6話

ベルの呪いを解いてから私は彼と友達になった。



彼は私の奇異な外見に嫌悪を示さない。むしろ私の外見のことを褒めてくれた。


『シアの髪は月の光みたいで綺麗だね。

黄金の左眼は月みたいだ。

深い青の右眼さ夜空の一角を切り取ったみたいだ』と……


私は嬉しかった。左右違う瞳の色で“バケモノ”と言われ続け、嫌悪された外見をベルが褒めてくれたことが。私の大好きな月と夜空に似ていると言ってくれたことが。



何よりも…彼が私のことを“人”として見てくれることがなによりも嬉しかったのだ。



私とベルは、ルナ宮殿の上級魔法士である私に与えられた研究室兼執務室で交流を深めた。



シルヴィアは実家のクロヴァンス公爵家にバレるのを恐れ、ルナ宮殿からは出ないようにしていた。祝辞の際に必ず上級魔法士として公の場に姿を現す時は髪と眼の色を変え、認識阻害の術式を用いて出席した。それほどまでに私は“母親殺しのシルヴィア・クロヴァンス公爵令嬢”と知られたくなかった。ただの“上級魔法士シルヴィア”としての存在を守りたかった。


魔法師団入団の際に書いた魔法士名簿にも私は“シルヴィア”としか書かなかった。私がクロヴァンス公爵家のシルヴィア・クロヴァンスと知るのは私の師匠の魔女だけ。その師匠も今は隣国へ行ってしまいいない。



きっとベルは私がシルヴィア・クロヴァンス公爵令嬢と知っても今まで通りに接してくれるだろう。


でも、怖かった……


初めてできた“友達”を失いたくはなかった。だからベルには『人見知りで、怖いからルナ宮殿外からは出れない』と説明した。ベルは私を気遣って私をルナ宮殿から連れ出したりはせず、私に会いにルナ宮殿に来てくれた。



だが、ベルとの楽しい日々はベルの隣国への留学が決まり終わりを告げる。



「もぅ……ベルとは会えないの?ベルとお話できないの?」


私は初めてできた友達と離れることがとても悲しかった。


「シア、一生会えないわけではないよ?」


「でも……悲しいよ。」


「ねぇ、シア」


「?」


「約束をしようよ

私が隣国から帰ってきたら、またシアの研究室でお茶を飲んで色々な話を語ろうって…約束を」


「うん…」


「私が帰ってくるまで…待っていてくれる?シア」


「わかったわ、ベル

私は研究室でベルを待っているわ」


「ありがとう、シア」


ベルはそう言い残して隣国へ旅立った。



◇◇◇



「ベルが隣国へ留学してからもう5年も経つのね……」


ベルが旅立ってから私も学園へ入学し結局、ルナ宮殿にある研究室には年に2回しか通わなくなった。


魔法師団長には、『とある事情があり、6年の宮殿勤務は難しい為、在宅勤務でお願いします』と言った。最初、師団長は渋っていたものの私が『古代語の解読を専門的にやるので』と言えば快く承諾してくれた。


「上級魔法士と言っても私は実地任務の経験が少ない…学園を卒業してルナ宮殿で戻れたら、実地任務を中心にしないと……」


学園卒業まであと2週間……


「ここでの生活は“孤独”そのものだわ…

早く…早くに帰りたいわ。

ルナ宮殿に…ただのシルヴィアとして…」


シルヴィアの心を写すように今日は薄月だった。





クラウスから婚約破棄をされ、クロヴァンス公爵家から絶縁を言い渡されてから1週間が経った。最近、学園で私は周りから視線を感じる。


(いったい…何なのかしら……)


教室にいても、廊下を歩いていても、食堂で食事を摂っていてもずっと周りから視線を感じるのだ。視線の原因は、クラウスの婚約破棄の事だろうか…クロヴァンス公爵家から絶縁された事だろうか……。


(正直、落ち着かないわね)


シルヴィアは食堂ではなく、学園の広い迷宮庭園で食事を摂ることに決めた。



「はぁ…ここなら入り組んでいて人も来ないはずよ」


シルヴィアは食堂のシェフに頼んでおいたバスケットを開けた。バスケットの中にはバケットに生ハム、チーズ、レタス、トマト、ソースが挟まっているサンドが食べやすいように切って入っていた。


「うふふ、美味しそう…

主よ日々の恵みを感謝致します。

では……」


シルヴィアがお祈りをして一欠片のバケットを食べようと口を開いた


その時……



ーぐぅぅぅーーーっ!



「え?」


シルヴィアの後ろからお腹の鳴る音がした。振り向くとそこには紫紺の髪をお下げにした黄緑眼の女子生徒がいた。


「えっと…あなたは?」


「あ、その、ごめんなさい!!

お食事中のお邪魔をしてしまって!!

失礼しま……」



ーぐぅぅぅーーーっ!



「……」


「…す、すいません…」


「うふふ、もしかしてお腹が空いてるの?」


「あ、その…」


「もし良ければ、一緒にいかが?」


「えっ…で、でも、、私…平民です…し…」


「かまわないわよ?

量が多くて1人で食べ切れるか困ってたの、だから人助けだと思って…どうかしら?」


「そ、それなら…ご馳走になりますっ!!」


「うふふ、なら良かったわ

私の隣にいらっしゃい」


「はいっ!

あ、自己紹介がまだでした!

私、3学年の魔法科所属 メリダといいます!」


「自己紹介ありがとう

私は4学年 特進科所属 シルヴィアよ」



この日、メリダと出会ったことでシルヴィアは視線の理由を知ることになる……

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