お嬢様なんて、冗談じゃない!

スズキアカネ

第1話 お嬢様なんて…冗談だろ


「…足開いて座るなよ」


 俺のとっておきの隠れ場所である、屋上前階段踊り場で昼飯を食べていたら、そんな一言を投げかけられた。


「はぁぁん? ジャージはいてるからいいだろうが別に!」


 美形・女子にモテモテ・成績優秀のスーパーお坊ちゃんに眉をしかめられた俺はガァッと噛み付いた。コンビニで大量に購入した惣菜パンをやけ食いのように貪ると、牛乳を一気飲みする。

 お前俺の事情知ってるくせにそんな事言うなよ! こっちは好きで女の子に憑依したんじゃねぇっつの!


 事の始まりはカクカクシカジカ(略)である。殺されそうになった美少女助けたら身体を差し上げますと言われて、無理やりあの世からクーリングオフされたという……脳筋男子高校生がセレブ校に通う美少女お嬢様に憑依しちゃった☆ってラノベみたいな話である。


 いや、ばっかじゃねーの!? そんなん女の子になりたい願望のある男だけにしてくんない!? 俺にとっては屈辱! 屈辱の一言だよ!

 深くは説明しないけど女の子の事情とか知りたくもないし、体感もしたくなかった…! もう警察に自首してしまいたい。『俺は変態ですごめんなさい』って首くくりたい心境だよわかるか!? こんなの自分の両親や、二階堂夫妻には話せないし、もういっそ俺がもう一回死ねばエリカちゃん戻ってくるんじゃね? ってロープを用意したこともあるさ。二階堂夫妻に娘の身体を傷つけないでと泣いて止められたけどさ!


 俺の身長返して。筋肉とかその他諸々返して…カエシテ……コロ…コロッケ食べたい…


「はぁーぁ、もう、生きてるのがつらい……死にたくないけど、女になりたかったわけじゃない……」

「制服の下にジャージは些か不格好だぞ」

「じゃあお前もスカートはいてみるか!? 同じ男なら理解できるだろ! お前に女装趣味がなければの話だけどよ!」

「やめろ、脱ぐな」


 女子制服用のズボンを作ってくれるなら喜んでそれを着用するさ!

 なんなん? スカートじゃないといけないの!? 女子だってズボンはいてもいいじゃんか!!

 俺がその場で制服のスカートを脱ごうとすると、慎悟の野郎が止めてきた。俺らの他に誰もいねぇから大丈夫だって! お前もはいてみろ、新しい世界が開けるかもしれねぇぞ!!



 俺はバレーボール強豪校に通う、17歳の男子高生だった。オリンピック選手目指して朝から晩までバレーのことを考えるただの脳筋学生だったが、犯罪に巻き込まれて命を落とした。

 そして何故か助けた相手から身体を押し付けられ、今に至る。


 現在俺と会話していたのは加納慎悟という、この体の持ち主・二階堂エリカの知り合いだ。縁戚とか言っていたかな。

 奴には出会い頭にケンカを売られ、感情的になり爆発させた俺が自分の正体をゲロったことによって、俺がエリカちゃんに憑依した別人だと知られた。

 俺はてっきり変態扱いされるか、エリカちゃんに身体返せと罵倒されるかと思ったが、この慎悟はめちゃくちゃ冷静な奴で、今はよき理解者となっている。

 もしかしたらブチギレた俺が号泣しながら事情説明していたので、怒り以前に哀れんでいるのかもしれない。それはそれで複雑だが。


「俺達、友達だろぉぉ!? 友達なら痛みを分かち合おうぜ!!」

「傷のなめ合いなら断る」

「お前っ、そんな薄情なこと言うなよ、年頃の多感な男子高生が女になる衝撃わかる!? 俺中身男なのに、知らん男から変な目を向けられるんよ!? 思わず尻を庇っちゃうよね!」


 慎悟の腕を掴んで、ヒステリーを起こしていると、慎悟が「わかったわかった」と全然わかってない風な返事を返してくる。冷たい奴だ!! 知ってたけど!!

 若い女の子にプラスして美少女だぞ? オオカミたちに狙われること間違いなしだ。…特にあいつがこわい。蛇みたいな目をしたあの…上杉って男。

 俺がエリカちゃんに憑依したことによって甚大なイメージ崩壊を招いているけど、それでも寄ってくるあいつはサイコパスだと思う。


「大丈夫だ、お前の行動一つ一つで失望していく男ばかりだ。エリカのやつもボッチを極めていたから何の問題もないだろう」

「俺は別にボッチになりたいわけじゃないよ!」


 男子バレー部に入りたくても女子だからと女子バレー部にまわされ、女の子との接し方がわからず、今では変人扱い。最低限のやり取りしかしていない……女友達なんていないよ……

 俺には男兄弟しかいないの。彼女いない歴年齢なの。わかるわけ無いでしょうが。女の子のノリも嗜好も全部わからないよ。下手したら俺変態なんだから……これ以上変態になりたくない……


 男子部の二宮さんがよく相手してくれるけど、俺のこと女だと思ってるからそれが複雑さに拍車欠けるっていうか……俺が男子のノリでどつくと、「女の子なんだから」と注意され……もう、息が詰まる……! もう何なんだよ! 俺は一体何なの!?


「うがぁぁぁー!! あいつ、あいつ法廷で会ったらぶん殴ってやるぅぅぅ!」

「逮捕されるぞ」


 殺された恐怖や憎しみにプラスして女の子に憑依しちゃった諸々の不満を殺人犯にぶつけてなにが悪い!!

 淡々としやがってこのすかしたリアルハーレム野郎め!!


「俺はお嬢様になりたいんじゃない! 男としてオリンピック選手を目指していたんだー! エリカちゃーん、俺を成仏させてくれー!!」


 頼む、気が狂いそうなんだ! 正しい流れに戻してくれー!!


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