第13話 旅路
「この何も目印がない場所からどうやって国境まで行くの?」
歩き始めてすぐに、とは言っても私とスイレンは荷車に乗せられ歩かせてもらえない。
「あの北に見える山脈まで歩き、あとはそのまま山沿いを歩けば良いんですよ」
ヒイラギがにこやかに指をさす。確かに北には山脈が連なっている。その時に聞いた話だと、この世界の国は山脈ごとに上手く仕切られていて、ぐるりと山脈に囲まれた土地が一つの国と認識されているんだとか。シャイアーク国とコウセーン国の国境はその山脈が他よりも低く、どこよりも容易に行き来できたからこそ土地の奪い合いになったのだとか。
「じゃあここも山脈で囲まれてるってこと?」
「多分……としか言えませんな。ある時大雨が降った後に山が崩れそこがシャイアーク国との国境になったと聞いております。シャイアーク国は調査に乗り出しましたが、草木の生えていないこの大地、そして国境近くには砂だけの場所があり少しばかり調査をして人が住める環境にないと判断したのだそうです。そこに私たちが追いやられたとリトールの町の町人に教えられました」
「ホントに誰も住んでなかったの?」
「はい。人が作ったと思われる物もどこにもありませんでしたし、私たちが住んでからも人など見たこともございません」
砂だけの場所って砂漠かな?元々ここに人が定住しなかったか、いても滅亡したか……。私とじいやが質疑応答を繰り返しているうちに、いつしか山脈の麓に到着していた。その山をよく見てみるとかなり高さのある柱状の岩が無数に乱立していてまるで水墨画のような景観だった。ただ水墨画と違うのは草木の類が一切見えない。その山を見て右手に、東へと進路を変える。
「ベンジャミン様」
タデが初めて口を開き、一瞬誰のことかと分からなかったけどじいやのことだと分かった。
「じ……じいやってベンジャミンって名前だったの!?初めて知ったわ!」
「僕も!」
予想外のカッコイイ名前に私は笑いが止まらなくなった。
「人の名前を笑うとは何事だ!」
荷車を引いていたタデが立ち止まり、私たちを見て怒鳴った。さすがに私もスイレンもビクッと硬直する。
「モクレンの子どもだと思って黙っていれば!人の名前は笑うし緊張感のかけらもない!本当にお前は救世主なのか!?モクレンは私たちに『前世はこことは違う場所にいたようだ。その知識を活かすと言っている』と説明をしていたが、子どもだからと絵空事を……嘘を言っているのではないか!?」
今まで黙っていたタデの怒りは治まる気配がない。
「今ヒーズル王国の人々は生きるか死ぬかの境にあるのだぞ!別の場所から来たなど嘘なのだろう!?証拠を見せてみろ!こんな嘘に振り回されて私の子どもは死ななければならなかったのか……!?」
タデは手で目頭を押さえる。
「……やっぱり私たちを生かす為に食糧をくれたのね……ありがとう、そしてごめんなさい。……多分、私がいた場所の話をしたとしても信じてもらえないと思う。文化の水準が違いすぎるの。ただ私がいた世界で私はかなり高水準の国に住んでいたのに……とてつもなく貧乏だったせいでいろんなことを自分でしなくてはならなくて、その知識が役に立つと思う。
森に住んでいた貴方たちが森のないここで生活するのは大変だと思う。だけど思い切って生活の仕方を変えることも考えているわ。だから今日はそれを解決するための一歩なの。私は天才ではないし、全てを叶えられる訳じゃない。けれどみんなの為に頑張るわ」
「姫様……」
「カレン……」
じいやとヒイラギも目頭を押さえ、私の背中に張り付いて怯えていたスイレンは私の頭を撫でてくれる。そして「僕も一緒に頑張るからね」と声をかけてくれた。知らない人に怒鳴られて怖いはずなのに私を励まそうと必死だ。それを見たタデは無言で前を向き荷車を引き始めた。
そこからは全員がほとんど無言で、野営の時に見張りの交代をするくらいしか会話はなかった。 夜が明けるとすぐに出発し、途中で何回かの小規模な砂嵐に遭遇しながらも私たちは無事に国境へと着いた。
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