第2話 異世界で出会った賢者

 ◇◇◇


 どれほど歩いただろうか。森の開けたところに、一件の小さな家を発見した。それはまるで……


「……日本家屋?」


 前世の日本でよく見た一般的な日本の住宅。異世界に死ぬほどそぐわないその建物をみて、明日香の心臓は早鐘を打った。


(まさか、まさか、まさかっ!私と一緒の異世界転移者なの!?)


「すみません!すみません!」


 明日香が少々乱暴に玄関扉を叩くと、ドアが開いて中からひとりの少年が現れた。明日香と同じ、黒い髪に黒い瞳の少年だ。


「あの!あの、私……」


 勢いよく扉を叩いたものの、いざ本人が目の前にいると、何といって良いかもわからない。


 少年は明日香をじっと見つめて、


「もしかして、日本から来た人?」


 と話しかけてきた。


「そう!そうです!私、私、日本人で!変な人たちにこの世界に連れてこられて!日本に!か、帰りたくて!あなたの噂をギルドで聞いてきたの……」


「そっか。大変だったね。まぁ、入りなよ」


「ありがとう……」


 ◇◇◇


 少年の名前は和也。明日香と同じ時代の、日本からの転移者だった。彼もまた戦うことを拒否した結果、城から追い出された口らしい。


「はぁ?この世界の人ってほんっとふざけてるのね!いったい何人日本から呼び寄せてんのよ!」


「本当にね。しかもいきなり手ぶらで放り出されるとか、思ってもみなかったよ」


「和也は何年前ここにきたの?私と同い年位だよね?」


「うーん?実はもう覚えてないくらい長い間、この世界にいるよ」


「えっ?どういうこと?」


「僕達さ、この世界にいる間年を取らないみたいなんだよね。下手したら永遠に生きていられるかも。ここは、地球の一瞬が永遠みたいに長く感じられる世界なのかも」


「そんなっ!」


「僕はずっと、日本に帰りたかった。でも、あまりに時がたちすぎて、諦めてたんだ。君が来て一年ってことは、今日本に帰っても、まだ僕達の生きていた時代に戻れるかもしれない。」


「日本に、帰れるの?」


「うん。本当はね、とっくに異世界転移の魔法を使えるようになってたんだ」


 そう言うと、家全体を包み込むようなキラキラと輝く巨大な魔法陣が現れた。


「一緒に、帰ろう?」


「うんっ!」


 この世界に異世界転移してから始めて、明日香は笑った。


◇◇◇


 目が覚めると自分の部屋のベッドの中で。ちゃんとパジャマまで着て寝ていた。


「……夢?」


 まさかの夢落ちか、と思えて笑えてきた。


「ふふっ、そうだよね。異世界転移なんてね。でも、私には向かないなぁ。和也はちょっと、かっこよかったけど。あ、いやだ、ここ、いつの間にケガしちゃったんだろう」


 見ると、腕に何かで引っ掻いたような傷ができていた。


「『ヒール!』なんちゃって!」


 次の瞬間、明日香の手のひらからキラキラと光が舞い降り、跡形もなく傷が消えてしまう。



「………う、うそだぁーーーーー!!!」



 こうして、現代日本に『奇跡の聖女』が誕生した。きっとどこかに『最強の賢者』も潜んでいる筈である。

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