第114話 帰国

 ニコライさんが謝罪し、お金はいらないとたくさんのものをいただいたが正直「どうしましょう……」という感想だ。クジャもニコライさんも帰国したので私たちもすぐに帰国……というわけにも行かず、リトールの町を走り回った。

 動物たちを引き連れジョーイさんの店に行き、荷車や世話に必要な道具を買い揃えた。そしてカーラさんの店に行き牧草を購入する。この町の少し離れた場所にある畑の近くに泊まり込みをする小屋があるらしく、そこで『チバ』ことポニーを使役しているので牧草も取り扱っていたのはラッキーだった。最後にブルーノさんの家へと急ぐ。


「ブルーノさん!助けて!」


 リバーシ作りを終えてゆっくりとしていたブルーノさんは何事かと慌てて出てくる。大量の荷物と動物たちを見たブルーノさんは察してくれたようで「裏庭に行こう」と先導してくれた。


「良かったのか悪かったのか……大変だったね」


 ブルーノさんは苦笑いでそう言いながら、先程購入した荷車をポニーとロバに取り付ける道具を作ってくれている。じいやとイチビたちもそれを手伝っているが、オヒシバは「あのバめ!バのくせに!」とブツブツと言っている。最後に私にキスをしてくれたバは私を背中に乗せてくれたバだろう。そのバが最後にいなないたのはこの子たちに何かを伝えたのだろうか?ポニーとロバは左右からみっちりとくっついて来て身動きが取れない。なので私はみんなの作業を見学している状態だ。


「さぁ出来たぞ。来るんだ」


 ブルーノさんが呼んでもポニーとロバは身動き一つせず私たちは苦笑いをするしかない。


「ポニー、ロバ、あれを取り付けてもらいましょう」


 ダメ元で私が声をかけると、ポニーとロバは真っ直ぐにブルーノさんの元へと進んで行く。そんな二頭を見たオヒシバが爆発した。


「チバ!ニバ!お前らも敵か!」


 そんな訳の分からないことを叫ぶと、ポニーもロバもオヒシバの近くに行きお尻を向ける。あ、と思った時には二頭はオヒシバに向かって蹴りを放ったが、さすがは森の民というべきかオヒシバはそれを躱す。


「やめなさい!」


 私が叫ぶと反撃しようとしていたオヒシバの動きが止まる。


「ポニー、ロバ。私の大事な人を蹴っては駄目よ。オヒシバもよ。動物、しかもこの子たちはまだ子どもよ?躾とはいえ痛い思いをさせるのは駄目よ」


 そう言うとポニーとロバは私の元へと来てお腹に顔を埋める。なんて可愛いのかしら。オヒシバに至っては「大事……大事……」と呟き空を見上げている。オヒシバはたまに情緒不安定になってしまうのが心配だ。


 ポニーとロバに荷車を取り付け荷物を積み込む。もちろん私たちが持って来た荷車にもだ。荷物を載せ町の入り口に向かうと見送りに来たブルーノさんといつも座っているペーターさんが寂しそうに笑う。


「一週間後、あのうるさい奴と姫さんが来ると言ってたが……無理にとは言わんが来れたら来てくれ」


「そうだよ。いつだってうちに泊まって良いんだからね。特に用事がなくても遊びに来て良いんだからね」


 二人はそう言い私の頭をポンポンとしたり手を握ってくれた。


「ありがとう二人とも。……なんだか自分の家に帰るのに寂しいと思ってしまうわね。また来るわね」


 私たちも笑っているのか泣いているのか分からない顔で何回も振り返り、二人が見えなくなるまで手を振り続けた。


────


 国境近くに来るとジェイソンさんや他の国境警備の人たちが国境から離れてしゃがんで何かをしている。


「ジェイソンよ、何をしておる?」


 じいやがジェイソンさんに声をかけると、眩しいほどの笑顔で振り向き立ち上がる。


「先生!いやぁあまり記憶がないのですが、先生にお会いしている時に気を失ったらしくて、昨夜目を覚ましたんですよ。この者たちに聞いても知らぬ存ぜぬでしてね」


 無邪気に笑うジェイソンさんをじいやは無言で見つめている。国境警備の人たちもジェイソンさんがじいやに一撃で沈められたなんて言えなかったのだろう。


「原因に心当たりがありまして探していたんですよ」


 私はジェイソンさんにそれ以上は危ないと忠告しようとしたが遅かった。


「コイツですよコイツ。毒は弱くて死にはしないんですが、昏睡状態になってしまうんですよ。草むしりをサボっていたせいで現れたようです。きっと先生と話していた時に噛まれたのでしょう」


 そして「ほら」とじいやに突きつけたのは抜いた草と見慣れないスネックだ。ジェイソンさんではなく初めからスネックを見ていたじいやは突然目の前につきつけられたスネックを見て……また気を失ってしまった。


「……ジェイソンさん、悪いことは言わないわ。命が惜しかったらじいやの頭とスネックとミズズについて触れてはダメよ」


 大騒ぎの中みんなでロバの荷車にじいやを載せ、私はジェイソンさんにそう忠告してヒーズル王国へと足を踏み入れたのだった。

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