第49話 買い物行脚2
エルザさんの店の隣の店も店頭にたくさんの苗が売られていた。このお店では黒板にチョークンで植物名が書かれているけど、名前を読めても日本名とは違うので分からなくて戸惑ってしまう。するとタイミングよくナズナさんが口を開いた。
「このお店は香草がほとんどのようね。ここで売っている香草はさっき森で採取したわよ。たくさんね」
そう言ってナズナさんはニシシと笑う。
「本当?じゃあ香草以外の売り物はどんな植物なの?……名前が違うから分からなくて」
語尾を小声で言うとナズナさんは察してくれたようだ。名前を言ってくれ、ナズナさんでも分からない植物はお店の人にどんな風に育つのかも聞いてくれたおかげでいくつか気になる物があった。
「コートンの木って……こうフワフワに包まれた種が出来るやつ?」
「うん。森にもあったにはあったけど、ほとんど見かけることがなかったなぁ」
ナズナさんは記憶を呼び起こすように顎に手をあて上を向いて語る。
「じゃあ買っちゃいましょ!あと『緑のペパー』ってもしかして細長くて辛い実が成る?」
ナズナさんに問いかけていると店員さんが話に入ってくる。
「いらっしゃい!こっちはお嬢ちゃんが言ったように細長い物が実るよ。そしてこっちは丸っこい物が出来るんだ」
指をさして説明してくれるけど、丸っこいのはピーマンかな?うーん……いろいろと育ててみよう!
「じゃあどちらもください!あとね、『緑の』ってことは普通のペパーもあるの?」
「あぁ、これだよ」
『普通のペパー』というのが存在するのかという意味で聞いたら、目の前にその普通のペパーが売られていた。苗というよりはそこそこ育った状態のようだ。
「残り一個しかなくて悪いね。これはね、ツル性で上に伸びるから支柱が必要だよ。種が香辛料になるけどその種はほとんど発芽しないから、ツルを切って土に植えると簡単に増やせるよ」
ナズナさんはペパーを知らないらしく小首を傾げている。あれ?葉っぱを見てもピンと来なかったけど、説明を聞く限りもしかしてこれって胡椒?だとしたらお料理の幅が広がるわ!
「買います!買います!ぜひ買います!」
前のめりでそう言うとナズナさんにも店員さんにも笑われてしまった。ここの店でも買ったものは麻袋に入れてくれ、私たちはリーモンの木と一緒に荷車に積むために戻った。
「おかえり。ちょうど私たちも終わったところだよ」
荷車に物を積み込んでいる男性陣たちだったが、ヒイラギが私たちに気付いて私、というよりはナズナさんに微笑みながら声をかけた。……羨ましいくらいラブラブね!あ、お父様とお母様も実は負けないくらいラブラブだったわ!
「最後に大きな買い物をして帰りましょう。荷車を二つ買ってもまだお金は余る?」
「充分余りますぞ」
じいやの言葉に嬉しさが溢れ、みんな揃ってジョーイさんの店へと向かう。
「ジョーイさーん!荷車を売ってくださーい!」
そんな大声を出しながらジョーイさんの店へと入ると、ジョーイさんは奥で作業していた。私たちに気付くとジョーイさんはパタパタと走って来る。
「聞いてくれ!リバーシの予約がたくさん入ってるんだ!今それをまとめていたところだ」
「良かったわね!ブルーノさんも本当は大工さんなのに違う意味で大忙しね」
私の発言で場は笑いに包まれる。
「で、荷車だったな。好きなのを持って行ってくれ」
ジョーイさんのお店の向かい側は少し開けていて、広場とは言えないけれど少し広くなっている。そこに荷車など大きな物が置かれている。私以外のみんなは一台一台確認し、頑丈そうな物を選んでいるようだ。私はというと一番の目当てのセーメントを大量に買ったり、鍬やスコップなどこれから必要になるであろう道具を買い足したり、気になる道具を買い漁る。
全部の買い物を済ませ代金を支払ってもまだ金貨は余っていた。
「そうだ!忘れてた!」
金貨を見てニヤついている私に気付かずジョーイさんは声を上げる。
「前に来た時に湿地の泥を欲しがっていただろう?だから湿地の近くに畑がある人に少しずつ持って来てもらって貯めてたんだよ。君たちがいつ来るか分からなかったから、腐らせるといけないと思って乾燥させていたんだけど……それでも良いなら持って行くかい?」
「えー!本当に助かるわ!嬉しい!」
ジョーイさんは「これはお金はいらないからね」と言い、荷車を置いている場所の奥に歩いて行く。私も着いて行くと土の山が出来ており、ジョーイさんは近くにあった樽にスコップでそれを入れてくれた。
じいやたちはそれを受け取ると荷台に載せ、荷車三台の荷物の重さが平均となるように積み降ろしをする。
「今度はね、二十日後に来るわ」
「また何か作って来るのかい!?」
「……うーん……考えておくわね」
そしてジョーイさんと別れ私たちは町の入り口に向かう。
「今日はもう帰るのかい?」
私たちに気付いたペーターさんが寂しそうに呟く。
「二十日後にまた来るわ。森から拾って来たあのうるさい人と約束なの!」
拾って来たという発言に笑いが止まらなくなるペーターさん。
「……あぁ笑った。では二十日後だな?待っているからな。私も町の者も」
優しく微笑むペーターさんにさよならを告げて私たちはヒーズル王国に帰ることにした。
ちなみにじいやラブのジェイソンさんは国境警備の仕事を放棄して、じいやにプレゼントしようと木を切り倒しているところに道中遭遇し「助かるが何をしておる!」と喝を入れられ喜んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。