第23話 僕の新旧クラスメイト

「おい、南雲。てめえ最近調子にノッてるらしいな」

 昼休み、奈菜の手作り弁当をいつものメンバーで食べた後、午後の授業が始まる前にトイレを済ませておこうと思い一人でトイレに行くと絡まれてしまった。 

 僕に絡んできたのは、昨年同じクラスだった光岡何某君とその他2名だ。悪いけど光岡君以外の人の名前は分からない。見覚えがあるので、同じクラスだったという事くらいは分かるのだが……。

「てめえ、無視するんじゃねえよ」

 別に調子に何てのって無いんだけどな。今回も瑞樹か奈菜絡みの件だと思うけど、今日はどっちだろうか。

「何で水瀬さんはこんな陰キャ野郎と付き合ってんだよ」

 どうやら瑞樹がらみだった様だ。

 それは僕の方が聞きたいことだね。怖くて聞けないけどね。

「おい、南雲。どうせお前がなんか水瀬さんの弱みでも握って脅してるんだろ」

 あの水瀬瑞樹相手に脅しなんてかけようものなら、翌日には海の底だよ。

「黙ってないで、何とか言えよ。この陰キャが!」

 何を言っても聞く耳を持たないバカ共の癖に何をほざいているのか。

「何とか」

「舐めてんのか、ゴラァ」

 ほらね。何とか言ったのに、怒るんだから。本当に脳みその小さな奴らを相手にするのは疲れるよね。

「いや、舐めるなんて、そんな汚い事は出来ないよ。感染症で死んじゃうじゃない。君、何か汚そうだし」

「殺す!」

 怒った光岡君が殴りかかってきた。ここで華麗に躱して彼を投げ飛ばしたり出来たらかっこいいんだけど、あいにく僕にはできない事なので、大人しく殴られる。が、あまり痛くない。奈菜の拳に比べたら、石が当たるのとゴムボールが当たるくらいの違いがある。

 やっぱり奈菜の一撃は殺人級の一撃だったんだな。あれに慣れちゃったから、この程度だったら、10発くらいは貰っても大丈夫かな。

「僕を殴って、満足した? もう一発殴るかい?」

「こいつ、おい、こいつを取り押さえろ。もう許さねえ」

 光岡君が完全にキレてしまった様だ。取り巻きの二人が命令に従って僕を取り押さえる為に、背後に周りこんで僕の両腕を掴んだ。


 めんどくさい事になったな。大人しく殴られとくかな。


「南雲さん、助けに来ました」

 誰かからもめている事を聞いたのであろう、1組の男子達が総勢で助けに来てくれた。 

「くそ、てめえ等大勢で卑怯だぞ」

「一人相手に三人で囲むのは卑怯じゃないのか」

 壱号こと、一条君が言い返す。

「そうだ、師匠に手を出す奴らは許さん」

 弐号こと、二宮君も威勢よく突っかかっている。

「……」

 参号こと、三枝君は何も言わない。

 その他のクラスメイトも光岡君達を糾弾したり、動画を撮影したりしている。


「くそ、覚えてやがれ」

 ぷっ。どこぞの三流ヤンキーみたいなセリフを残して、捕えていて僕を突き飛ばして、光岡君達は去っていった。


「大丈夫ですか、南雲さん」

 一条君達が駆け寄って起こしてくれる

「うん。大丈夫だよ。皆ありがとう。助かったよ」

「何言ってるんですか、南雲さんが七瀬さんを押えてくれているから、今俺達が生きていられるんですから、持ちつ持たれずですよ」

 でた、奈菜を異常に恐れるクラスの謎。一体僕が入って来る前に何が起こったんだろうか。奈菜に聞いても多分怒るから聞けないし、クラスメイトに聞いても震え出したり、吐いたりして何も聞き出せないのだ。


「さあ、南雲さん。昼休みが終わるの早く教室に戻りましょう。皆、南雲さんを教室まで運ぶぞ」

「「「おー」」」

 僕は胴上げされる監督さながらの格好で教室まで連れて帰られた。他のクラスからの好機の視線が痛かったし、連れて帰る前にトイレに行かせて欲しかった。お蔭で授業中にトイレに行く羽目になり、これまた恥ずかしかった。


「南雲君、ちょっと話があるんだけど、今大丈夫かな」

 放課後、帰宅の準備をしていると、昨年クラス委員をしていた川上君に声をかけられた。

 今日は去年のクラスメイトに絡まれる日だな。

 まあ、川上君は昨年も孤立している僕にも普通に接してくれたし、陰キャ、陽キャ、中立派で分けると中立派の代表みたいな人だから、陽キャ代表の光岡君みたいな事は無いと思うけど……。

「南雲君、久しぶりだね。登校できるようになったみたいで安心したよ」

「う、うん。川上君、ありがとう。それで話って何かな」

「今日、光岡君達ともめたって本当かい?」

 川上君の耳にも入ったのか。これは瑞樹の所にも情報が回っていると思った方が良さそうだ。

「その顔は本当みたいだね。それで忠告に来たんだけど、彼ら、人数を集めて帰り道で待ち伏せするって騒いでたんだ。帰り道、気をつけて帰りなよ」

 それを僕に教えに来てくれたんだ。川上君は良い奴だな。僕なんかの心配をしてくれるんだから。流石クラス委員だね。

「そ、それでね。本題なんだけど――」

 あれ、さっきのは本題じゃなかったんだ。では、一体何の話だろうか。

「南雲君って、七瀬さんの従弟なんだってね。七瀬さんに僕をご紹介頂けないだろうか」

 そっち系のお話でしたか。教室で暇そうに僕を待っている奈菜を呼ぶ。

「奈菜、こちら川上君。去年のクラスメイト、川上君、こちら七瀬さん。僕の従弟」

 はい、紹介終了。

「で、何」

 僕に詰め寄る奈菜。

「いや、川上君が紹介して欲しいって言うから紹介したんだけど」

「ふーん。川上君だっけ。何の用」

 教室の方から、「また罠にかかった獲物が来たぞ」とか「バカだなあいつ、死ぬぞ」とかいろいろな声が聞こえてくる。

「あ、あの、宜しければ、お友達なんかになっていただけないかと思いまして」

「優弥。川上君は良い奴? 悪い奴?」

 奈菜が僕に質問してくる。川上君は奈菜の後ろで「頼む」と言わんばかりに手を合わせて拝んでいる。

「普通?」

 そんなに深い繋がりが無いのでよく分からないけど、害も無いのでそう答えておいた。

「どうしようかな? 考えてもいいわよ」

 川上君が大歓喜している。

「うっそー」

 川上君が死にそうな顔をしている。

「だってねー。あなた優弥のクラスメイトだったのよね。一回も病院で見かけていないのよね。お見舞いとか来たことあるのかしらね」

 川上君の顔色がますます悪くなってきている。

「そんな薄情な人と友達かぁ。私もあっさりと見捨てられるんだろうな」

 もはや、泣きそうな顔になっている。そろそろ許してあげて。陰キャな僕が悪いんだよ。誰とも交流して無かったんだから。

「まあ、出直して来たら」

 川上君はしくしくと泣きながら帰っていった。ブレイカー奈菜の本領発揮だね。


「時間の無駄だったわね。優弥早く帰るわよ」

「それがさ――」

 僕は先ほど川上君から忠告された待ち伏せの事を奈菜に話した。

「大丈夫よ。気にしないでも。どうせ瑞樹が何とかしてるでしょ」

 そうかな? 瑞樹が気付いていない可能性もあるし、なるべく危険の無いよう帰りたいんだけど。

「タクシーで帰らない?」

「帰らないし、帰らせない。少しでも訓練になるのよ。しっかり歩きなさい」

「じゃあ、遠回りして帰ろうよ」

「それだったらいいわよ」


 という事で今日は遠回りをして帰る事になりそうだな。

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