第199話 機敏なヤナギ
うぅ、植物には出血効果は効かないみたいなのに、それを全然気にしないでヤナギの木の根を爪で切り裂いちゃった! どんどん根が地面から出てくるし、今のうちに出来るだけの攻撃をやっておいた方がいい?
「なんだか根が全部出てくるのに時間がかかってますね? でも今は攻撃のチャンスです! 『体当たり』! おぉ、バランスが崩れました!」
ふっふっふ、なぜか知らないけどそんなにのんびりと根を出してるからなのさー! 機敏なヤナギとはいっても、横倒しにしてしまえば良い話! 完全には倒れなかったけど、斜めには傾いてはいる!
サツキ : サクラちゃん、いっけー!
咲夜 : ん? この挙動って……もしかして?
いなり寿司 : その先は言うなよ?
こんにゃく : あー、あれか。
咲夜 : 言わないから! そこで止めたから!
ミナト : サクラちゃん、今のうちにどんどん攻撃!
イガイガ : 一気にやっちまえー!
「何か妙な反応が気になりますけど、確かにそうですよねー! 『振り回し』からの『噛みつき』!」
今のこのヤナギの木の妙な根の鈍さや皆さんの反応が気にはなるけど、攻撃チャンスなのは間違いない! 剥き出しの根を右前脚で薙ぎ払って、その後に噛みつく! 出血効果を使いたかったけど、性質的に効かないんじゃ仕方ないから諦めよう!
「むぅ……根を攻撃してるのに、中々HPが減ってくれませんね? 今までので半分くらいですか……」
どれも威力自体は上がってるはずなんだけど、弱点を攻撃してる感じがしないよ? うーん、生命が高いのか、堅牢が高いのか、どっちか他の強みになる要素がある? 攻撃をした時の反動は少なめだから、木自体が硬い訳じゃなさそうだよね。
「あ、根が全部出て……きました……? って、えー!?」
ちょっと待って!? なんで私の方に攻撃を仕掛けてくるんじゃなくて、森の奥へと根で駆け出していくの!? 待って、待って、待って!? この状況は全く想定してないよ!?
「いきなり逃げるってありですかねー!? うぅ、ともかく追いかけます!」
このヤナギの木、待てー! 半分もHPを削ったのに、反撃する事なく一目散に逃げ出すのは許さない! 追いかけられるのは覚悟してたけど、逆に追いかける事になるとは思わなかった!
金金金 : サクラちゃんではなく、まさかのヤナギの木が逃亡……。
水無月 : わぁ、木なのに速い!
ケースケ : これは……なんというか、凄まじい光景だな。
うがー! 必死で追いかけてるけど、ヤナギの木は根で走ってるのに森の木々を上手く避け過ぎじゃない!? 移動速度が速過ぎて、かなり離されてるんだけど!
「こんな逃亡ってありなんですかねー!?」
咆哮は……距離が出来ちゃって届きそうにないよ! 流石に走りながら投擲は無理だし、放電は最大まで溜めて使っちゃったからまだ再使用時間中。ここは疾走を使っちゃった方がいい?
ミツルギ : やっぱりそういう行動パターンか。
富岳 : まぁ『駆ける根』の発動の兆候は出てたしな。
ミナト : 根の動きが妙に遅い時が事前兆候だからねー。第6段階のスキルだし、疾走に似てはいるけど溜めはあるんだよー。
「えぇ!? そういう事だったんです!? わー!? 見失いました!?」
根の動きが鈍くて妙な感じはしてたけど、あれって獅子咆哮とかの溜めと同じようなものだったの!? という事は、初めからこのヤナギの木は逃げる気しかなかった?
うがー! 引き離されて見失っちゃたけど、まだ逃げた方向は分かるはず! これ以上、距離が開いたら追いつきようが無くなるよ!
「色々と覚悟と期待をしてたのに、全部台無しにしてくれたのは許しません! もうこうなったらヤケです! 『疾走』!」
森の中は足場は結構しっかりしてるし、多分使っても大丈夫! 正直、ここの森の中では走りにくそうだけど、そうも言ってられないもん!
金金金 : ここって疾走は使っても大丈夫なのか?
チャガ : 足場という意味では、まぁ気を付ければ大丈夫ではある。
ミツルギ : 見通しが良いとは言えないから、不意の敵の出現に注意……って、あっ!
ミナト : あ、遅かったみたい?
「ぎゃー!? いきなり目の前に飛び出してこないでくれませんかねー!? えいや!」
いきなり目の前に出てきた堅固なイノシシ!? うぅ、今は相手にしてる時間はないから、跳び越えちゃえ! って、あっ――
「がふっ!? ぐふっ!」
うがー! 咄嗟のジャンプで上を確認してなくて、思いっきり木の枝に顔をぶつけたー! 普通の木だったみたいで枝の方がへし折れたけど……タイミングが狂って着地に失敗して川に顔面から突っ込んだ……。うぅ、慌ててやらかしたー!
咲夜 : うわー、見事なほどの連鎖事故……。
サツキ : サクラちゃん、大丈夫ー?
「……とりあえず大丈夫ですけど、あのヤナギの木は絶対許しません!」
これもあのヤナギが逃げるから悪いんだー! 今ので朦朧にはなってないし、疾走はまだ続いてるからすぐに立ち上がって駆け抜けていく! 川に落ちた事で分かったけど、この辺りの川は意外と泥が少なくて……って、あれ!?
「がふっ!?」
泥が少なくても滑りやすかったみたいで、思いっきり脚が滑って転んで頭を打ちつけた……。うぅ、今度は朦朧が入っちゃって、疾走の効果も切れてフラフラして操作が効かないー!? 『異常耐性Ⅰ』は仕事しろー!
いなり寿司 : まぁ川の中で疾走を使えば、大体そうなるよなー。
神奈月 : 根本的に走るのに向いた場所じゃないし……。
こんにゃく : こんなに色々と連鎖する事ってあるんだな。
ミナト : 今更言っても遅いけど、イノシシに体当たりした方がマシだったかも?
「それは確かに今更言っても遅いですよねー!?」
うぅ、ここまで盛大にやらかしまくったら、ヤナギの木には逃げ切られたかも……。もう見失っちゃったし、どうしようも――
「ぎゃー!? なんで木が飛んできてるんです!?」
ちょっと待って!? なんか看破で特に敵とも出てない木が飛んできて……これ、私のとこに向かってきてない!? あ、上を通り過ぎていって、どこかで凄い音がしたね? ふー、焦ったー!
ミツルギ : あー、もしかしてヤナギの木が投げてきたか?
ケースケ : そんな事があんの!?
富岳 : 珍しいパターンだな。投擲持ちの機敏なヤナギか。
ミナト : そこそこのレアケースだねー。
「え、今、投擲持ちって言いました? というか、ヤナギの木の仕業なんです?」
うん? なんか想定外の情報が多くて、情報の内容が上手く頭の中に入ってこないよ? え、色々とどういう事なの?
ミナト : えっと、説明は順番にいこっか。まずは飛んできた木ね。あれ、逃げた木が植わり直す為に一般生物の木を引っこ抜く事があるんだよ。
金金金 : あー、なるほど。既に植わってたら、植われないもんな。
「え、既に植わっている木を引っこ抜くんです!?」
衝撃の事実! でもまぁ言われてみれば元々植わってた場所に戻る訳でもなく、逃げた先で植わるのなら、そういう事もあるのかも? という事は、もう逃げるのをやめた!?
「それなら植わってるのを見つけ出して、次こそ仕留めます!」
とりあえず朦朧は解けて動けるようにはなったけど、ヤナギの木は見失っちゃたもんね。でも大体の方向は分かってるし、既に交戦状態になってるからマップが解放出来たら見つけられるはず!
ふっふっふ、このヤナギの木は絶対に倒すよ! そうじゃないと色々と気が済まないもん!
サツキ : サクラちゃん、リベンジだー!
いなり寿司 : ま、マップが解放出来ればすぐにいけるか。
水無月 : そうなんだ?
富岳 : まぁそうなるな。ちなみに木が飛んできたのは、単純に邪魔だから投げ捨てただけだ。
ミナト : これはプレイヤーでも出来るからそこからの推測になってるんだけど、根で巻きつけて投げ捨てると『投擲』は手に入るんだよねー!
「えぇ!? 根で放り投げたら投擲って手に入るんです!? それ、無茶苦茶じゃないですか!?」
木が根で木を引っこ抜いて投げ捨てるって、もう色々とおかしいよね!? まぁ今更モンエボの根で動き回る植物にまともな常識を求める方が間違ってる気もするけど!
G : 投擲を使うライオンのサクラちゃんが言ってもなぁ……。
咲夜 : あんまり説得力はない気がする。
神奈月 : それは確かに。
「はっ!? そう言われると確かにそうでした!?」
根本的にライオンが投擲を使える時点で、もう今更だったよ! むしろ、根で掴んで投げてる分だけ、まだそっちの方が投擲っぽい気すらしてきた!? ライオンのは投擲というより、弾き飛ばしだもん!
うーん、まぁその辺はいいや! とにかくあのヤナギの木は見つけ出して絶対に倒すのさー! あ、その前に近くにはさっき急に出てきたイノシシがいるから、あれを倒しちゃおうかな? あのイノシシも邪魔してくれたもんね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます