第103話:六竜殺し。


 俺は気になった事をそのまま聞いてみた。

 なぜネコなのか、と。


「残念ですがそれの明確な答えを私は持っていません。……ですが」


 アルマは一瞬悩むようなそぶりを見せて、逆に俺に質問をしてきた。


「ミナトさん、貴女はユイシスさんの生まれに関して何か聞いていますか?」


「生まれか……両親の事やどんな人生を歩んできたか、についてはある程度聞いた事があるが……」


「そうですか……それならやはり、いや……でもこの大陸で発見された事など……」

「なんだよ、そんな言い方されたら気になるだろうが」


 確かネコは獣人の父と人間の母親の間に生まれて……そうだ、人里離れた場所に住んでたと言ってたな。

 それから両親を亡くして、神官への道に進んだんだったよな。

 かなり辛い人生だとは思うが、イヴリンの器になるような事があったとは思えない。


「イヴリンの器というのは、消滅しません」


「……は? ちょっと意味が分からないんだが」


「例えばある所にイヴリンの器になった人間がいたとしましょう。その人が死んだらどうなると思います?」


「普通に考えたら器も消滅するんだろうが……さっきの言いぶりだと違うのか?」

「はい。イヴリンの器というのは必ず一定数この世に存在し続けます。例外があるとしたらイヴリンが器を手に入れ、滅びた時だけですわ」


 じゃあ少なくとも一つはこの世から消えた事になるのか。


「器を宿した人間が死んだらどうなる?」

「その人と一番波長の近しい人へと受け継がれます。そして、私はイヴリンの器が宿主に選びやすい人間の波長という物をある程度絞り込む事に成功しています。本来はいざという時に器の候補を絞り込む為でしたが……」


 考える事がまた増えた。


「波長の近しい人へ受け継がれる、というのは近親者の可能性が高いのか?」

「必ずしもそうとは限りませんが、その可能性が一番高いでしょう。イヴリンの器というのはヴァルゴノヴァの性質を色濃く受け継いでいるので女性にしか宿りませんから……母親から、と考えるのが妥当ですわね」


 待て待て。ヴァルゴノヴァなんていかつい名前なのに女だったのか? というか竜だからメス?


『ちょっと、その理屈だと私もメスって事になるんだけど何かいい訳はあるかしら?』

 あっ、いや、深い意味はないんだって悪かったよ。

『別にいいけど、こんな美人のおねーさんつかまえてメスって言い方されたら傷付くわ』

 お、おう……悪かったな。


 確かにちょっと表現方法が悪かったかもしれん。

 ヴァルゴノヴァは女性。ヴァルゴノヴァは女。

 よし、把握した。


「しかし、私が……というか既に亡くなってしまった六竜のマリウスがイヴリンの器に適応する人の共通点を見つけたんです。それが、ある島国に住まう種族の血を引いている事」


「……じゃあその島に住んでる奴等の血を引いている誰かにイヴリンの器が移動していく、という感じなのか?」

「勿論確証はありません。ただ、マリウスが調べてくれた情報の信頼性は高いですわ。あの子はそういう分析の類に特化しておりましたから」


「えっと……新しい情報が出て来すぎて頭がパンクしそうなんだが」


「仕方ありませんわね……」


 渋い表情でアルマが簡単にまとめてくれた。

 それを頭の中で適当に整理するとこうなる。


 まず、ヴァルゴノヴァというヤバい竜がいて、それが幾つかに分れ、六竜……そしてイヴリンとイヴリンの器が生まれた。

 六竜の事はまあいいとして、イヴリンってのは形を持たない。人に憑りついて悪事を働く事もあるが大した力を発揮する事は出来ない。

 イヴリンの器ってのはとある島国の女性と波長が合うらしくそこの血を引いている女性の中に受け継がれ、その人が死んだら次に波長の合う人の中へと移動する。

 イヴリンの器は一つではなく、幾つか存在するらしい。そして、イヴリンがイヴリンの器を見つけて同化した時、とてつもない脅威になる。

 その例が初代魔王。しかし同化した状態で滅ぼされればその器は壊れる。イヴリン自体は滅ぶことなくまた世界をうつろう……。


 と、まぁこんな感じか。


「それにしてもイヴリンってのは常に悪い事ばっかしてんのかよ」


 俺のぼやきに答えたのはアルマではなくゲオル。


「あいつは……悪意の塊、つまり良い心ってのを全くもたないで生まれたクソガキみたいなもんなんだ」


 あ、その例かなり分かりやすいな。

 確かに良心を持たないガキが居たとしたらめんどくさそう。


「でも滅ぼす事が出来ないのも面倒だよな」

「……六竜のマリウスはそれをどうにかしようと手を尽くしていたのですが……結局道半ばで死にました。同じく六竜のカオスリーヴァに……殺されたのです」


 ……はぁ?

 おいママドラ、カオスリーヴァってイリスの父親だろ? お前そんなやべー奴との間に子供作ったのか?


『……マリウスが殺されたって聞いて私は彼を問い詰めたわ。結果、あの人は私の前から姿を消した。つまり、そういう事よ』


「勝手にこんな話をしてイルヴァリースは怒ってるかしら?」

「……いや、怒ってはいないようだが……」

『ぷんぷん!』

 そういうわざとらしいのはいいから。


「先の魔王軍との戦いで私、ゲオル、カオスリーヴァ、イルヴァリース、マリウスは力を合わせて戦いました。その最中、カオスリーヴァがマリウスを殺しました。私が……この眼で目撃したのです」


『私はその話を戦いが終わってから聞いたのよ』


 んで問い詰めて逃げられたのか。

『酷い言い方ね。でもその通り』


 という事は既にその時には身籠ってて、確か魔王との戦いで呪いをかけられたせいでイリスがあんなことになってたんだったよな。


『そうね』

 その当時の魔王ってのは六竜総出でも始末できないような相手だったのか? それこそイヴリンとか……。


『それが違うのよ』


 だとしたらその時の魔王はどうした?

 あの時戦ったキララの力でそんなヤバいのをどうにか出来るとは思えないし……。

 あと、アルマの話に出てきた六竜、一人足りてないのが無性に気になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る