2話
あの後、現場対処はエヴァンスと騎士団、他の魔法士達に任せてシルヴィアは宮殿に帰還した。帰還したシルヴィアは、今回のことを報告するために急いで師団長室に向かった。
(まさか…あんな物を使っていたなんて……)
「師団長、失礼します!」
「うわっ、びっくりした!!……どうしたんだい?シアくん」
勢いよく扉を開けたシルヴィアにルインは驚いた顔をしたが、シルヴィアの深刻そうな顔を見てすぐに切り替えた。
「…郊外任務で何かあったのかい?」
「はい…実は……」
シルヴィアは発見された小袋と術式が書かれた紙をルインに見せた。
「これは……?」
「この小袋の中の粉は、クロヴァンス公爵領で自生している薬草を粉末状にしたものです」
「薬草?」
「はい、微量なら害にはなりませんが…大量摂取すると幻覚や錯覚を起こさせ、人の判断力を低下させるものです」
「大量摂取!?」
「そしてこちらの術式……」
「何の術式なんだい?今発見されているものは“魔力増量”“圧縮”だったはずだよね?」
「はい、今まで発見された術式は魔獣に使われていたものだと結論づけましたが…この術式は“洗脳”…魔獣、人間、両方に使えるものです」
「洗脳!?」
通常の人間ならこの術式…“洗脳”にはかからないがシルヴィアが持っている薬の粉末状があるのなら話は別だ。
「今回の郊外任務では、街の人々が魔獣を護るよに騎士団を押さえ込んでいました。」
「まさか……」
「この薬の粉末と“洗脳”の術式を用いたのでしょう……」
「…よく、シアくんは知っていたね」
「……師匠から教わりましたから。」
「あー、うん、魔女はなんでも知ってるよね…」
ルインはシルヴィアの師匠…“魔女”の話題が出た途端、額に汗をかき始め遠くの方を見ていた。だからシルヴィアがバツが悪そうな顔をして言ったことにも気づいていなかった。
クロヴァンス公爵領…シルヴィアの元実家。シルヴィアは実家にある本を全てを読んだからこそ、この薬草の効果、使い方を誰よりも理解している。
だが、クロヴァンス家がシルヴィアの実家だとバカ正直にいうことはできない。だからシルヴィアは、魔女に教えてもらったとルインに嘘をついた。
(ですが何故、この方法が使われていたのでしょうか…この方法は、クロヴァンス家の者しか知らないはず…まさか、、、)
「…師団長」
「あ、すまない。なんだい、シアくん」
「この粉を…預かってもよろしいでしょうか?」
「シアくんがかい?別に構わないが…何をするんだい?」
「薬の濃度によっては、人を廃人にしてしまう可能性もあるので…この薬の濃度を調べたいのです。」
「廃人……。うん、そうだね。この薬の粉末の扱いはシアくんが1番詳しいと思うし、、うん、任せることにするよ」
「ありがとうございます」
「くれぐれも無理はしないように」
「はい、では私はこれで失礼致します」
「あぁ、お疲れ様。シアくん。後で報告書をよろしくね」
レインに一礼をし執務室を出ようとシルヴィアが扉に手を掛けた時
「あ!ちょっと待ってシアくん!!」
「?なんでしょうか…?」
シルヴィアはルインに引き止められた。不思議そうな顔をして振り向いたシルヴィアにルインは笑顔でいった。
「“例の”提案だが…私は採用するよ」
「!?」
「いやぁ、1週間前に提案書を渡されたのに答えが今頃になってすまないね。」
「い、いえ!全然、大丈夫です!」
「そうかい?一応、上の方には昨日のうちに申請したから、結果が分かるまではあともう一週間かかると思う。」
「はい」
「あ、ついでに“あちら側”には既に許可を貰っているから~上からの許可が降りたらすぐに導入しようと思っているんだ」
「え?もう既に“あちら側”には許可を頂いているんですかっ!?!?」
ルインの手配の速さにシルヴィアは驚いて声を荒げてしまった。
「あ、あぁ。シアくんが叫ぶなんて…珍しいね」
「っ!?し、失礼しました!」
「こちらも人員不足だからね…あの制度を導入するなら早い方が助かるしねぇ」
「あの……“あちら側”から危険という反対意見はでなかったんですか?」
シルヴィアがこの制度を提案する上での1番心配していたこと
それは……
「この制度には安全保障は無いんですよ?」
絶対的な安全を保証できないということだ
真剣な顔のシルヴィアにルインは微笑みながら言った。
「どうせ、あと1年したら知る世界だしねぇ~早くに知れて私はとても良いと思うよ?」
「ですが……」
「どこにいたって自分の身は自分で守らなければならない。それを彼らに理解してもらういい機会だと私は思うよ」
「そう、ですか……」
「“あちら側”も『是非とも、社会の厳しさを教えてやってくれ』と喜んで許可してくれたしねぇ~」
「……」
「楽しみだね~」
「私が提案したことなのですが……危ないことが起こらないことを祈っています。」
「ふふふふ、本当に…楽しみだね~」
「……」
不気味な笑みを浮かべるルインを見てシルヴィアは“例の”提案書を提出したことを少し後悔したのであった。
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