王優(おう)

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意地の悪い王

昔々、ある所に心の器の小さな王様がいました。その王様は、国民から嫌われて・・・はいませんでした。




~日常~




「ミラ!ミラはおるか!?」


いつもと変わらない平和な王宮に、いつもと変わらぬ怒声が響く。


「陛下お呼びでしょうか?」

 王の第一秘書であるミラが王に尋ねると王は

「この使用人めが、わたしの皿を割りおったのだ。大事な皿を・・・。そこの使用人名を名乗れ!」


 そう言われると、さっきから念仏のように謝罪の言葉をつぶやいていた使用人は、顔を上げ。

「ルナと申します。」とおびえながら答える



名前を聞いた王は、ミラから紙を受け取るとその紙を読み上げる

「ルナ、本名ルナ苗字なし、ゴラクバルの奴隷階級出身、親の借金を返済するため下働きとして得た給料の大半を両親に仕送りをしている。」

 一通り読み上げた王はルナを見ながら



「ルナ、お前を地下の強制労働部屋に3日間収容する。」


そう言うと王はミラにルナを地下に連れて行くように伝えると、自分は執務室に入っていった。






コンコン・・・


「誰だ?」


「ミラです。」


「・・・入れ。」


「失礼します・・。陛下先程の対応は、どうかと・・・。」


その言葉を聞くと、王はこれまでにない仏頂面をして。


「仕方がないではないか、わたしはこのやり方しか知らぬ・・・。」


「しかし、元から割れている皿を紛れ込ませてそれを・・・」

「もう、それ以上言うな!!!」

王はそう吐き捨てると、それ以上話さなかった。






皿騒動から数時間後、王宮にある情報が届く。


「陛下!大変です!」


一人の衛兵が扉を突き破るように入ってきた。


「何事だ?!」


「隣国のニチマン帝国が、ゴラクバルに侵攻してきました!」


「遂に来たか・・・付近に住民は?」


「軍備拡張工事の為、周辺住民は強制退去させています!」


「よし・・・。では、手はず通り最大火力で迎え撃つぞ!」


「イエッサー!!!」


 それから約3日間、王国と帝国による一進一退の攻防が続く中、王はある日の戦争の事を思い出していた。






~昔~





その戦争は、王国建国史上最大犠牲を払った。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


王は、しばらく兵士の遺体が無造作に置かれた荒野をただぼう然と眺めていた。


「陛下・・・陛下のせいではございません。」


「いや・・・わたしのせいだ・・・国家間の争いに、たとえ兵士であっても国民を巻き込んでしまった・・・」


「でもそれは、仕方のないことです。」


「人の命が失くなって仕方のないことなどない!!」


「!・・・陛下・・。」


「わたしはどうすればいい・・・どう、この兵士達を弔ってやればいい・・・。どうこの勝利を正義と言えばいい・・・・。」


「ならば陛下なりましょう。」

 

「何にだ?」


「悪い王にです。」


「悪い・・王?」


「もちろん完全に悪になるのではありません。外面だけでいいのです。国を・・・国民を守る為に周辺国から恐れられるような悪になるのです・・・。正義はその後語ればいいんです・・。」


「・・・・・・・・・・」


長い沈黙。その間に王の表情が力強く変わったのを見たミラは微笑みながら


「陛下・・・王宮に戻りましょう・・・。」


「あぁ・・・」


王の返事はとても力強く、迷いはなかった・・・。






~皿~



両国合わせて約2千人の犠牲を払い、戦争は終結し王は後始末に追われていた―――



コンコン・・・


「陛下、強制労働からルナが戻りました。」


「王様、これを・・・」


ルナの震える手にはとても上手とは言えない皿が乗っていた。


「よくやった・・・大義である・・・ミラ―――――。」

王がルナに目配せするとルナはカートを押してきてその上にしいてある布を取り

「・・・ルナ、これを受け取りなさい。」


「これは・・・」


そこには彼女の給料を遥かに超える金額が積まれていた。


「でも強制労働と・・・」

 ルナが戸惑いながら言うと


「わたしは、ただ働きとは言っておらぬ・・・。」

 王はそっぽを向きながら答えるその耳がほのかに赤い


「ありがとう・・・ございます・・・・ありがとうございます。ありがとうございます・・・・・・」ルナは何度もお礼を言って涙ぐみながら金を受け取る。




「これでご両親の借金を返すがよい。」


「はい!」

ルナは満面の笑みで答えた







これからも王は怒鳴るだろう。しかしそれは王の小さくて不器用な優しさである。




               ~終わり~

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