【 酒を飲みながら料理 】


 10月25日 大沢家


「秋時さんのミットって、ほかの選手のよりも大きいんだね」


 菜都が仕事の手を止めて思い出したように言った。

 しゃべり始めたと言うことは、仕事にひと区切りがついたという事だろう。


「そうだね」

 

「わたし、昔から見ていて全然気づかなかったよ」


 モンブランの尖端をおれに向けながら微笑む。


「おれ、体デカいからミットの大きさが目立たないかもな。菜都は何故、わかった?」


「朔に教わった」


「・・・ふーん」


「あー、めずらしい」


 モンブランがツンツンとおれを攻撃する。


「なに?」


「なんか、今すごく嬉しそうな顔だったね」


 ・・・それはたぶん酒のせいだろう。ほろ酔い気分で顔が締らないから。

 

  手元に置いたグラスの中身を飲み干して、再びいいちこを注ぐ。

 残りのレモン半分をグラスに絞り込んで蒸留水で割る。


 

 ピピピピピピッ!

 

 

 キッチンタイマーが7分を告げた。

 

 寸胴鍋を引っくり返してザルにパスタを移し、水気を切っておいてからフライパンにオリーブオイルと刻んだニンニクを入れた。

 ニンニクを強火で炒める。


「秋時さんと朔って不思議な空気感があるね」


 いいちこをひと口飲んでから、パスタをフライパンに放り込んで、少し火を弱める。


「普通の親子さ」


 フライパンを振りながらパスタをかき混ぜる。博多産辛子明太子をたっぷり入れたホワイトソースに、ひと口サイズに切った固ゆでレンコンを混ぜ合わせる。

 ニンニクの焦げた匂いがキッチンに広がった。


「よっしゃあ!」


 菜都が突然叫んでパソコンを閉じた。


「いい匂い。朔、呼んでくるね」


 リビングの菜都がモンブランにキャップをしながら、立ち上がった。

 ついでに伸びをしている。

 そのまま腕を伸ばしたままの姿勢で朔の部屋に歩いて行った。


「おうよ」


 背中で返事をしながら、いいちこをひと口。


 冷蔵庫から大根とツナのサラダを出してテーブルに並べる。

 刻み海苔をサラダにのせる。


 火を止めてパスタをトングで、皿に盛り付ける。

 明太子ソースをたっぷりかけて、その上から大量の刻み海苔をてんこ盛りにする。


「出来た」


 昔から酒を飲みながら料理をするのが好きだった。

 テンションが上がって楽しい。


 すぐにドタバタと騒がしい二人の足音が響いてきた。


「~♪ うがい 手洗い 家事 おやじ ~♪」


 ケタケタと笑いながらリビングを通り過ぎた二人が、競うように洗面所へ駆け込んで行った。


 ・・・アホか

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