第132話 カレンとヒイラギ②

 ヒイラギを連れて少し離れた場所に行き足を止める。


「どうしたの姫? 泣いているの?」


「だって……私には何の力もなくて……」


 移動しているうちに涙がこぼれてしまい、つい愚痴を言ってしまうとヒイラギは優しく微笑んで涙を拭ってくれた。


「何を言っているの? 姫のおかげで森も出来たし、畑から食べ物も収穫出来ているんだよ? 姫がいなかったら私たちは生きていけないところだったんだよ」


 その言葉にナズナさんに申し訳ないと思いながらもヒイラギにしがみついて泣いてしまった。ヒイラギは嫌がるわけでもなく「姫は頑張っているよ」と頭を撫でてくれるので余計涙が出てしまった。

 散々泣いて涙が出なくなるとヒイラギは「泣きやんだ」と言って笑っている。そして私の手を引き違う場所へと連れて行かれた。


「これも作って欲しいと言っていたでしょ? タデと作ったんだけどこんな感じで大丈夫かな? 今度はこれで何を作るの?」


 ニコニコと微笑むヒイラギの前には頼んでいたものが置かれていた。


「まだ少し道具が足りないのだけれど……油を作ろうと思っていて……」


「えぇ!? どうやって!?」


 あまりにもヒイラギが驚くものだからこちらも驚いてしまう。確かに油を購入した時に貴重だとは言われたが、そんなにも珍しいものなのかと首を傾げてしまう。聞いてみると森の民たちは少量の油分が含まれる植物よりも、森で狩りをした時にだけ動物の脂を使っていたらしい。そのほうが調達が早かったようだ。


「ナーの種を油に出来るのよ」


「嘘……」


 ナーの匂いが苦手なヒイラギは驚きと絶望的が入り混じった顔をしている。


「まだ作ってもらいたい道具もあるし、もっと種を集めてからそれをやるわ。そんなことよりもみんなの家について話したかったの」


 そう言うとヒイラギは「家か……」と呟いた。


「あのね、元々森の民は木で作った家に住んでいたの。姫が住んでいるようなね。だけど前にナズナを連れてリトールの町へ行ったでしょ? ナズナがリトールの町のレンガ作りの家に憧れてしまってね……困ったことに糸を作る時にその話ばかりしていたようで、女性たちはレンガの家に住みたいようなんだよね」


 苦笑いでヒイラギはそう言い、私は知らなかったと驚く。


「私たちは自然のものを使ったものを好むんだけど、レンガも元は土でしょう? みんな乗り気になっているんだよね……。でも一定数は木の家が良いと言う者もいて……」


 レンガの家を作るのは良い。地震もほぼほぼ無いと聞いたから崩れる可能性は少ないだろう。でも、だとしたらセーメントもまた大量に購入しないといけない。


「……国境が出来てからセーメントを買って作ったほうが効率が良いわよね……あとは寒さから身を守るものよね……」


「それなんだよね……」


 私たちが顔を見合わせ苦笑いをしていると近くの茂みがガサガサと音をたてる。


「話は聞かせてもらいました!」


 私とヒイラギが驚いてそちらを見るとオヒシバが立ち上がり叫んでいる。後ろにはイチビたちがオヒシバを止めようと必死になりながらも私たちに謝っている。


「私たちはブルーノさんのお宅にお世話になっている時に、家の基礎というものを教えていただきました」


 後ろでは「もう黙れ」とイチビたちがオヒシバを引っ張って行こうとしているが、私とヒイラギはそれを止め話を聞いてみた。


「私たちの知る地面に柱を直接打ち込む方法はあの町では使われておらず、家の下には石が敷き詰められているそうなのです」


 確かに地面に直接柱を打ち込むと経年劣化で傷んだりするだろうし、水の豊富なあの町では腐ってしまうのだろう。


「きっとレンガと木を組み合わせるともっと素敵な家になると思うのです」


 自信満々にそう言うオヒシバだが、チューダー様式という造りの家はまさにその通りの家なのを思い出す。少しその場で待っていてほしいと伝え、黒板とチョークンを手にして戻り、記憶の中のチューダー様式の家を描いていく。美樹が友人の家で建築系のゲームをやらせてもらった時に、自分の住んでいるボロボロの家ではなく憧れの家をゲーム内で建てようと調べたおかげである。

 出来上がった絵はまさにその時に見た外国の家で、本当ならこの乾燥している土地では石だけで造られた家が良いのだろうが最近では森のおかげで幾分空気も湿り気を帯びてきている。きっとレンガと木で作られるこの家でも問題はないだろう。


「私の記憶だとこういう家があったわ」


 みんなにその絵を見せると目を輝かせて騒いでいる。もちろん私もその家に住みたい。そして和洋折衷を取り入れ玄関では是非とも靴を脱ぐ文化にしたい。


「あとはね、どうしても譲れない部分があるの」


 みんなはそれを聞き、私に詳しく聞きたいと言うので家についてそのまま話し合うことになった。

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