第10話 カレンの冒険〜川〜
お父様が荷車を引き、私たちは荷台に乗りながら周囲を見回す。じいやは万が一の為にと残り少ない弓矢を背負い荷車の後方に位置している。赤い土が広がり岩や岩石の小さな山が点々としている大地はいつか動画で見た火星のようだと思った。
思ったよりもなだらかな赤い土の上を王国から真西に進む。体感で一時間ほど進むと岩場が見えてきた。
「カレン、間もなくだ。あの岩の向こうが川だぞ」
それを聞き私とスイレンは居ても立ってもいられなくなり、お父様たちが止めるのも聞かず荷車から飛び降り川へと走った。
「すごい……!これが川なの?水がたくさんだよ!」
スイレンは初めて見る川に大興奮だ。スイレンが川に落ちないように手を繋ぎながら周囲を観察する。子供でも難なく降りられる岩場から川岸までは砂利や石が敷き詰められていて、日本でもよく見かける見慣れた川といった感じた。転ばないように気を付けながら水辺へ向かうと、想像以上に透明で綺麗な川だった。
「カレン!スイレン!大丈夫か!?」
お父様たちも合流したところでスイレンを預け、じっくりと観察することにする。川幅は目測三百〜四百メートル。流れはそれほど早くなく、それでいて水量は充分ある。ちょうど私たちがいる場所は緩いカーブの内側になっていて、この砂利などは堆積物のようだ。
「ちょっとあちこち見て来ても大丈夫?」
そう声をかけるとじいやが着いて来ることになった。下流側より上流側のほうが歩きやすそうだったので向かってみると、浅瀬に青々と水草が生えている。
「じいや!水草!お腹が空いても食べなかったのね?」
私は無邪気にじいやに声をかけると、じいやはそれを見つめたまま口を開いた。
「私たちは川を見るのが初めてでして……そして先程も申しましたが、基本的に知らない物は口にしませんので……」
村があった森はよほど標高が高いか奥だったのかな?川を見たことがないなんて。そんなことを考えながらその水草を観察してみた。
「……!これ!クレソン!食べれるやつ!」
私は久しぶりに見たクレソンをブチブチと千切り、豪快に川の水でジャブジャブ洗ってから口に入れた。この少し苦くてほんのり辛い味が癖になり……というか前世では食べる物が無い時はよく水辺から採ってきて食べていた。
「じいやも!はい!多分、大人の男の人は好きな味だと思うよ?」
じいやに無理やり手渡すとまじまじとそれを見ている。本来だったら絶対に食べたくないんだろうけど、私が食べたから仕方なくといった感じで少量を口に入れた。
「…………これは……なかなか癖になる味ですな!」
最初は恐る恐るといった感じで噛んでいたけど、もぐもぐと食べ始めるじいや。
「子供には向きませんが……しばらく味らしい味を感じたことがなかったのでこれは喜ばれると思います!」
よっし!じいやの太鼓判を貰ったわ!ガッツポーズをしながらふと横目で川を見ると何かが動いた。目を凝らして見ると魚の姿が!
「じいや!魚もいる!食べなきゃ!あぁでも火を起こせないものね……しばらくはおあずけか……」
「あ……あれは食べられるのでございますか……?あのような不気味な生物は見たことがなく……初めて川を見つけた時に襲って来ないかと皆で隠れたのですが……」
「え!?見たことも食べたことないの!?シャイアーク国でも……ってあったとしても知らない物は食べないんだっけ。うん、あれは貴重なタンパク源になるよ。火に困らなくなったらみんなで食べよう」
見間違いでなければアレはニジマス……あぁ!塩焼きで食べたい!何としても薪とかを用意しなきゃ!薪に使えそうな流木を探してみたけれど、近くには木もなければ流木もない。
「それにしてもここまで木が生えていないのも不思議よね」
「そうでございますな。ですから私たちは呪いの土地と呼んでいたのでございますよ。……姫様!これを!」
突然じいやが砂利を指差し叫ぶので何事かと思ったら、小さな小さな木の芽が砂利の隙間から芽吹いている。
「じいや!よく見つけてくれたわ!でもまだなんの対策もしていない場所に植えられないわ……今日はこのままにして行きましょ……って、なんか成長早くない?」
さっきまで三枚しかなかった葉っぱがもう四枚目を広げようとしている。
「?こんなものでございましょう?にしても少し早いですな……」
じいやに詳しく聞いてみるとこの星の植物はどうやら日本……というか地球の植物よりも成長スピードが早いようだけど、ここまで早い成長は見たことがないそうだ。そして四季もあるにはあるけど、ほとんど一定の気温を保ち雪も降らず過ごしやすいとのことだった。というよりも雪を見たことがないというのに驚いた。
この土地は乾燥はしているけど、極めて乾燥という訳でもなくて、今の季節は夏らしくてほんの少し汗ばむくらいだし冬は少し肌寒いくらいだと聞くと、農業をやりやすいんじゃないかと思った。ご飯大事だよね!
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