第15話 幼生体を探せ


 ふっふっふ、ゾウは倒せた! 多分……幼生体じゃなくて、一般生物だったと思うけど、今のはゾウを倒せたという事実が最重要なのですよ! 忌まわしきゾウを倒したよ、いぇーい!


「さてさて、ここからどんどん倒して進化ポイントを集めていきますよー! 次はどれを狙いましょうかー?」


 まだ幼生体と戦ったのはあのゾウに殺された時だけだからねー。幼生体も見つけてちゃんと進化ポイントを貯めて、スキルツリーの解放をして――


イガイガ : あっ。

咲夜 : サクラちゃん、下、下!


「はい? え、下? って、何ですかこれー!?」


 あわわっ! なんで地面の生えているはずの雑草がこっちに向かってきてるの!? えぇー、根で歩いてるんだけど!?

 あ、そういえば種族に草花とかいたよね。という事はこれは幼生体! 一般生物でこんな動きをされたら嫌だよ! 歩く雑草なんてリアルじゃ見たことないし!


「なるほど、これが幼生体の草花という訳ですね! 種族選択に草花がありましたし、そういう事で良いんですよね?」


 どうやらまだ攻撃を仕掛けてきていないし、動きもそう早くはない。そっか、草花ってこんな感じなんだねー。


ミツルギ : あ、普通に覚えてたか。

神奈月 : その認識で合ってるぞー!

チャガ : もう遭遇したし、これは言ってもいいか。草原だと動いている草花の幼生体が見つけやすくはあるぞ。

金金金 : その情報は、思いっきり見たままっぽい。

チャガ : まぁ見たままを言ってるからな。


「なるほど、なるほど! 見た通り、露骨に動かないはずの植物が動いているという事で分かりやすいですね! とりあえず、この雑草……これ、雑草です? 私、植物の名前が分からないんですけど」


 なんかその辺の道端に生えてそうな草ではあるし、草原に生えてても不自然な感じではない植物だけど、名前が分からないものは分からない!


ミツルギ : あー、それは何だっけ? 幼生体の時ってあんま気にしないからなぁ……。

イガイガ : その雑草はデザインとしてはヨモギだな。まぁ幼生体の時は、草花って括りだけでそれ以上の意味はないし、あんまり気にしなくていいぞ。

咲夜 : 1段階進化してから、草花は正式に名称が変わってくるもんな。


「ほうほう、そうなんですね!」


 なるほど、正直何を言っているのかよく分からないけど、とりあえず今は気にしなくていいという事だけは分かったので良しとしよう!

 さっきからちょっとずつ、この……気にしなくていいなら雑草でいいや! 雑草が近づいてきてるけど、これは私を狙ってるよね? よーし、それなら返り討ちにするのみ!


「とりあえず、雑草には死んでもらいますよ! 進化ポイントをよこせー!」


ミツルギ : なんか言ってる事が悪役っぽい。

イガイガ : まぁ殺しあっての生存競争ではあるから、間違ってはいない。

ミナト : サクラちゃん、ファイトー!


 ふふふ、そういうゲームなんだから、気にする方が駄目だよねー! という事で、私のライオンよ、雑草を倒すために移動開始! 


 さて、大きさは私のライオンより小さいし、動きも遅いから、どう攻撃しようかなー? とりあえず突っ込んで、爪で切り裂いてみる?

 というか、ライオンには遠距離攻撃はないしねー! 『器用』のスキルツリーを解放していけば、遠距離用のスキルが手に入るかな? うーん、今は考えても仕方ないから、近接攻撃でいこう! 爪で雑草を切り裂くのだー!


「いっけー!」


 気合を入れた声を出しつつ、雑草に向けて突撃だー! さっきは飛び上がるタイミングが遅すぎたから、今回は少し早めにジャンプからの――


「えぇ!? そんなのありですか!?」


 うそ!? この雑草、振り下ろそうとした前脚に根を絡めてきたんだけどー!? ちょっと待って、そのまま投げ飛ばさ――ぐはっ!


ミツルギ : あっ。

イガイガ : あっ……。

神奈月 : え、ここで投げ飛ばされるとかってあるの? 初めて見たんだけど。

チャガ : ……俺も初めて見たな。

咲夜 : ……投げ飛ばされたというか、サクラちゃんの勢いを利用して投げたって感じだったけど。

ミツルギ : 偶発的に発生した、合気道みたいなもん?

イガイガ : そんな感じな気がする。

金金金 : サクラちゃん、大丈夫かー?


「なんなんですか、今の!? 雑草の根、どうなってるんですか!?」


 うぅ、思いっきりライオンの背中から地面に叩きつけられたー! 根で掴んでくるなんて聞いてない! ……まぁ初見プレイで他バレ無しでやってるんだから当然だけども!

 ほんと、慌てたよ、もう! あぁ、HP ……じゃない、生命だっけ。今ので半分も無くなってるし、余裕だと思ったのに全然余裕じゃなかったー!


「というか、皆さんがなんで驚いてるんです!?」


ミツルギ : いや、草花が根で掴んでくるのは知ってたけど、今みたいに投げ飛ばされるのはなぁ……?

イガイガ : というか、あのタイミングでなんでサクラちゃんはジャンプした?

咲夜 : ジャンプする必要性は特にないし、むしろ逆に狙いにくくなるような……。


「え、今の場面でジャンプ禁止なんです!? って、わっ!? 今度は何ですか!?」


 地面に叩きつけられた状態から起き上がろうとしていたら、何か葉っぱが飛んできたんですけど!? えっと、えっと、回避!? それとも迎撃!? わっ、間に合わない!


「……飛んできた葉っぱで切られましたよ! なんなんですか、この雑草! 攻撃的過ぎません!?」


 どう考えても普通の雑草の動きじゃ……うん、そもそも根で歩いている時点で、普通の雑草な訳がないよね!


ミツルギ : あー、これ、地味に相手が悪くね?

イガイガ : 確かにそうだなー。

金金金 : ん? どゆこと?

咲夜 : 金金金さん、わざと言ってる?

真実とは何か : 真意は、代わりに聞く事と見た。


「えっと、それってどういう事ですかー? って、聞いてる場合じゃなーい!?」


 やだ、やだ、やだ! 雑草が根を伸ばしてどんどん近付いてきてる!? うぅ、相手が悪いって意味が地味に気になるけど、今は回避優先! とりあえず雑草から距離を取れー!


 よし、さっきの切れる葉っぱを飛ばしてきても、根で歩いて近付いてきても、どうにか対処できる距離は取れた!


「ふぅ、これでひとまず安心です! 油断せずに倒していきたいとこですが、相手が悪いってどういう事ですかー!?」


ミツルギ : ここで教えてもいいけど、出来ればサクラちゃん自身で考えるべきとこだと思う。

イガイガ : あー、その方が良いかもしれん。

金金金 : 俺としても推測はしてるけど、正確な答えは知りたいとこだ。

咲夜 : やっぱり、推測は出来てるんだな。

チャガ : サクラちゃん、相手が悪い理由は既に答えを出せるだけの条件は揃っている。その上で考えてみるといい。


「私自身が理由を考えてみればいいんですね! ……このまま戦っちゃ駄目なんです?」


ミナト : んー、絶対に勝てないわけじゃないから、死亡覚悟で良ければ問題ないよー?

ミツルギ : まぁ、そこはミナトさんの言う通りだな。

神奈月 : そこはサクラちゃんが決めたらいいとこだ。俺らがサクラちゃんの行動を制限するわけじゃないし。


「なるほど、それじゃこのまま戦っても問題ないんですね!」


 うーん、皆さんは相手が悪いと言っているから、ここは撤退が安全策なのかもしれない。だけど、そんなの知った事かー! ちょっと厄介な敵が現れたからって、死ぬのが怖くて逃げてたらゲームはやってられないのですよ!


「考えるのは、倒した後か、倒された後で考える事にします! 私の意地を見せてやるのです!」


 ただ考える余裕がないともいうけどね! もうやけくそですよ、この雑草との戦いは! でも、気持ちで負ける事だけはしない!


ミツルギ : よし、サクラちゃんがそう決めたなら見守ろう。

イガイガ : 絶対に勝てないと決まったわけじゃないしな。

金金金 : さて、サクラちゃんが勝てるかどうか、予想でもしてみるか。あ、俺は負けに1票で。

咲夜 : 負けに1票。

神奈月 : 同じく負けで。

ミツルギ : ……すまん、サクラちゃん。俺も負けで。

イガイガ : そこは嘘でも勝ちにしてやれよ。あ、俺も負けで。

チャガ : 言わなきゃダメか……?

真実とは何か : 言わなくてもいいが、それは言ってるのと同じだ。負けに1票。

ミナト : あはは、見事に勝ちを選んでる人がいないねー! それじゃ私はサクラちゃんがかわいそうだから、勝ちにしとくねー!

咲夜 : その理由、本心では負けだと思っているだけなのでは?


「誰1人として、私が勝つことは想定してくれないんですね!? うがー! 絶対に勝って見返してやりますよー!」


 うぅ、ミナトさんの優しさからくる言葉が逆に辛い! ともかく言われっぱなしで、この雑草に負けてられるかー!

 さっきはジャンプして失敗したから、今度はジャンプなしでいくぞー! あ、よく考えたら、ジャンプしてる間は避けられないし、雑草は地面にいるんだから普通に攻撃は届くし、意味ないよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る