第28話:自分語りってウザいよね。
「あの……ごしゅじん?」
「……」
「ねーイリスちゃん、ごしゅじんどうしちゃったんです……? 屋根の上で奇声をあげたと思ったら今度は黙っちゃったんですけど……」
『君はまだ拗ねているのかしら?』
当たり前でしょ!? あんな事になるなんて聞いてないわよ!
きちんとレベルは上がった。31まで……。でも私はレベルアップの嬉しさよりもさっきまでの事を思い出すだけで泣きたくなる。
『だってスキルの威力とかも知らないと危なくて使えないからスキル保持者の記憶もある程度引き出せって言ってたのは君でしょー?』
私が言ってるのはそんな事じゃない!
そもそも二人分の記憶がまざるとあんな事になるなんて聞いてないわよ。
『あはは……それは正直私も初めてだったから驚いちゃった』
驚いちゃった、じゃないでしょ……。
はぁ……でも確かにあんなの試した事なかったしね。ママドラを責めてもしょうがないかも。
『分かってくれた? ほら、私悪くないでしょう?』
いや、あのヤバそうな二人を選んだのは間違いなくママドラのせいよね?
『アレが一番効果ありそうだったんだもの♪』
……まぁいいわ。そういう事にしておいてあげる。
「ごしゅじんってばー。あんまり無視されると私泣いちゃいますよー? ふみーん」
「なによそのふみーんって」
あまりにわざとらしい泣き真似につい笑ってしまった。
「まぱまぱ笑ったーっ♪」
「ごしゅじん……その状態でにこやかにしてると本当に可愛らしいですね! ちょっと胸が高鳴ってしまいますぅ」
「あははっ、ばーか♪」
「……ッ!!」
なんだか知らないけどユイシスが俯いて膝のあたりをバシバシ叩いてる。妙な病気かしら?
しかもネコミミ生えてぴこぴこしてる。
「ごしゅじん……今の自分の破壊力を正しく理解した方が……いい、です」
どういう意味……?
「変なユイシスねぇ」
「まぱまぱかわいーっ♪」
イリスが私の腕をぎゅっと掴みながらそんな事を言う。
「いやいや、イリスの方が可愛いわよ♪」
「やったーっ♪」
「ねーねーごしゅじんごしゅじん! 私は?」
「……何が?」
「だーかーらー! 私は可愛いですか?」
「どちらかと言うと……面白い、かな?」
「うにゃぁ……微妙な評価ですぅ」
「あ、でもネコミミ生えるのは可愛いわよ」
「えっ、ほんとですか!? じゃあずっとこのままにしましょうかねー♪」
「……」
「……あれっ? 急に真顔になってどうしたんですごしゅじん?」
あー、キツい。これはキツいぞ……。
『あらもう正気に戻ったの?』
正気って言い方するって事はだ、俺はやっぱり正気じゃ無かったって事か?
『それは言葉のあやってやつだわ。どっちも本質的には君なのよ? 男としての君と女としての君』
女としての俺ってなんだよ……!
『人っていうのは誰しもベースになる性格っていう物があるでしょう? たまたま君は男に生まて育ったから今の性格があるわけだけれど、もし女として生まれ育ったら?』
分からん。俺は男だからな……。
『つまりそれが女性化している時の君なのよ。もしもとか仮に、じゃなくて君の中の女性の部分が私の影響で強く表に出てるだけよ』
……じゃあ女喋りしてる時の俺も俺だっていうのか?
『だからそういってるじゃない。だから身体が女の子になるんだったら中身も女の子でいいし、どっちかに拘る必要なんてないのよ』
認めん……! 女の俺ももともと俺が持ってる俺?? それを認めてしまったら男と女の境界線が曖昧になっちまう……。
『境界線なんてないんだってば。どっちも君なんだからさぁ』
それを認めたくないって言ってるんだよ!
まったく……やはり自分を強く保っていないと今後どんどん女に傾きそうで怖い。
『まぁ深く考える必要はないのよ。どっちも君なんだからそんなに女の子の君を嫌うのは可哀想よ。もっと自分を愛さなきゃね♪』
自分を愛するって言葉は俺にはちょっと遠い所にあって理解が難しい。
前世、日本で暮らしていた頃から俺はちょっと人とはズレていて、喧嘩も強くない癖に荒れた日々を送っていた。
と言っても人として間違った事をしてきたつもりはない。思った事を思った通りに言うのを辞めなかっただけ。要はガキだったのだ。
我慢って事を知らなかった。親に対しても友達……いや、知人に対しても。
だから基本的に周りは敵ばっかりだったし生意気だと絡まれる事も多かった。
そういう奴らにも思った通りの事を言ってしまうからさらに面倒な事になるわけで……。
当時の記憶を取り戻した時、最初他人の記憶を覗いてるみたいな気分だった。
だって俺はこの世界じゃそれなりにまともな方だったから。
だけど、いざ以前の記憶を思い出すと、こっちの自分と以前の自分のどっちが本当の自分なのか分からなくなる。
日本に居た時の記憶はほぼ思い出してしまった為、俺の頭の中には二つの人生分の記憶が常に混在している。
こっちでも一度死んでる訳で、それが尚更混同を招いているのかもしれない。
二つの人生で共通する事が俺は俺の事が嫌いだって事。前世についてはもっと世渡り上手に生きろよと思うし、こっちについては無駄に人目を気にしていたのが馬鹿みたいだ。
だからこそ俺は俺を愛する事なんて出来そうにない。
例えそれが自分の女の部分だろうと、男の自分だろうとだ。なにせこれから俺は元パーティメンバーを殺しに行くのだから。
『脳内自分語りもここまで来ると病気ねぇ……私はちょっと君の事が心配だわ』
……なんでだろう。今までで一番恥ずかしかった。
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