第5話 盗賊って本当にいるんですね

 次の日朝早くからレイナは出発する。


 離れた街まで行く荷馬車にお金を払いレイナは乗せて貰う事になった。

 荷台にスペースを開けて貰い座る。

 長距離であり護衛も付いているので料金が高いのは仕方がない。

 安住の地を目指すなら多少の出費は必要だとレイナは切り替える。


 道中、暫くは順調に進んでいたが急に荷馬車が止まった。

 騒ぐ様な音や声が聞こえてくる。


(何事だろう?)


 レイナが外を確認しようとすると大声が聞こえてきた。


「と、盗賊だ! 囲まれているぞ!」


「えっ、盗賊! うそ!」


 盗賊なんて本当にいるのだろうかと信じられない気持ちだが、レイナは周りから見えない様に奥の方で荷物の間に身を潜める。

 

(護衛の人達もいるので大丈夫だよね?)


 レイナは自分が震えている事を感じる。


 武器が交わる音や怒号、悲鳴が響く。

 自衛するにもレオンに貰った剣だけでは心もとない。

 もし踏み込まれたら対処出来るだろうか?

 レイナがそんなことを考えていると外が静かになる。


「よし、お前ら積み荷を奪え!」

「「「へい!」」」


(ええっ、護衛の人達やられてしまったの? まさか死んだりしてないよね?)


 ガサゴソと荷馬車に乗り込んでくる気配がする。


(ううっ)


 レイナは出来るだけ体を縮めて荷物の間に隠れる。

 しかし遂に見つかってしまう。


「おっ! ラッキーだな。女がいるぞ!」

「きゃっ!」


 レイナは手を掴まれ強引に外に出される。

 

「い、痛い。は、離して!」


 掴まれた手は痛み、力では勝てそうにない事をレイナは悟る。


「おお、こいつは上物だな!」

「ぐへへ」


 盗賊達の中央に放り出されたレイナは、レオンに貰った短剣を抜いて構えた。

 レイナは恐怖で剣先が震えるのが自分でも分かったが、気丈に振舞い何とか声を出す。


「ち、近づかないでください!」

「ひゅー、その剣でどうしようって言うんだ、お嬢ちゃん」

「おお、いいね」


 男達はへらへらと気持ちの悪い笑みを浮かべている。

 盗賊の一人が剣を抜く。


「うっ!」


(こ、怖い)


 人に剣を向けられるなんてリーネの時もなかったし前世でも勿論ない。

 レイナの震えは大きくなる。


「キンッ!」


 案の定、レイナが握っていた剣はあっさりと弾かれ飛ばされる。


「痛っ!」


 レイナは痺れた手をおさえて後ろに下がる。

 こんなことなら筋トレとか剣術でも学んでおけばよかったと思うが今更であるとレイナは認識する。


「それで次はどうするんだいお嬢ちゃん?」

「ううっ……」


 盗賊達はレイナをいたぶって楽しんでいるようだ。

 レイナは一番上の兄を思い出す様な笑みをしてくる盗賊達を見て気分が悪くなる。

 

(不味い、どうしよう、何か打開策は……)


 周りを見回しても盗賊ばかりであり、走って逃げても直ぐに追いつかれるだろう。


 レイナは攻撃魔法を持っていない。

 何とか心を落ちつけようと、平静を装う事にレイナは努める。

 

(そうだ! 私の能力【拒絶と吸収】しかない)


 盗賊達からスキルを吸収して使う。

 それ以外に助かる道はない様に思えた。

 レイナは手あたりしだいに盗賊達に【鑑定】をかける。


「な、なんで何にも持っていないの!」

「はあ、何を言ってるんだ、この女?」

 

 盗賊達は一応スキルはあるのだが魔法は何も持っていない。

 剣術とか弓術とかあっても今は役に立たない。

 盗賊なら攻撃魔法ぐらい持っていてよ、とレイナは心の中で愚痴る。


 すると周りが慌ただしくなった。

 

「ちっ、援軍か?」


 盗賊達はレイナを囲みながらも後ろを確認する。

 どうやら遠くの方で盗賊達と戦っている人達がいる様で騒がしい。


「女は後にしろ! 行くぞ!」

「ちっ! あとで可愛がってやるよ!」


 盗賊達は全員そちらに向かう。

 何人か残っていればいいのだが、レイナ程度なら逃げても後でどうにでもなると盗賊達は思っているのだろう。

 確かにレイナの脚力では盗賊達には勝てない。

 盗賊達の判断は間違っていないだろう。


「えっ、……た、助かった~」


 盗賊達が直ぐに戻ってくるかもしれないので逃げなければならない。

 レイナは切り替えレオンから貰った短剣を拾う。

 でもどこに逃げればいいのか分からずレイナは周りを見回す。


 恐怖で足が震え、レイナはまともに思考出来ない。

 体の大きな男達に囲まれて威圧されれば仕方がない事なのだろう。

 受けた恐怖は計り知れない。


 そして、もたもたしている間に声を掛けられてしまう。


「おい! そこの女!」

「ひっ!」


 レイナは変な声が出てしまうも、恐る恐る振り返る。

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