第12話
私達は高校生となった。
私は今、杏奈と一緒に海岸沿いの帰り道を歩いている。
あの夜から始まった恋人関係は相変わらず続いていた。キスは当然、時には人気のない学校の校舎裏や、私が一人暮らしを始めた家でセックスをするくらいの仲にまで発展した。
あれ程憎くかった相手が今では体を交えるくらい愛してしまっている。
どうしてこうなってしまったのか。自分でもわからない。
でも、一つだけ確かなことがわかる。
とても幸せで心が満たされていることだ。
「ここでお別れね」
「そうだね」
別れ道に差し掛かると徐に私は杏奈の唇を奪う。
口の中に広がる杏奈の甘美な味。多分、薬物を摂取するとこんな感じになるのだろう。何も考えられず、ただただ気持ちがいい。
このまま離れたくはない。だけど、あまり人様に見られたいものでもない。渋々、唇を離し、紅潮した杏奈の頬を撫でる。
「また、明日ね。由紀子」
「えぇ」
互いに手を振り、杏奈は一人、海岸沿いの道を歩いていった。
鞠莉さんが去り、辺りは静寂に包まれる。火照った心を覚ますかのように横殴りの潮風の音だけが耳に入る。
ふうと一つ溜息を吐く。
私は愛に立場も性別も関係ないと思っている。複雑な感情を持ち、集団よりも個を尊重する人間にとって恋愛というのは自由であるべき。
だが、それをよしとしない人物は少なからずいるそうだ。
私はゆっくりと振り返り、物陰に隠れる不審者に
「さっきからずっと私達の後をつけているけど……警察を呼ぶよ」
と忠告する。
すると、電柱の陰から皺一つないブラウンのスーツ姿の壮年の男性がのそっと現れた。
「警察か。流石に現行犯で捕まるのは不味い」
男性はそう言うと襟を正した。
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