一つ屋根の下~学校一の不良(と思われている青年)と学校一の高嶺の花(だった少女)~
清水裕
彼と彼女の日々
彼女から見た彼、彼から見た彼女、彼女らを見る第三者・プロローグ
真樹狛零の一日
化初はこの県ではかなり有名な会社のご令嬢であり、俺が通う共学(という名の学び舎は左右に分けられての完全に男女別)の生徒会長だ。
清廉潔白、文武両道、誰にでも優しく歩く姿は優雅であると言われ、聞くところによると歩くたびに白いユリの花が見えたとかいう幻聴を語る者さえもいる。
一度病院に通うことをお勧めする。
彼女の特徴と言えば、日の光を浴びて綺麗に艶を出す腰下まである長い黒髪と陶磁器のように白く綺麗な肌。
推定身長163センチ、体重不明(調べようとした者は闇に葬られたとか)。
胸は小さいけれど大きな夢が詰まっている。あと薄いけれど柔らかい。
そして通う学校の制服は白色を基調としたワンピースみたいなひざ下までの丈がある制服。
一応清楚や清純をイメージしているようで、素朴な子が着ていたら普通に可愛いと思う。
ちなみに男子は黒の学ランという少し時代錯誤な学生服だ。昔からの伝統らしいが、正直なところ俺はブレザーの制服が採用された学校に通いたかった。
そんなことを思いながら廊下から窓から中庭を覗くと、化初が生徒会役員を連れて歩いているのが見えた。
『ごきげんよう』
『『ご、ごきげんよう!』』
遠くからなのでよく見えないが、彼女が軽く頭を下げた瞬間、すれ違った女子生徒と男子生徒が勢いよく頭を下げるのが見えたから、きっとそう言っているに違いない。
そして声を掛けられた生徒達はきっとハッピーに違いないだろう。
「……ほんと、化けるのが上手いやつ」
ぽつりと呟きながら、俺は中庭から視線を外すと今見たことを忘れたとでも言うように歩き出した。
そんな俺を一度だけ、化初は見たけれど……俺は気にしない。
彼女とは一切関係ないのだから。
「ぅあ~~……、疲れた……」
夜8時、呻くように声を漏らしながら俺は家に帰る為にひとり暗い道を歩く。
等間隔に配置されている電柱に設置された電灯からの薄ぼんやりとした灯りと家族の笑い声、それと美味しそうな食べ物の匂いが鼻をくすぐり、何も入っていないお腹を刺激する。
家に帰って、早くこれを食べたい。そう思いながら、帰り道に購入したスーパーの売れ残りの弁当2つを見る。
何割引かのシールの上に半額のシールが貼られているのが何とも哀愁漂うけれど、買えるだけまだマシだと本気で思う。
「さて、問題は……あいつがジッとしているか、だけど…………無理だな」
勝手に居付いた同居人、その存在を思い出しながら俺は溜息を吐きつつ……一人暮らし用の格安アパートの部屋の扉に手をかける。
扉は……開いていた。あいつ、ちゃんとカギを掛けろよ。
危ないだろうと心から思いながら扉を開けると部屋の明かりとテレビの音が聞こえた。
「おふぁえりー」
部屋着として何時の間にか着ていた俺の長そでを着ている同居人は寝転がりながらテレビを見つつ、俺へと声をかける。
口にビスケットであろう物を咥え、寝転がっているからか無防備に曝け出された白色の上品そうなパンツとそれに包まれた尻を隠すことなく……だ。
そんな残念な姿を一度だけチラリと見て、すぐに見えている下半身から目を逸らし……部屋の壁に付けられたフックにかけられた制服を見る。
消臭スプレーを掛けて、撫でつけたからかシワ一つないピシッとした制服だ。
ただし、男性用ではなく……女性用の制服だ。
「ちょっとー、おかえりって言っているのに返事はないのかしら?」
「あー、ただいま」
視線を逸らしていたのが気に食わないのか、同居人は体を起こしてビスケットを口に運ぶとムスッとしながらこっちを見てきた。
だから軽く返事を返すと、彼女は「よろしい」と満足そうに頷いた。
そんな様子を見ていると……胡坐をかいた彼女の脚と脚の間から白い物が見えた為、少しだけ視線を動かす。
「……おい、そのお菓子の山はなんだ?」
「なんだって? わたしが食べていたお菓子に決まっているじゃないの」
「だから何でご飯を食べる前にお菓子を食べるんだって言ってるんだよ!? というか、そのお金はどうしたんだよ!!」
彼女が今食べていたビスケット、その他にもチョコ菓子、棒状のコーンスナック、小袋のポテトチップスの空が寝転んでいた場所に置かれていた。
それに対して彼女は何をおかしなことを言ってるのだろうかという風に俺に言うのだが、おかしいに決まっている。
だって、食事前にお菓子を食べるべきではないのだから、そしてそれらを買うお金はどうしたのだというのだと。
目の前の同居人はこれまでの生活でバイトなんて一つもしたこともないし、金銭感覚も万単位の金で運ぶのが当たり前な生活をしていたのだ。
そんな風に思っていると、彼女は目をキラキラと輝かせて新鮮な物を見たと言わんばかりにこっちを見てきた。
「それよりも聞きなさいよ、真樹! 学校帰りにわたしは初めてひゃっきんという場所に行ったんですのよ!」
「百均……」
つまり、彼女が食べていたお菓子は百円ショップで買った物ということか。
そう思いつつ彼女を見ていると、百円ショップがどれだけ凄かったかを口にしながら、購入してきた物を見せつけるべく四つん這いで移動しはじめる。
パンツが丸見えとなって眼福かも知れないけれど、中身が残念過ぎるお嬢様の下着とむっちりとしたお尻を見たとしても……ふぅ、――はっ! じゃ、じゃなくてだな!!
「な、なあ、まさかだけどな……、お前、俺が渡したお小遣いを全部使いきったわけじゃない、よな?」
「…………そ、そんなことありませんわ」
プイッと顔を逸らしやがった。どう見ても残ったお小遣い全部これに使いやがった。
そんな同居人の様子を見ながら、俺は頭痛を感じながら額に手を当てる。
「それで、今夜の晩御飯は何かしら?」
「あー……、スーパーの弁当だよ。温めるから座って待ってろ」
「分かりましたわ。それじゃあ、お願いしますね」
俺の気苦労に気づいていないとでも言うように、彼女はにこにこと笑顔で言うと二人掛けのテーブルが置かれた椅子へと向かう。
彼女について行き、俺は弁当を電子レンジに放り込むと時間をセットし、遅まきながら手洗いとうがいを行った。
「チキンカツ弁当と紅鮭弁当ですのね。わたしは紅鮭弁当にしますわ」
テーブルに置かれた弁当を前に、同居人はそう言って紅鮭弁当を掴むと蓋を外して食事を始めた。
というかこいつ、お菓子を山ほど食べてたっていうのに入るのかよ?
そんな疑問を抱きつつ、チキンカツ弁当を取って食べ始める。チキンカツ、と言ってもかなり薄いタイプの物だ。
「もぐもぐ、もぐもぐ……」
行儀よく食べる彼女の所作を見て、やっぱりお嬢様なんだよなと改めて思いながら、俺は沸騰したお湯を器に注いでインスタントの味噌汁を溶く。
彼女の前に差し出すと口に物を入れているからか軽く会釈をして、食事を続けた。
その様子を見ながら、黙々と俺達は晩御飯を食べる。
「「ごちそうさまでした」」
食べ終え、同時に声を上げて、手を合わせる。
それを見届けてから、容器をゴミに入れる俺だったが同居人は手伝いをせずに、テレビを見る為にその場から離れた。
振り向き彼女を見ると、速攻で寝転がりながらテレビのリモコン片手にチャンネルをいじり始めていた。
「食べてすぐに寝転ぶと牛になるぞ?」
「望むところですわ。牛さんになったとしたら、あなたにもわたしの牛さんの胸を揉ませてあげますわ。嬉しいでしょう真樹」
「へーへー、そうですねー」
そんな他愛もないやり取りを行いながら、しばらくして交互に風呂に入り……日付が変わるころには眠りについた。
…………これが、俺と同居人――生徒会長でお金持ちのお嬢様であるはずの
本当、どうしてこうなった?
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