第617話 実況外の探検録 Part.31


【5】


「ふっふっふ! 増幅草、ゲットです!」


 偶々見つけたドクダミが増幅草へと変わり、ご満悦の様子の狐っ娘アバターである。まぁこの辺のアイテムの入手は完全に運頼りではあるので、喜んでも問題はない。


「いやー、存在を気にしてなかった時に、サラッと出ますね! 物欲センサー、恐るべしです!」


 本当に、増幅石を狙って河原の石を拾いまくっていたのはなんだったのだろうか? 結果的に、大して使えていない投擲用の小石が大量に増えただけなのだが……。

 むしろ、実用性がある薬草を探した方が遥かに効率がよかったかもしれない。


「まぁそれはいいとして、1段階目までの溜めは完了です! ホタル、仕留めていきますよー! 獅哮衝波、発射! いっけー!」


 そうして、溜めているのを忘れ去られる事もなく、一般生物のホタルと共に『迅速なホタル』は瞬殺されたのであった。流石は遠距離からの高火力の攻撃、耐久性が低い敵ならあっという間である。


「おぉ、経験値が美味しいですね! 今のでLv51に上がりましたよ!」


 稲を探している間に、何気にデンキウナギを倒した場所より下流へと進んでいたサクラ。当然ながらその分だけ敵のLvも上がっているので、Lv49だった『迅速なホタル』の経験値はかなりの量となっていた。


「んー、確か結構進化ポイントも溜まってましたし、屈強のステータスの低さも目立ってきてるので、少し強化するのもありですかねー?」


 悩み顔になっている狐っ娘アバター。内容は珍しく、自分の意思で明確に特定のステータスを強化しようとしている!?


「えーと、今の進化ポイントが96なので……屈強のステータスを強化するルートがいいですかね? 問題は『重爪撃』と『強獲牙』のどっちのルートにするかですね……」


 本格的に屈強のスキルツリーを表示して、悩み始めていく。いや、今日の配信でその2択は『重爪撃』を選んでたんだし、そう悩む理由はある!?


「あれ? そもそも、どこまで解放出来ますかねー? 第5段階で10、第6段階で15……合計25。第7段階で20で、合計45。第8段階で25だから、合計70。第9段階は30……あ、100ですか!? むぅ……絶妙に足りないです!?」


 ほんの僅かではあるけども、少し足らない状態であった。まぁこの程度ならすぐに稼げる範囲ではあるが……その前にどっちを解放するか決めた方がいいのでは?


「よーし! この量の進化ポイントの不足なら、サクッと稼いでしまいましょう! その後、どっちを解放するか決めますね!」


 迷う余地がどこから発生しているのかがよく分からないが……まぁ目的が屈強のステータスの強化ならどちらでもいいか。

 完全体への進化が近付いてきているし、その為にも最低でも進化ポイントが100は必要になるが……それはLv60に至るまでの間に稼げる範囲だ。今はまだ、使い切っても問題はない。



【6】


 明確な解放ルートは決まり切っていないが、それでも大雑把には目的を設定したサクラ。それほどもう時間は残っていないが、この程度ならなんとか達成出来る範囲の――


「あ、敵を倒す前に、これを使って『エメラルド【火】』を増幅していきましょう!」


 嬉々として火への適応進化を封じたエメラルドを取り出して、脱線を始めたサクラである。いやまぁ、別にそれを実行する事自体はいいんだけども……完全体への進化時に増幅系のアイテムが2個必要になる事を、サクラは正確には知らない。


 先ほど手に入れた増幅草を含めて、サクラの現在の増幅系アイテムは合計で4つ。完全体への進化はLv60で可能になるので……ここで使えば、その際に引き継げるのは1つだけとなる。このタイミングでの入手は、水への適応進化を保持するチャンスなんだけど……いや、水に関しては問題ないか。


「ふっふっふ! これで『エメラルド【火】:増幅Ⅰ』の完成です!」


 ツッコミをする視聴者がいなければ、サクラの行為を止められる存在はどこにもいない。……まぁ最低限、雷への適応進化が保持出来れば大丈夫ではある。


「それじゃ早速使って……と言いたいところですが、こういうのは配信中にやった方がいいですよねー! という事で、今はお預けにしときます!」


 おーい、増幅だけして、実際に進化しないんかい! それなら別に、その増幅自体も次の配信の時でもよかったのでは!? 


「あ、そういえば胃袋のストック分の回復をしておきたかったんですよねー! 敵を倒すのにも川の中へ入りたいですけど、水への適応進化に切り替えましょうかねー?」


 宝石系アイテムの数がそこそこあるから、まぁ切り替えは自由にしてくれても構わないけど……多少は節約しようね? どんどん切り替えまくってたら、あっという間に底を尽きるからね!?

 というか、ここでわざわざ川の中に入る必要自体がある!? 川の中にしか敵がいない訳じゃないんだが!? 


「んー、どうしましょう? あ、色々と切れてますね。 『索敵』『見切り』『弱点分析』『看破』!」


 色々と悩んでる間に効果が切れていたのに気付いて、再発動をしていく。それを見て、敵の位置をちゃんと把握して!


「あ、少し先の河原に何か反応ありますね。ちょっとそこまで行ってみましょう!」


 うん、まぁ見てるのはいいんだけど……結構エリアの東端が近付いてきてるね。まぁここの上限Lvは超えているし、そう簡単に死にはしない……とか油断すると、サクラは死んでたりするからなー。



【7】


 敵の反応を見て、少し東へと進んだサクラ。その先に待ち受けていた敵は……。


「またトリカブトですか!? ちょっと今日、トリカブトとの遭遇率が高すぎませんかねー!?」


 河原を根で歩く『雄健なトリカブト』を見ながら、サクラの苦情が響く。いや、そんな文句を言われたところで、誰も何も言えないから。


「……あ、でも弱点が知恵ですね? そんな事ってあります?」


 オフライン版ではプレイ不可なトリカブトであるが、それ故に種族としては完全に独立している。だからこそ、Lvアップの際に知恵が自動的に上がるようになっているが……それでも弱点に出てくるという事も、無くはない。サクラのライオンの屈強が、ライオンにしては高くないのと大体同じ理由になるからだ。


「生命も堅牢も器用も弱点ですし……これなら、遠距離から削ればいけますかねー? 放電も使えますし……よし、手早く倒しちゃいましょう! 『放電』『放電』『放電』!」


 知恵が弱点になるトリカブトは存在し得るが……そもそも、この弱点表記は他のステータスやスキルとの相対的な差によるもの。つまり、知恵が弱点だと思われるくらいに……他が高い事になる。


「あ、直撃です! 結構削れ……ってわー!? なんか凄い勢いで迫ってくるんですけど!? 『放電』『放電』『放電』! って、当たらないです!?」


 このトリカブトで注意すべきは、弱点が多い事そのもの。その分だけ秀でている部分がより高いステータスを持っていているのだから。

 今回の場合は、『屈強』と『俊敏』に秀でていて……回避と移動速度と攻撃速度と攻撃力が非常に高い事になる。種族としてのトリカブトの特徴に気を取られ過ぎだ。


「ぎゃー!? 迫ってこないで下さい! 『放電』『放電』『放電』!」


 油断し切ったサクラは、凄まじい速度で迫ってくるトリカブトから河原を逃げ回る事になるのであった。知恵が弱点とはいえ、種族的な特徴である凶悪な毒も健在ではあるので……まぁ捕まらないように頑張れ。



【8】


「うぅ……死ぬかと思いました」


 凄まじい速度で迫ってくるトリカブトから逃げ切れずに毒を受けたり、葉っぱで切り刻まれたり、根で締め付けられながらも……なんとか放電を駆使して撃破には成功したサクラである。ただし、今にも死にかけの満身創痍……。


「って、まだ毒が入ってるんでした!? ドクダミ、ドクダミ!」


 もうあと少しで死ぬという寸前で、毒消しが間に合ったようである。……縄張りでも使えば少しは違っただろうに、慌てていた為、完全に失念していたようである。まぁサクラらしい結果だ。


「……むぅ、もう時間切れじゃないですか! 変な個体に当たったせいで、進化ポイントを稼ぐのも間に合わなかったですよ!」


 それは単にサクラが狙うべき敵を間違えただけではあるのだが……まぁツッコミをする視聴者が不在だと、こうなるものか。

 一部の視聴者が明確にサクラの変な状況を望んではいるものの、誰もリアルタイムで見ていない時こそ、そういう機会が訪れるものだ。


「……なんだか全然進んでない気もしますけど、今回の実況外のプレイはここまでで終了です……。続きはまた明日の配信でやっていきますねー」


 思ったように進まずしょんぼりとした狐っ娘アバターと、減り過ぎた生命を回復させる為に野イチゴを食べるライオンという光景で、今回は終了だ。この続きは、次回の配信からという事で。



――――


第16章、これにて終了です。

いつものように、またしばらくお休み期間に入ります。


連載再開は3月12日(火)からの予定です。

詳細は近況ノートに記載していますので、ご確認下さい。

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