第18話 僕の顧問依頼

「奈菜、どうしよう」

「どうもこうも無いわ。決まった以上やるのみよ」

 そりゃそうなんだけどね。その方法を聞いてるんだけど……。

「顧問かぁ。どうしよう」

「顧問だったら大丈夫です。私の母にお願いしましょう」

 確か、有栖川先生は今年から赴任されたので今は他の部の顧問になっていないのだろう。

「じゃあ、お願いに行こうか」

 職員室へ向おうとすると有栖川さんに止められた。

「南雲さん、そっちじゃないです。母はこっちだと思います」

 そっちってグランドじゃないの。

「たぶんレスリング部の練習を見てるはずです」

 ん。レスリング部。顧問をされてるのか?

「レスリング部の顧問をされてるの?」

「違いますよ。練習を見てるんです」

 だから、それって顧問じゃないの?


 有栖川さんの後に付いていくとそこは武道場だった。そこには確かに先生がいて、練習をいた。

 うっとりした顔をして、ただ見ていた。


 あっ、これ駄目なやつだ。

 有栖川さんにこっそりと聞いてみた。

「若しかしなくても、先生も君と同じ趣味を?」

「ええ、恥ずかしながら……。私は母の影響で興味をもちまして……」

 つまりあれは、男同士の絡みあいを見て楽しんでいるのだろうな。せっかくの美しい顔が台無しの緩んだ顔をしている。


「有栖川先生、ちょっとよろしいですか?」

 先生を見つけた奈菜が声をかけた。角度の問題で奈菜と三宅君は先生の趣味に気がついていない様だ。

「あら、七瀬さん。何か御用ですか?」

 先生は見事な早業でいつもの淑女の表情に戻り、平静を装っている。

 すごいな。見事な早変わりだな。僕だったら動揺してしまって、普通の対応なんてできないんだろうな。

「ほら、優弥」

 また、奈菜が僕に振ってくる。声かけたのなら、最後まで言ってくれればいいのに。

 僕は先ほどの生徒会長との話を先生に伝え、顧問になっていただけるようにお願いした。

「分かりました。顧問の件、お受けいたしましょう。部の名前はそのままライトノベル部で良いでしょう。その方が文芸部との違いも分かり易いですしね」

 ぐいぐいと率先して動いてくれる。非常にいい先生に顧問になって貰えたかもしれない。

「それでね、書かないといけない小説なんだけどね、誰かBL書く人いない? 先生特に応援しちゃうわよ」

 せ、先生、もしかしてそれが目的ですか? これはなかなか厄介な母娘おやこを仲間にしてしまったかもしれない。


「会長、これでいいでしょ」

 再び生徒会室に殴り込み、部への昇格申請書を会長に叩きつける。僕じゃなくて奈菜が。

「いいだろう。部への昇格を認めよう。ほら、これが部室の鍵だ。部屋は本棟B館の4階だ。文芸部の隣の部屋にしておいたから切磋琢磨したまえ。ハッハッハ」

 よりにもよって、そんな場所をにするなんて嫌がらせかよ。

「南雲君、待ちたまえ」

 立ち去ろうとした所で会長に呼び止められた。

「何かご用でしょうか?」

「瑞樹君は渡さないからな」

 それまでのにこやかな表情から無表情になった会長に脅されてしまった。恐らく僕だけにしか見えていないし、聞こえていないだろう。狡猾な方だ。


「優弥、やったわね。さっそく部室を見に行きましょ」

 その後、皆で与えられた部室に向かってみたが、その荒れように驚いた。

「これは、新手の嫌がらせじゃないの!」

「流石にこれは酷いっすよ」

 部室として与えられた部屋は倉庫として使われている部屋だったのだ。そこには所狭しと置かれている机や椅子。何に使ったのか分からない、謎の木像や車のタイヤ。如何わしい本。挙句の果てには女性物の下着なども落ちていた。

「あの会長、シメめてやろうかしら」

 止めときなさい。奈菜が最近物騒な事を言うようになってきた気がする。貴方は暴君か何かでしょうか。

「今日は如何しようもないから、取りあえず、明日から少しずつ片づけていこうか」

 僕の提案に皆が納得してくれたので、明日の放課後からゆっくりと片づけていくことに決まった。

 正直、どこから手をつけたらいいか分からないから、先送りにしただけだ。


 そして学校からの帰り道。今日は瑞樹が現れなかったので、部活帰りのまま、奈菜と一緒に帰っていた。

「優弥、ごめんね」

「えっと、何の件?」

 君がやらかした件が多すぎてどの件の謝罪か分からなかった。

「部活の件よ」

「ああ、それ。でどうして奈菜が謝るの?」

 正直、どうしたものかと思っていた。部室の掃除の件もそうだが、学際での発表の方が大問題だ。小説なんて簡単に書けるものじゃない。

「もしかしたら、優弥は静かに部活をしたかったんじゃないかなって」

 そうだね。僕は目立ったり、騒がしいのは嫌いだ。

 そう、嫌いだったはずなんだ。

 なのに、なんで僕はこんなにもわくわくしているんだ。

「それが、そんなに嫌って訳でも無いんだよね。不思議な事に。奈菜と一緒だからかな?」

「な、な、何恥ずかしいこと言ってんのよ」

 今日初の奈菜の拳が僕の腹をとらえた。道路に横たわる僕。完全に不意をつかれたので息ができない。

「もう。先に帰ってるからね」

 顔を真っ赤にして先に帰ってしまった。なんで急に真っ赤になるくらい怒り出したんだ?

 でも。律儀にかばんはきちんと持って帰ってくれている。怒っていてもその辺りは親切だ。


「いたたたた。また、威力が上がった気がするよ」

 奈菜は世界と取るつもりなのかな。こんどサンドバッグでもプレゼントしようかな。

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