第52話 草原の中に


 うぅ、不名誉なドジっ子がまたやってきたー! いなり寿司さんめ、恨むぞー! ふぅ、まぁ私ならそんな不名誉な称号はすぐに返上出来るけどね! ドジっ子じゃないんだから!


「さーて、それじゃあと1の進化ポイントを取りに行きましょうー!」


 気にしててもどうしようもないから、今はやるべきことをやっていくのみ! すなわち、識別の取得!


「えっと、あっちの方に光の柱が上がってましたよねー!」


 うん、ここに来る途中に他の光の位置の確認はしておいたから、一番近かったのはそこら辺のはず。ここから左側の方に光の柱があったと思うから、その周囲に行けば成長体の敵がいるはずなのさ!

 もう進化の際の光は消えてるからすぐに見つかるかなー? 木みたいに動いてくれれば分かりやすい……。


「って、あれ!? 木が進化してる可能性もあります?」


 木も幼生体なんだし、進化してる可能性はあるよね! うーん、そうなると木が歩くのが当たり前になってきたりするのかな?


ミツルギ : おう、その可能性はあるぞ。

ミナト : うん、そうなるね。多分一番分かりやすいのは木の進化だよ。

咲夜 : さて、どんな木になってるかな?


「おぉ、やっぱり木の可能性があるんですね! それじゃ木を倒しに行きましょう!」


 出来ればもう1つくらい攻撃用のスキルが欲しかっったりもするけど、進化ポイントが足りなくなるから仕方ない。まずは識別を取って、敵が成長体かどうか……。


「あれ? 成長体から見た目に変化が出るなら、識別って必要あります?」


 見た目じゃ一般生物と幼生体の見分けがつかなかったり、成長体に進化して進化ポイントが入る幼生体のLvが分からないから識別を必要としてたけど、今ってその必要性が薄いんじゃ?

 だって、今は白い模様が出るんだから見た目で分かるもんね。つまり、成長体を狙って探していけば、識別が無くてもなんとかなる! 単純に攻撃用のスキルがもう1つ欲しいから後回しにしようとしてるだけだけども!


ミツルギ : あー、寝て一気に進化が進んだから、逆に今すぐ必須ではないのか……。

富岳 : 確かにそれはそうだが、取っておいた方が楽ではあるぞ?

神奈月 : 今って進化ポイントは3だよな。そもそも他に取れるスキルって何かあったっけ?

ミナト : えっと……サクラちゃんは確か俊敏で第1段階は解放してたはずだから、そこならいけるかな?


「あ、はい! 解放してますねー! あ、『連爪』なら今すぐにでも解放出来ます!」


 もう1つの分岐先の『疾走』は多分攻撃用のスキルじゃないから、今は必要なーし! そっか、そもそも他の攻撃スキルも『識別』と同じ第2段階の項目になるから、結局必要になる進化ポイントが同じなんだ。

 でも、俊敏のスキルツリーならこの『連爪』が即座に取得出来る! ふっふっふ、選択肢が1つでもあるということは、私にこれを取れという事!


「うん、決めました! 『識別』は後回しにして『連爪』を先に解放します! どう考えても、攻撃スキルの数が足りてません!」


ミツルギ : どっちにしてもどこかでスキル数を増やす必要はあるし、ありっちゃありか?

いなり寿司 : ……予定通りには全然進まないのがこの配信か。

金金金 : 何を今更……。

ミナト : まぁそこはサクラちゃんが決める事だねー! 私はこの状況においてのみでだけど、識別は後回しって選択肢はありだと思うよ。

神奈月 : ふむ、まぁさっきまでと違って、今は成長体も普通にいる訳だしな。


 おぉ、ミナトさんからありの判定が出たね! それなら少し予定を変えて、その方向でやっていこー!


「それでは予定を変えて、『連爪』を解放してきます!」


 名前的に、爪での連続攻撃だよね! どういう風に攻撃の指定が出るか分かんないけど、今は再使用時間を待っている間のスキルが必要なのさー! という事で、俊敏のスキルツリーを開いて『連爪』を選んで解放だー!


<『俊敏』第2段階:スキル『連爪』を解放しました>


 よし、解放完了! そして進化ポイントは全て無くなったー! でも、これで攻撃用のスキルは『投擲』『噛みつき』『爪撃』『連爪』の4つになったよー!

 多分だけどこれで再使用時間の無駄がなくなるくらいのはず! 待ったとしてもそこまでは長くない!


「ふっふっふ、これで攻撃スキルが増えましたよ! んー、でもこうなると堅牢の『体当たり』も欲しくなりますよねー!」


 攻撃スキルが増えたらそれだけ再使用時間の無駄なく攻撃が出来るもんね! 数があればあるほど、色んな攻撃の仕方も出来るのです!


ミツルギ : サクラちゃん、分散して取り過ぎには注意な?

いなり寿司 : スキルツリーを伸ばしていかなきゃいけないのを忘れるなよ!?


「やだなー、それくらいは分かってますよー」


 本当に『体当たり』は欲しいけども、攻撃スキルを増やす事自体はスキルツリーの先を解放していく事でも出来るもんね。

 ……本当に『体当たり』を取ろうかと思ったけど、そこは自重しよう! 次は本来の予定の『識別』を取るのです!


金金金 : 狐っ娘アバターの目が泳いでるな。

真実とは何か : 真実は……『体当たり』を狙っていたか。

イガイガ : サクラちゃん!?

チャガ : 気持ちは分からんでもないがな。


「うぅ!? 私のアバター、私の心境を雄弁に語り過ぎじゃないですかねー!?」


 自分で作っておいて言うのもなんだけど、その辺の作りが変だったかも!? うーん、ちょっと作り直して……でも、表情が豊かだから作り直すってのもやだなー。

 まぁこのままでいっか! 兄さんにはポーカーフェイスが出来ないとか言われるけど、感情を隠す必要なんてなーし! という事でこのまま続行!


「それじゃ木を倒しに出発ですよー! 確かこっちの方向に……って、わー!?」


 ちょっと待って! ちょっと待って! 少し進んだらすぐに目に入ったけど、この光景は完全に想定外だった! でも、こういう事ってあるんだ!


「草原に桜が咲いてますよ! なんですか、あれ!?」


 まさか、まさかの桜の木の出現! これは確実に今までいなかった木だし、草原には場違いな雰囲気のある木!

 あ、でも川沿いに植わっててくれれば、綺麗な桜の木でお花見が出来そう?


「というか、桜の木が歩くんじゃないですよ! 驚き半分で綺麗だなーって思ってたのが台無しじゃないですか!」


 やっぱり木は根で歩くんだね! 桜の木であっても、そこは同じなんだね! というか、間違いなく成長体なんだろうけど、木は見た目が変わり過ぎじゃないですかねー!?


金金金 : サクラちゃんが、桜相手にキレてる。

イガイガ : どこかであるとは思ったけど、サクラちゃんVS桜の木の組み合わせは早かったなー。

ミツルギ : まさか2体目の成長体との遭遇で実現するとはなー。

ミナト : サクラちゃん、どうせならスクショを撮っておく? ほら、サクラが桜に挑むとか出来るよ?


「折角ですけど、何となくそれは嫌なので止めておきますねー! でも、桜の木を逃す気はないので、戦闘開始です!」


 うーん、ミナトさんの提案自体はありだとは思うけど、桜の木を私と並べて大々的に使う事には拒否感があるから却下! 桜自体は好きだし、こうやってキャラの名前にもよく使うのになぁ……。あの件さえなければ……。


 うがー、そんな事を考えてたら嫌な事を思い出してきた! 私が夏休みの課題で選んで作った桜の木のモデルは、そのままリアルのスキャンした偽物じゃなーい! 誰が手抜きでズルの偽サクラだー!

 

金金金 : 今、一瞬凄い嫌そうな顔をしてたけど、サクラちゃん大丈夫か?

ミナト : サクラちゃん、私の提案が何か気に障ったなら謝るね?


「え、あっ!? いえ、今のはちょっと嫌な事を思い出しただけで、ミナトさんがどうとかいう訳じゃないので、気にしないでください!」


 うぅ、そんなつもりはなかったのに、ミナトさんに謝らせてしまった! くっ、忌まわしきかな、中学時代のあの出来事!

 私が一生懸命作ったものを、偽物だとかなんだとか散々好き勝手なことを言って……! そのうち人の本名まで弄りだして、ふざけるなー!


ミツルギ : ……サクラちゃん、大丈夫か?

ミナト : サクラちゃん、ごめんね?

いなり寿司 : 考えなしの能天気なドジっ子に見えて、悩みもあるんだな。


「はっ!? 地味にいなり寿司さん失礼じゃないですかねー!? 私は能天気じゃないですし、ドジっ子でもなーい!」


 どさくさに紛れて、この寿司の人は何を失礼な事を言ってるんですかね!? そりゃ私にだって悩みくらいありますよ! よし、そんな失礼な事を言う人にはこれだー!


「次の一戦、あの桜の木をいなり寿司と呼ぶことにします!」


いなり寿司 : ちょ!? えぇ!?

ミツルギ : いなり寿司、今のはわざとか?

いなり寿司 : ……はて? てか、これから倒す桜の木に俺を名前ー!?

ミナト : でも、サクラちゃんはいつもの雰囲気には戻ったね。……良かった。

金金金 : とりあえずホッとした。サクラちゃん、頑張れー!

イガイガ : いなり寿司をぶっ飛ばせー!

富岳 : いなり寿司をやっちまえ!

咲夜 : ぶっ殺せ、いなり寿司を!

チャガ : 分かってるのに容赦ねぇな、お前ら。


「はーい! くたばれ、失礼ないなり寿司ー! 進化ポイントを寄越せー!」


 ふっふっふ、ちょっと変な雰囲気になってしまったのもどっかに吹っ飛んでいったよ! そっか、一瞬イラっとしたけど、今のはいなり寿司さんが雰囲気を無理矢理変えてくれたんだね。……よし、少し落ち着いた。

 ならば、全力でそれに乗っからせてもらうまで! とりあえず桜の木をぶっ倒して、進化ポイントを手に入れる! そして新スキルの実験台にもなってもらうのさ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る