第16話 紳士な師匠ですね
それからレイナはニコラの下で魔法の修練をしながらメイドとして働いた。
魔力循環と操作も上手くなってきたとレイナは自身の成長を感じている。
そしてその合間に剣の修行をすることになった。
今日がその初日だ。
「初めましてお嬢様。わたくしこの屋敷の執事をしております、サムエルと申します」
「初めましてサムエル様。私はここのメイドとして働かせていただいておりますのでレイナと呼び捨てで構いません」
お嬢様なんて言われたら恐縮してしまうとレイナは提案する。
「分かりました。本来でしたらレイナさんとお呼びするところですが、剣術の弟子になるという事ならレイナと呼ばせていただきましょう」
後から分かった話だがサムエルは使用人の女性にも皆、さん付けしている。
何かポリシーがあるのだろう。
それでも剣術の弟子としてレイナと呼ぶ事にした様だ。
(あれ? そう言えばニコラ様に名前を呼んでもらったことが無いかも!)
今更ながら、お前としか呼ばれたことが無い事にレイナは気が付く。
(認められないと名前を呼ばないとか?)
ニコラならあり得るかもしれないとレイナは思う。
強くなって認められる様に頑張らなければならない。
だか今は剣術に集中だとレイナは気を引き締める。
「サムエル様、よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします。レイナはニコラ様から魔力循環を習っていますね?」
「はい。何時でもどこでもやる様に言われています」
今もレイナはニコラの言いつけ通り、ぐるぐると体内で魔力を循環させている。
「結構です。剣術にも応用が効きますので欠かさず行ってください」
「応用ですか?」
「ええ。例えば魔力を纏った木剣と纏っていない物でしたら圧倒的に違いが出ます。実際に見せた方が早いですね」
そう言うとサムエルはレイナに木剣を渡す。
「魔力を纏わずに私に打ち込んでみてください」
打ち込むって普通に木剣を振り下ろせばいいのかな。
前世の漫画でそんなのがあった。
レイナは真似してやってみる。
「えい!」
掛け声と共に打ち込んだ木剣は、サムエルの木剣に当たった瞬間砕けた。
「うわっ!」
サムエルは同じ場所に剣を構えていただけだ。
それでも木剣が粉々になる事にレイナは驚きの声を上げる。
「この様に魔力を纏っていない物は簡単に破壊されてしまいます」
「す、凄いですね」
「魔力循環の練度にもよりますが相手の武器を破壊出来ます」
「そうなのですね」
ニコラも魔力を物に纏える言っていた。
理屈では分かっていたが、実際に見た衝撃は違う。
ニコラが初めに魔力循環を教えるのも頷ける。
これを極めれば凄い事になるだろうと、レイナは気分が高揚してくるのを感じる。
「矢に魔力を込めれば魔力を纏っていない者など、ひとたまりもありません」
「えっ! そうなのですか」
「ええ、簡単に貫かれてしまうでしょう」
(毒矢にやられた時って肩に矢が刺さっていたよね?)
レイナは盗賊に襲われた時の事を思い出し身震いする。
「私、盗賊に毒矢で射られたのですけれど、矢は貫通しませんでした」
「それは魔力を込めていなかったのでしょう。込められていたら危なかったかもしれませんね」
(うう、そうなんだ。助かって良かった)
毒矢でも十分に苦しかったのだが、あんな思いは二度としたくないとレイナは心の底から思う。
「毒矢を使うぐらいなら大した相手ではなかったのでしょう。盗賊にはそう言う者が多いと聞きます」
「どういう事でしょう?」
「魔力を正しく扱える者なら盗賊にはなりません。他に働く方法がいくらでもありますからね」
「そういう事ですか」
魔力が扱えない人間は道具に頼るって事なのだろう。
使えても練度が足りない者が多いのかもしれない。
レイナも魔力循環を鍛えれば、盗賊に負けない様になれるはずだとの考えに至る。
(あれ? そうなると不思議なことがあるよね?)
レイナはあの時の事を思い出しサムエルに確認する。
「イーサン様は魔力循環は出来るのでしょうか?」
「もちろんでございます。王族の方々は魔力をお持ちなので小さい時から修練されています。イーサン様は優秀な方です」
この世界では魔力を持っている人間といない人間がいる。
そしてレイナの様に魔力が有っても体内を循環させなければ意味がない。
普通の矢ですら体に刺さってしまう。
でもイーサンは魔力を持っていて小さい時から鍛えてもいた。
「では、その盗賊にイーサン様が背中から射られても平気だったという事でしょうか?」
「はい。イーサン様の練度でしたら矢など弾いてしまうでしょう」
「うわ、私がやった事って無駄って事なんですね!」
あんなに痛い思いをしたのに何てことだろう。
レイナがショックを受けているとサムエルは言う。
「経緯はイーサン様より聞いております。その盗賊が放った矢から貴女が庇ってくれた事を」
「でも、自力で守れたって事ですよね?」
「その可能性は高いでしょう。しかし万が一があります。家臣として主を守ってくれた貴女に感謝いたします」
サムエルはレイナに頭を下げる。
護衛であるラウル達も特に驚いていなかったのも、盗賊達の力量をみて分かっていたのかもしれない。
主を害する力量がある者は、あの盗賊達にはいないという事に。
レイナは複雑な思いがあるがイーサンが無事であった事が大事であろうと考えを帰結させる。
「では、稽古をはじめましょう」
サムエルの声が静かに響いた。
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