第2話楽しかった夏休み

19××年、夏。

とてもとても暑い夏だった。

夏休みを利用して、俺は母さんと一緒に父さんが働く工場のある町へと遊びに来ていた。


俺の父さんは何ヵ月か前に働いていた会社から異動の辞令が出て、その町の工場で働くようになった。

詳しくは知らないけれど、水質調査などの水管理が仕事だったらしい。


その町はそんなに大きな町ではなかった。ただ、父さんが勤める案外大きな工場と、近くにある大きな街から配信されるローカルテレビの意外と面白い番組が特に強く記憶に残っている。


町に着いてすぐ、俺は近所の同年代の子どもたちと親しくなった。子どもって、そういうところでは本当にすごいよな。

その中にあの子はいた。

肩まである栗毛の、おとなしい女の子だった。

俺よりふたつ年下のあの子は、おにいちゃんと言っては俺の後ろをくっついて歩いていた。

俺も一人っ子だったんで、あの子のことを妹みたいに可愛がった。


あの日までは毎日一緒に遊びに出掛けて、夏休みの宿題をみてやって。

そうだ。一緒にスイカも食べたし、他のガキたちも一緒にうちで花火もやった。


みんな笑っていたんだ。

あの子も。新しい友だちも。父さんも。母さんも。


朝、ラジオ体操をしに公園へ行けば、帰郷してるっていう大学生のお兄さんがハンコを押してくれて。

小さな商店街へおつかいに行けば、肉屋のおばちゃんはコロッケをおまけしてくれた。

八百屋のおじいちゃんは手伝いして偉いと誉めてくれた。

扇風機が壊れて家電屋へ持っていったとき、直るのを待ってる間高校生のお兄さんとゲームの話で盛り上がった。


ほとんど毎日晴天に恵まれた。


俺がその町で過ごし始めてから、少なくともその日までは雨が1日も降っていなかった。

でも干上がるほどではなくて、畑の横に流れる水路は毎日潤っていた。

そこから水を汲んで野菜にかけてやれば、萎びていたトマトもキュウリも元気になってうまい飯が食べられていた。

町の何ヵ所かにあった井戸から汲み上げた水はいつも冷たくて、遊んで汗だくになった俺たちの喉を潤してくれた。


水路は町にある畑を巡るように、縦横無尽に流れていた。

井戸はほどんどの町の人が毎日使っていた。


豊かな水はその町の生命線だったんだ。


父さんが働く工場は、水源の上流にあった。

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