5話


仕切り直したシルヴィアはメリダとロンドに今日の予定を話した。


「今日は初日という事もありますから、特に仕事などはありません。これから2ヶ月、一緒に仕事をする上で私は、メリダさんとロンドくんのことを知りません。だから……教えてください。」


「「はい!!」」


2人の元気な返事を聞いたあと、シルヴィアは一番聞きたかったことを聞くことにした。


「まず最初に、メリダさんとロンドくんはなぜ、、私を選んだのか聞いてもよいでしょうか?」


メリダにはシルヴィアの正体は話した。だからメリダがシルヴィアを選んだのはわかる。だがロンドはシルヴィアの正体も人柄自身も知らないのだ。


だからこそロンドがなぜシルヴィアを選んだのかわからない。


(あまり人がいなかったから?実習でもメリダの面倒をみないといけないから?)


前者の考えはあり得るとして、後者の考えは少しメリダに失礼なことを思っていたシルヴィアであった。


「そうですね……」


シルヴィアの質問に最初に答えたのはメリダではなくロンドだった。彼は言いづらそうに頬をかきながらシルヴィアに話した。


「僕、、魔力はあるんですが得意な属性がないんです……」


「得意な属性がない?」


「はい…どの属性も使えないんです。だから術式を編んで魔力を流す方法しか…使えないんです…」


ロンドは申し訳なさそうに俯いた。その姿にシルヴィアは小さい時の自分を思い出した。だから、シルヴィアはロンドに言った。


「ロンドくん。それは恥ずかしがることではありませんよ。」


「えっ……」


「自分の力をどのように生かすかは自分しだいです。ロンドくんは立ち止まらずに模索し続け、術式にたどり着きました。立派だと私は思います。」


「っ!…ありが、とうござ、います…。」


ロンドは目元を腕で拭ってシルヴィアにお礼を言った。その姿を見てシルヴィアとメリダは微笑んだ。


(きっと、ロンドくんにはいろいろな壁が立ちはだかるでしょう…それでも彼ならきっと挫けずに前に進めると思います。だから私は…)


「ロンドくん、メリダさん。この2ヶ月で多くのことを学び、吸収してください。」


(彼らが進む道の手助けをしましょう。)


「「はいっ!!」」



それから、メリダの選んだ理由、2人の好きな物、得意な科目、学園での生活を聞いて実習初日は無事に終わった。


ついでにメリダがシルヴィアを選んだ理由は、伝達魔法改造での研究途中でまた変な術式が完成したから見て欲しいとの理由であった。





◇◇◇



その夜、シルヴィアは魔法師団に与えられている寮の部屋で考えていた。


(今まで周りの目を気にして生きてきましたが、些細なことだったんですね…)


ヴェルン、メリダ、ルイン、エヴァンス、上級魔法士たち……彼らのお陰でシルヴィアは変われた。きっかけは些細なものかもしれない。だが今まで周りの目を気にし、自分の殻に閉じこもり生きてきたシルヴィアにとってはとても大きなことだった。


シルヴィアの外見ではなく中身を見てくれた“友達”。学園で見つけられた“夢”。魔法師団で知ることができた“仲間”。自分のために怒ってくれる“友達”や“仲間”


きっと彼らと出会わなければ知らなかっただろう……だから今度は、シルヴィアがみんなから教えてもらったことをロンドに教えてあげたいのだ。


今のロンドの姿があの頃の……魔女と出会ったばかりの外の世界を怖がるシルヴィアに似ていたから。


(でも、今はわかります。…師匠が言っていたことが…)


魔女は、シルヴィアに無理に交友関係を築かなくて良いと言いながらも時々、頭を撫でながらシルヴィアに言い聞かせていた言葉があった。




その言葉を言う時は決まっていつも満月の夜だった。


魔女は窓際に座り、月光を浴びながら言う。その姿は儚く、まるで絵本にでてくる月の妖精【ルナ】のようだった。


『シア……あんたが思っているほどこの世界は怖くないんだよ。今は無理かもしれないけど、、いつか、、いつかあんたもわかるよ…きっと、“あの子”のように……この世界は……』


魔女は、シルヴィアに誰かを重ねて見ているようだった。最初は、気づかなかったが魔女と日々を重ねるごとに、魔女はシルヴィアを通して誰かを見ているのだと気づいた。


シルヴィアは何度か魔女に聞こうと思った。が、とても聞ける雰囲気ではなかった。それは…魔女がとても泣きそうな顔でシルヴィアに話していたから。


だからシルヴィアは、最後まで魔女がいう“あの子”について聞けなかった。だが一つだけ分かることがあった。それは……


“あの子”の瞳がシルヴィアの左眼と同じ月の色をしていたことだ。


だから魔女は、シルヴィアをほっとけなかったのだろう……


シルヴィアに“力”の使い方や知恵を授けたのだろう……


同情からシルヴィアを助けたのだろう……


だが、そんな事はシルヴィアにとってはどうでもいいことだ。今のシルヴィアがいるのは魔女のおかげだから。自分の殻に閉じこもってばかりいたシルヴィアを最初に殻の中から出してくれた人だから。


だからシルヴィアにとって魔女は“師匠”でもあり“恩人”でもあり“母”でもあるのだ。


「師匠…確かにこの世界は怖くありませんね……とても優しくて、あたたかい世界です。」


シルヴィアは窓から見える満月を見て魔女の顔を思い出した。

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