第82話:恐怖の館。


「ゲオル殿は大丈夫だろうか……」

「少なくとも身の安全とかは心配しなくていいだろうぜ」


 六竜が山に入って大怪我してきたとか笑えねぇしな。


 結局その後俺達が次の村に到着してもゲオルは帰って来なかった。


『よし……! よしっ!』

 お前なんであいつの事そんなに嫌いなの? 結婚してくれってしつこいから?

『そうよ! 会うたびに言ってきて、断っても断っても照れ隠しと勘違いされるし付きまとわれるしほんと無理』

 でもほら、俺とママドラの関係については受け入れたみたいじゃないか。


『……そんな私の旦那ぶられても困るんだけど……まぁいいわ。確かに君のおかげでかなり大人しくなったっぽいわね』

 俺達に害が無ければいいんじゃないか? 六竜の一人だったら仲間になってくれたら心強いし。


『……でも早速実害が出てるじゃない』

 う、確かにそれはそうだけれど。

『それに、あいつは強いって言っても……』


「オネーサン! なんだかこの村様子がへんヨ」


『……ほら、呼ばれてるわよ』

 お、おう……。


 ママドラの言葉が若干気にはなったが、今はそれよりもこの村だ。

 確かに様子がおかしい。


「まぱまぱー、この村ね、人が居ないよー?」

「おうちの中にも居ないみたいですぅ。ドアが開けっ放しのおうちもありますよぉ?」

「……何かが、起きているようだな」


 うちの女子達がそれぞれのリアクションをとりながら村の異変を観察する。


 確かに人が居ない。

 家に籠っている訳でもないし、鍵が閉まってる家が無い。

 なにより不自然なのは、勝手に入ってみても特に家の中に埃が積もってたりはしない事だ。

 それどころか食事の途中のような痕跡すらあった。


 ママドラ、どう思う?

『んー、可能性としては何か理由があって村人がいっせいにここを放棄したとか、何かヤバいのが来て全員一気に殺されたとか?』


 殺されたにしても争った跡とか血とかさ、そういうのが残るもんだろう?

 ここは普段の生活から突然人間だけが消えうせたみたいな、そんな違和感を感じる。


 そしてもう一つ問題があった。


 この村には人が居ない。

 つまり、まともな食材が無いという事だ。


 一応倉庫みたいなのは見つけたし保存食があるのも確認したのだが、勝手に持っていくのは抵抗があるし食材が原因で村がこうなっているという可能性も捨てきれない。


 なんの情報も無く手を付けるのはさすがに不安が残る。


 そんな時、明らかに胡散臭い物が目に入った。


 村から少し離れた場所、林になっている場所の更に先に丘があり、大きな屋敷のさきっぽが微かに見える。


 なんというか、海外の宮殿みたいだなぁという印象を持った。


「ミナト殿、あそこに何か建物が……」

「ああ、今どうするか考えてる」

「まぱまぱー、人が居るかもしれないし行ってみようよ~♪」


 アリアとどうするか話合おうと思った矢先、イリスがぴょんぴょん跳ねながら林に入っていってしまった。


「イリスちゃん待って下さいーっ!」

「おい馬鹿、イリスはともかくネコは単独行動するな。何かあったらどうするんだ」


 イリスを追いかけて走り出したネコの腕を掴み引き戻す。


 勢いでネコが俺の胸に飛び込んでくる形になってしまった。


「ふにゃっ!? あ、あの……その……ごめんなさい」

「分かればいい。お前は戦う力なんか無いんだから一人で動くな。俺から離れるんじゃねぇよ」


『おっ!?』

「ごしゅじん……うれしいですぅ♪」


 ネコがぎゅっと俺の腕に絡みついてくる。


「いや、離れるなとは言ったけど邪魔にならない程度の距離で頼むわ……」


『せっかくいいセリフが出たと思ったのに……』

 最近ママドラは娯楽が無さ過ぎて俺で遊んでるだろう?


『暇なんだもん♪』

 だもん♪ って歳かよ……。

『お゛ぉん?』

 なんでもないです。


 このやり取り最近した覚えがあるな……。

 それはともかく、ゲオルが居たら暇なんて思う余裕も無いから丁度いいんじゃないか?


『アレはダメ。暇とかそう言うんじゃなくてただ不快になるだけだから』

 そうですか。


「とにかく、俺達もあの屋敷目指して行ってみようか」


 林の中には獣道よりちょっとマシ、くらいの細い道があり、それを通り抜けると想像よりもはるかに巨大な屋敷が現れた。


「おいおいマジかよ……ちょっとした城じゃねぇか」

「これだけ大きい建造物ならあの村の人々くらい余裕で受け入れられるのでは?」


 ……なるほど。何か事情があってここに村人を受け入れているという可能性もあるか。


 実はここに来るまでに獣道で大量の足跡を発見していた。

 つまり、ごく最近沢山の人々がこの屋敷へ向かっていたのは間違いない。


「ここで村人を受け入れて面倒見てるとかそういう平和的な話だといいんだけどな」


 先に行ったイリスは入り口の前でぼけーっと突っ立って建物を見上げていた。


「イリス、どうかしたか?」

「……ここ、なんか変な感じする」


 イリスが変だって言うなら何かあるんだろう。

 それは間違いない。


「ミナト殿……」

「分かってる。こいつはかなり怪しい。だけど、俺達が旅を続けるには食料が足りない。食料を手に入れる為出来れば村人を見つけたい。村人を見つける為にはここに入らざるを得ない。結局行くしかないさ」


「うむ……実は私、その……怖いのはちょっと苦手なのだ……ミナト殿、頼りにしているぞ」


 怖いの? えっ、これそういう話?

 ここそういう場所なの?


 俺もそういうの得意じゃねぇんだけどなぁ。


『ふふっ、頑張れ男の子♪』


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