第72話 カレンのリベンジ3

 翌日、朝食後に広場の真ん中でホウレンソウを行う。日本社会で言う「報告」「連絡」「相談」だ。もちろんこの国のみんなには伝わらない言葉なので「話し合い」と言っているが。最近では各種作業のリーダー的な者が手腕を発揮しているので各々で動いても問題ないのだが、みんなこの時間を大切にしている。

 今日の話し合いで印象的だったのは子どもたちが元気に動き出したとのことだった。空腹で動くこともままならなかった王国の数少ない子どもたちが動けるようになったので、王国の未来の為にそれぞれ作業を覚えてもらうとのことだった。私は助言としてスイレン以外の子どもは重労働である水路建設に行かせないように伝えた。数人ずつ子どもを分けると大人たちは言っていて、エビネたちの畑作業に入る子たちは広場の東側に畑を作ることから始めるようだ。もっと畑を広げてもらいたいのでとても助かる。


 そして作業開始の時間となった。まずは昨日作った窯の確認に向かう。


「……」


「「「「…………」」」」


 窯は問題がない。だけど私の後ろにはなぜかイチビたち四人組が着いて来ていた。私が口を開く前にイチビが話す。


「チョーマは大量に採取しました。繊維を取る作業は子どもたちにやらせるから姫の手伝いに行けとナズナに言われました」


「この窯でレンガを作るには少々小さいのでは?」


 イチビに続きシャガも声を発する。


「そうだったの。ありがとう助かるわ。そしてシャガの言う通りなのよね」


 焼成レンガを作る為の窯なのだが、大量生産は出来そうにないのだ。日干しレンガはもうほとんど残っていない。


「ですので私たちが日干しレンガを作ります。昨日でやり方は覚えました」


 ハマスゲは日干しレンガを作る二人と、粘土を採取してくる二人に分かれて作業をしてくれると言う。昨日採取してきた物で作っている間に新たに粘土を採取しに行くと言う。


「それじゃあお言葉に甘えてお願いするわね」


 そう言うとイチビとオヒシバが採取組になり荷車を用意する。オヒシバが発した「姫の近くにいれない……」という言葉は聞こえないフリをした。


 私は一度森へ行き森の土をバケツに詰める。毎日森が広がっているおかげで良質な土がたくさん出来ているのだ。そして繊維を干している場所からチョーマの繊維をいくらかいただく。

 みんなから離れて穴を掘り、昨日採取した粘土を二種類と森の土を入れ、チョーマをナイフで細かくして入れる。レンガは土や粘土を焼いたり干した物なので今日は土を混ぜてみたのだ。灰色の粘土は耐火性の物が出来ると聞いたことがあるので昨日も混ぜ合わせた。そしてあまりデーツの葉を使うのも木が可哀想なので、代わりに繊維質のチョーマを入れることにした。

 昨日と同様水を入れて捏ねる。シャガたちは昨日と同じ物を同じ分量で作っているようだ。ひたすら捏ねて木枠を使おうと思った時に二つしかないことに気付いたが、シャガたちは同じサイズの物を作るからと一つを貸してくれた。木枠に粘土を押し込め外したら干す。空気が乾燥しているので乾きが早くて助かる。私たちはこれを繰り返し、イチビたちは何回も粘土を取りに往復してくれた。


 ある程度レンガを作り、持っても崩れないくらいに乾いたレンガを窯に並べる。私だけ同時進行で瓦状の物も作っていたので、それを上部に並べて蓋代わりにする。そして火を起こした。しばらくはこまめに火の様子を確認しながら作業をする。ヒイラギたちは気を使って焚き木をたくさん持って来てくれた。

 最初はあまり火力を上げずに窯を温める程度にし、窯全体が温度が上がった頃からガンガンと火力を上げる。数個のレンガを作ったら焚き木を追加する為に窯に移動することを繰り返していると、シャガが火も見てくれるという。焚き木をくべる場所がシャガたちのほうが近いからだ。


 食事や休憩も窯の前でし、常に最高火力を保つように見張る。そして夕方に焚き木を入れるのを止め、翌日まで冷めるのを待つことにした。


 イチビたちのおかげで粘土置き場を作るほど粘土を採取してきてもらったが、スイレンたち水路建設チームも帰りに粘土を採取してきてくれた。さらに水汲みをする者たちも粘土を運んでくれた。夕食後にヒイラギと少し話したが、間伐チームを半分の人数に減らしレンガ作りに人を寄越すと言ってくれた。これからは毎日レンガを作ることになりそうだ。

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