の目の前までやってくると、「ほい♪」と言いながら頭を差し出してくる。
「ほんっとうにイリスは可愛いな」
「えへへ~ありがと~♪」
そのサラサラの髪の毛を撫でながらつい口がすべって本当の事を言ってしまった。
別に本当の事だからいいか。
帝都のあちこちで戦闘音が響き始めている。
「エクスの野郎もおっぱじめたな……」
彼が向かった先でやたらと激しい爆音や閃光が迸っている。ティアとの闘いで力を使いすぎたとか言ってたけどまだまだ元気じゃねぇかよ。
そして、あの馬鹿野郎がまたやりやがった。
空に巨大な岩の塊のような物体が現れる。勿論ゲオルだ。
あいつは我慢ってもんを知らんのか!?
帝都の人間がアレを見たら間違いなく騒ぎになる。
六竜が現れたという事実だけで良くも悪くもいろんな噂が飛び交うだろう。
エクサーだけならともかく帝都上空でこんなの出てきたらまずいって……。
今更止めても無駄なのでもうどうでもいいや。なるようにしかならん。
諦めて俺もゲオルが打ち漏らした魔物を適当に始末する事にした。
ぶっちゃけどれだけ数が多かろうが今の帝都の布陣は魔物にとっては恐怖以外の何物でもないだろう。
そんな時、嫌な物を見てしまった。
こればっかりは目を疑った。
一際高い建物……あれは時計台か。
その時計台の天辺付近に片手だけでしがみ付いている女の姿。
「あの馬鹿ネコあんなとこで何やってやがる……?」
というかネコが片手であの高さの建物にしがみ付いてるのがまず異常だ。
アルマの奴か……?
ちょっと気になったので空間魔法でネコのすぐ近くと繋いで声をかけてみた。
「おいアルマ、お前そんな所で何やってんだよ」
「あっ、ごしゅじーん♪ 私頑張ってますよぅ♪」
「うぇっ? アルマじゃなくてネコなのか?」
だったら尚更何やってんだこいつ……。
「えっへっへー見てて下さいねごしゅじん! 私もアルマさんの協力でいろいろ出来るようになったんですよー? まだ上手く調整できないんですけどぉ」
嫌な予感しかしねぇ。
ネコの満面の笑みなんて不吉でしかない。
「お、おい。お前はもういいから下がってろ」
「いっきますよー!? うにゃーっ!!」
ビカッ!!
突然ネコの目が光り輝く。
何が起きたのかをかみ砕いて分かりやすく言うとだ、ネコが目からビーム出して魔物を焼き殺した。
「うにゃにゃーっ!!」
質の悪い事にそのビームは出っ放しで、ネコの顔の動きに合わせて空を縦横無尽に切り裂き続ける。
たっぷり二分間くらいは出っぱなし。途中でゲオルまで巻き込みそうになって巨大竜状態のゲオルがびっくりしてた。
「どーですかごしゅじーん! すごいでしょ? 褒めてくれていいんですよーっ!」
「……う、うん。ほどほどにね……?」
なんていうかもういろいろ考えるのが馬鹿らしくなってきてしまった。
空では空中浮遊したティアが風の刃をまき散らして魔物を蹴散らしてるし、イリスは次々に拳撃を繰り出し文字通りの血の雨を降らせてるしゲオルはそのでかい顎でバリバリ魔物噛み砕いてるし遠くでロリナの「死ねやワレェェェ!!」みたいな絶叫が聞こえてくるしエクスは住民が避難してるのを良い事に割とばかすか威力の高い技ぶっ放してるし俺もう居る必要なくね?
「この中で一番強いのはお前か?」
気が付いたら背後から野太い声が聞こえた。問答無用で攻撃すればいいのに意外と紳士である。
見た目は……なんというか大きなカタツムリみたいな感じ。
どこから現れたのかしらないが、帝都の中をのろのろと這ってきたらしく地面がてろてろしている。
「お前は?」
「ジャガルだ。デルベロス様に仕えし……」
「ごめん、デルベロスもう死んだわ」
「……我が名はジャガル。デルベロスの糞野郎に命令されて仕方なくここへ来てやったのだ」
掌返し早っ。
でもちょっとだけ好感が持てる。自分に正直なのは良い事だ。
「貴様が奴の言っていた英傑王ミナトだな?」
「だったら?」
「貴様だけ殺して俺はさっさとこの場から退散させてもらう。命は惜しいのでな」
……正直さに好感は持てるがあまり賢くはないらしい。
「あのさ、英傑王って事は今この帝都に居る中で俺が一番強いの分かって言ってる?」
「……ふふふ、なるほど。俺は急用を思い出したので帰らせてもらおう」
「待てよ。俺も自分の役割探してたとこだったんだ。ちょっと遊んでいけって」
「きょ、拒否する」
なんだこいつ面白い魔物もいるもんだな。あまりぶっ殺したくないタイプだけど……。
「く、来るな! それ以上近付くとこの子供を殺すぞ!!」
……前言撤回だ。
奴の身体はうっすら透き通っていて、よく見ると体内に子供が取り込まれていた。
しかも、その顔には見覚えがある。
「……お前、生きて帰れると思うなよ。お前は知らねぇだろうけどよ、そのガキは俺の未来の旦那かもしれないんだぜ?」
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