第259話 宴の閉幕
大量の魚と、ピッチフォークに突き刺さるイノシシに似ている野生のブーを持って帰ると、あんなに盛り上がっていた宴の会場は静まり返った。
「道具を貸してもらえないか? じい! 捌くぞ!」
ウキウキニコニコのお父様は村人に話しかけ、じいやもまたギラギラとした目をしながら笑顔で立ち上がる。何人かの村人が空気を読んだのか「手伝います」と、人目につきにくい解体場所へと案内をしてくれている。
「……カレン? ……なぜ釣りに行って、野生のブーを仕留めて来るのじゃ……? いや、魚もすごい量じゃが……」
川へと向かってから今までのことを話すと、皆が絶句している中スワンさんだけがツボに入ったように笑っている。お父様の話を聞いて笑える女性は、ヒーズル王国民以外にいないのかと思っていた。見た目と違い、スワンさんは意外と豪快な方なのかもしれない。
「えぇ!? なぜ首の骨が粉砕しているんです!?」
「あぁ、少しばかり気に入らなくて私が折った」
姿は見えないが声は聞こえて来る。スワンさん以外は真顔となっている中、クジャがついに言ってしまった。
「……カレンよ……いや、モクレン殿もだが……そなたたち王族でありながら、何もかにもあり得んだろう……?」
その言葉を聞いた村人たちが、真顔のまま私に顔を向ける。真顔で見つめられるのはなかなか怖い。
「はぁ!?」
「へっ!?」
「ウソ……」
「え? え?」
少しの間をおき、村人たちが大騒ぎとなった。いや、なってしまった。中でも一番混乱していたのは、ついさっきまで一緒にいたトビ爺さんだ。
「娘っこ! オメェさん……いや! アンタ様は姫だったのか! ……ですか!?」
それは見事な混乱っぷりであった。
「初めて会った時にお転婆が『他の国から駆け付けた』って言うもんだから、てっきりよく行ってるって言う、ハーザルの街やリトールの町の人間だと思っていたんだが……」
まだ混乱が続く中、釣りに行った少年たちも口を開いた。
「お姫様なのに、ミズズを触るのすごい!」
「うん! 幼虫を針に刺したりカッコ良かった!」
少年たちは逆にヒーローを見るかのようになってしまい、おままごとをしていた少女たちは「お姫様!」と集まり始めた。大人たちだけが少年たちの話を聞いて引いている。
「えぇと……えぇと……魚とブーを食べましょう!」
もう何を言っても騒がれると思った私はお父様のところへ走り、肉の塊を持って来て料理に専念することにした。
料理を教えている間は余計なことを聞かれなくて済んだので、男性たちを酒盛りの場所へと追いやり、村の女性たちにひたすら料理を教えた。
中でもあえて手のかかる、皮から作るギョウザやシュウマイ作りは、チマチマと皮を閉じる作業に夢中になってくれたおかげで皆が静かになってくれて都合が良かった。
そして宴はハヤブサさんが酔い潰れるまで行われ、私たちは城へ戻ることになった。
「……」
「父上がこんな状態ですので代わりに申しますが、今日は本当に楽しい宴をありがとうございました。私もクジャと共にまた遊びに来ます」
完全に潰れたハヤブサさんを支えるようにチュウヒさんが挨拶をする。
「そうじゃ……ヒック……遊びに来るのじゃ! ダメと言われても来るのじゃ……ヒック……」
潰れてはいないが、かなり泥酔状態のクジャも挨拶をすると、オオルリさんが口を開いた。
「私もまた来て良い? ……いいえ、来るわ。みんなに、おっとさんとおっかさんに会いたいから!」
数年ぶりに里帰りをし、家族や友人たちと楽しい時間を過ごしたからかオオルリさんは見違えるほどに目にも力が宿り、大きな声で宣言をした。
「うふふ、私もまたお邪魔させていただくわね。この村は故郷を思い出すわ。もうここは第二の故郷ね」
村に来てから何回か日差しがきついと仰り、室内や馬車の中、木陰などに移動はしていたが、決して帰るとも言わず横にもならなかったスワンさんもそう宣言をする。
「またいつか酒の飲み比べをしよう!」
お父様の宣言に男性陣が沸く。全く酔っていないように見えるが、リーンウン国の王家の挨拶に普通に混ざっている辺り、少しは酔っているのだろう。
村の男性たちはお父様を潰そうとかなり飲ませていたが、あの日ヒーズル王国で飲んだヤシの酒よりは度数が低いせいかお父様は潰れなかった。
「……ヒック……ほれ、カレン……ヒック……も挨拶をせい……」
急に酒臭いクジャに抱きつかれ、絡まれてしまった。
「えぇと……皆さん美味しい食材や調味料をありがとうございました。今日作った料理はそこにいるスズメちゃんや、城の厨房の女中さんたちにも伝えます。何か分からないことがあったら聞いてくださいね」
無難な挨拶をしたつもりだったが、予想外の人物が叫んだ。
「娘っこ〜! 帰るな〜! 城にも自分の国にも帰らず、この村で暮らせばいいだろうが〜!」
トビ爺さんが号泣をしていた。どうやら酔うと泣き上戸になるらしく、周りの人たちが『押さえているうちに行ってくれ』と言っている。このままだと誘拐されかねないとまで言われてしまった。どうやら相当気に入られていたらしい。
最後まで賑やかな宴を楽しみ、私たち一行は城へと戻った。
ちなみに城へと戻ると、すっかり存在を忘れられていたレオナルドさんが不貞腐れて寝室で酔い潰れていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。