第140話 実況外の探検録 Part.7


【4】


「仕留めそこなったのが戻ってくるのはいいですね! 今度こそ終わりです! 『葉っぱカッター』!」


 そのサクラの発声でのスキルの発動により、敵のカブトムシを切り裂くべく葉っぱの刃が飛んでいく。一度攻撃を受けて逃げ出したものの『樹液分泌』の効果で戻ってきたカブトムシは、その一撃で仕留められた。


「よし、カブトムシ撃破です! おぉ、Lv10に到達です! 進化可能になりました!」


 今回は特に変な迷走もなく、順当にLvと進化ポイントを溜めていたサクラである。Lv7からLv10までの間に進化ポイントを使ってはいないので、現時点で進化ポイントは17ほど溜まっている。

 今サクラはその進化ポイント数を確認している。進化が出来るようになってテンションが上がっているようではあるが、そこは無言でやらないで欲しいところだ。1人でプレイはしていても、これは後で公開される動画だという事を忘れないでいただきたい。


「進化ポイントはなんとか足りてますし、進化を始めましょう! って、あれ? なんか妙に進化先が増えてません?」


 いざ進化を始めようと進化の項目を開いた時にサクラは異変に気付く。そこの表示されていたのは解放済みの『器用な木』ではあるけども……より細かな進化先があった。


「えーと、木の種類が『桜』『松』『杉』『蜜柑』『栗』『樫』から選べるんですか!? え、そんな仕様なんです!?」


 驚いているけども、そんな仕様なのである。ちなみに他の木を選ぶには、アンロックされている他の木からの育成が必要になってくるが、それはまた別の話。今のサクラには関係ない事である。


「でも、これは迷う余地はないですね! 『桜』に決定です!」


 プレイヤー名からして『サクラ』であるから、サクラは迷う余地なく『桜』を選択していく。そして随分とハイテンションなサクラであった。


「それでは『器用な桜』に進化です! なんか私が器用になったっぽいですね!」


 自覚がないだけで、普通に高水準で器用なサクラがそんな事を言っている。……それでも集中力が一点のみに偏ってしまい、変なミスが多くなるため、ポンコツさやドジっ子認定が拭えないのが勿体ないところである。残念なところと言い換えてもいいだろう。


「あ、その前に一度ステータスを開いておきましょう! 今はこんな感じになってます!」


 そう言いながらサクラは木のステータスを開いていき、幼生体での上限Lvに到達した木のステータスが表示されていく。録画中だという事をしっかり思い出して、その辺の情報を見れるように配慮したのは良い事だ。


【ステータス】


 名前:サクラ

 種族:樹木

 進化階位:幼生体

 Lv:10(上限)


 生命 : 290

 屈強 : 19

 堅牢 : 29

 俊敏 : 14

 器用 : 31

 知恵 : 24


 動き回るライオンとは対照的に生命と堅牢が高いのが木の特徴的な部分。妙に器用が高いのは、サクラがそう育てた結果である。動かないという方向性を選んだため、攻撃手段としては割と適切なものではあるが。


「屈強や俊敏は低いですけど、動かないので問題ないです! さぁ、それじゃ進化を開始です!」


 一応どっちも育て方によっては重要にはなるけども、今の遠距離攻撃メインであればそれほど問題がないのも事実ではあるので、まぁ結果的には問題ないという事でいいだろう。


「進化が始まりました! いぇーい!」


 それはともかく、サクラのハイテンションな言葉と共に木の進化が始まった。ライオンの進化の時と同じように、本体である精神生命体の光が球状となり一度木の中から飛び出して、上空へと打ちあがっていく。

 それから少し滞空した後、幼生体の木の身体構成を再構築する為に精神生命体から光の帯が伸び、先ほどまでの木を分解していく。

 光の粒子へと分解されていく木が精神生命体の力をより引き出す為に、互いに混ざり合い、新たな姿へと再構築を果たし、進化を遂げていく。


「進化の〆です! いっけー!」


 そしてそのサクラの言葉と同時に、精神生命体の光が木の中へと戻っていき、その余波として光の柱が上がっていく。これで成長体への進化は終わり、完全に桜の木になった事で、桜の木には花が咲いていた。


「おぉ、桜の花びらが散ってます!? わぁ、満開とまではいきませんけど、花が見事に咲いてますね! 自分が桜の木って、なんか不思議な感じです!」


 進化後の自分の姿を確認する為の表示を見て、更にテンションが上がっているサクラである。まぁこの進化がモンエボの醍醐味の一つではあるのだから、楽しめているようで何よりだ。


「それじゃ進化後のステータスの確認です! どうなりましたかねー?」


 まだテンションが上がったままのサクラは、ご機嫌な様子でステータスを開いていく。


【ステータス】


 名前:サクラ

 種族:器用な桜

 進化階位:成長体

 Lv:1


 生命 : 440

 屈強 : 29

 堅牢 : 44

 俊敏 : 24

 器用 : 56

 知恵 : 34


「おぉ!? 生命が高いって事はHPが多いって事ですね! 堅牢も高いので、防御面は良さそうです!」


 種族的な特徴として生命と堅牢が高くなり、器用で進化した事で遠距離攻撃にも強くなったサクラの桜であった。シンプルに順当に強くなった感じだが、なんだかんだで動かないままでも進化に到達出来たものである。


「それじゃ桜の木をもっと……って、思ったよりも時間が経ってました!? 区切りも良いので、今日の木の育成はここまでです! ライオンの方のマップ解放もしないとですしね!」


 結構今回は木の育成に時間をかけていたので、サクラは慌てるようにライオンへと操作キャラを切り替えていった。まぁ今回の目的であった木の進化を達成したので、丁度いい区切りだろう。成長体になった桜での戦闘はまた明日。



【5】


 のどかな雰囲気の丘陵のど真ん中に立ち尽くすのはサクラのライオン。見渡す限り、ひたすら広い丘陵エリアである。まぁまだ夜という事で、見通せる距離は昼間よりは短くはなっている。


「さーて、ライオンでマップ解放をやっていきましょう! 今度は死なないように気を付けながら行きますねー! 『看破』『疾走』!」


 木を成長体へと進化させて、次はライオンでのマップ解放を行っていく予定にしているサクラ。初めは全然戦闘するつもりはないようで、看破と疾走でマップを埋めていく事に専念するようだ。


「あ、それなりに風が吹いてるんですねー! おっと、敵は出来るだけ回避でいきますよー!」


 そんな風に看破で敵の位置を確認しながら、サクラは丘陵エリアをご機嫌な様子で駆け抜けていく。何度か看破を使って慣れてきたのか、単純に森よりも避けやすいだけなのか、今はちゃんと敵を避けて移動が出来ていた。


「ふふーん、この感じでどんどん進んでいきましょう! 早く昼間になりませんかねー?」


 夜になってからのプレイ時間は3時間を過ぎたくらいなので、まだ2時間ほどは昼間はやってこない。もう30分ほどでサクラは寝るので、明日の配信の大半も夜になる。昼間の丘陵エリアを見れるのはまだ先の話になりそうだ。




【6】


 サクラのライオンが丘陵エリアを駆け回る。駆け回り続ける。看破と疾走を併用し、出来るだけ戦闘を避けながら、ただひたすらに……既に30分くらいは駆け回っている。


「なんで一向にマップが解放されないんですかー!? というか、このエリア、相当広くないですかねー!?」


 そんなサクラの叫びが夜の丘陵に轟くが、それに言葉を返す者はいない。配信中であれば誰かが何かを答えてくれるだろうが、今は実況外での1人でのプレイ中である。


「もしかして、これがミツルギさんを筆頭に皆さんが言ってたネタバレ案件ですか!?」


 そこは見事にサクラの推測通りである。他のエリアよりもマップが広いこの丘陵エリアでは、他のエリアのマップ解放の為の移動距離よりも長距離に設定されている。見通しもよいという事も理由に含まれて。


「これ、いつになったらマップが解放されるんですか!? うぅ、ともかくやるのみです! 『看破』『疾走』!」


 そうやって頑張ったサクラではあるが、結局寝るまでにマップの解放は出来なかった。折角の気遣いだったのだが、それをサクラ自身が受け取らなかったのだから仕方ない事である。先に聞いてさえいれば、少しは気分が楽だっただろうに……。

 まぁそのおかげと言って良いのかは微妙だが、ゲームを終わらせる頃には看破と疾走のスキLvが2になっていたのは成果と言っても良いだろう。

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