Relay:Monsters Evolve ~ポンコツ初心者が始める初見プレイ配信録~

加部川ツトシ

第1章 配信、始めます!

第1話 まずは中継の準備から


「忌まわしいテストが終わったー!」


 いやー、何でテストってあるんだろうね? まぁ、テストの存在意義なぞ、赤点を回避した私には無縁なのだよ! ものすごいギリギリだったけど!

 それはともかくとして、苦しみながらやっていたテスト勉強の合間に考えていた計画を今こそ実行に移す時!


「ふっふっふ、これこそ私に求められていたもの! そうに違いない!」


 夏休み前の嫌なテスト期間に入った時に、息抜きで見たとある情報。すなわち、VR機器本体の大幅アップデートの告知。今までこの機能を希望していた人は多く見た。

 ただ、どうしても機能の問題で出来なかったこと。それはVRゲームの……正確に言えばVR空間のリアルタイム配信機能! 録画でならゲームによっては出来てたし、それは私も見ていたのさ!


 厳密には一般向けのヘルメット型のVR機器ではなく、業務用のお高い寝っ転がって使うVR機器では可能だったし、実際にいくつもの公式なプロゲーマーによる配信は行われていた。

 それが、それが、遂に一般向けの機器でも使用出来るようになったのである! 出来るようになったのはテストの最中だったけどね! そして思ったのだ、これは私にも配信をやれという事なのだと!


「さーて、どれにしよっかなー?」


 という事で、ゲームの実況プレイを配信をする事に決めた。とはいえ、ゲーム側で配信機能に対応している必要があるので、何でも出来る訳ではない。

 今は携帯端末のAR表示で、既に実況プレイが行われているタイトルと、配信に対応しているタイトルの確認中なのさ!


「んー、手持ちで持ってるゲームは大体もう有名な人がやってるかー。二番煎じは嫌だしなー」


 既に同じ事をしている人がいる時点で二番煎じではあるんだけど、そこは気にしていたら何も出来ない! でも、私自身はゲームは好きだけど、超絶なプレイヤースキルは持っていないからねー。

 そうなると、どこかで意外性が欲しいところ。今は珍しくゲーム1本なら新しく買うお金はあるから、持っていないゲームでも問題はない。むしろ、今までやった事がないゲームの初見プレイの方が良いかも?


「よーし、その方向で探してみよう!」


 配信機能を提供している企業は動画サービスの大手という事もあり、なんと投げ銭機能も実装されているのである!

 確かVR空間で作った個人作成の映画とかでよく使われてるんだよね! 私も投げ銭し過ぎてお金を使い果たして、何度兄さんに泣きついた事か。うん、それはいいや!


 ふっふっふ、ゲームの実況プレイを配信して、それで投げ銭をもらって、そのお金で新たなゲームを買って、そしてそれを繰り返していく。これこそ、夏の私の計画!

 外? 暑いので出ません! 友達? そんなものはいない! 夏休みの課題? そんなものは飼ってる犬に食わせてしまえ!


「あ、これは変わってて良さそう?」


 目に付いたのは、『Monsters Evolve』という、妙な人気が出ていたゲーム。確か少し前にオンライン版のサービスが始まり、絶大な人気とまではいかずともそれなりに堅調な人気を獲得しているゲームだったはず。

 こっちはオフライン版の旧作という形にはなるのかな? 配信機能が追加される際にあった説明では、オンライン系や新作は配信には対応していないという事だったしね。

 理由は書いてたけど……よく分かんない! 新作でもオンラインでも配信させてくれれば良いのにねー。


「よーし、記念すべき初配信は『Monsters Evolve』、君に決めた!」


 正直、どんなゲームかよく知らないんだけど、まぁここはピンときた私自身の直感を信じるのみ! ふっふっふ、視聴者がどんどん増えていく光景が目に浮かぶ! あー、扶養から外れるくらいに稼いじゃったらどうしよっかなー?


「それじゃ、環境を整えていきますかー!」

 

 とりあえずゲームを購入してダウンロードさせている間に、配信環境の導入の仕方を解説しているサイトを開き、配信の準備を開始していこう!

 正直、何が書いてあるかよく分からなかったけど、やってればなんとかなるでしょう!



 ◇ ◇ ◇



 はい、自力じゃ配信の準備は達成出来ませんでした。初手からこんなハードルがあるとか聞いてないよ! クレーム窓口はどこ!? 今すぐクレームを言いに行くから!


「おい、設定は終わったぞ」

「……うぅ、ありがとう、兄さん」

「まったく、配信って何をやる気だ、お前?」

「それは言えないお約束!」

「……そうか、それなら設定したのは破棄するか」

「わー!? 待った、待ったー!?」

「……まぁいい。分かりやすいように起動手順はまとめて、携帯端末の方に送っておいたからそれを見ながらやれ。それと、バイト帰りで寝てるところを叩き起こすのだけは止めろ」

「ははー! ありがとうございます、兄上様」

「……次にやったら、お前のVR機器からの接続をホームサーバーから弾くからな」

「酷い!? あ、このまとめた起動方法、分かりやすいかもー!」

「……はぁ、俺はもう行くぞ」

「うん、わかったー!」


 何か兄さんがため息を吐いて私の部屋から出ていったけど、そこは気にしない! なんだかんだ言いながら、私に甘いのが兄さんなのだ!

 その証拠に、頼んでもいなかったこれからの起動手順を図解も添えて用意してくれてたしね! ……時々本当に怒らせたら怖いけどね。


「さて、それじゃ今度こそ配信開始までいくぞー!」


 という事で、兄さん謹製のマニュアルを見て起動していこう! えーと、まずはホームサーバーに配信用のVR空間を作成……あ、今回はしておいたから、次からは自分でやれって、もう兄さんってば!

 その次は、配信の際に使うアバターの用意。うん、これについてはテスト勉強の合間にちまちま作った自信作があるから問題なし! いやー、多分総作成時間はテスト勉強の時間より長い……あれ、テスト勉強の合間に何やってたの、私?

 ううん、それでも赤点は取っていないから問題なし! ほら、テスト勉強の息抜きって大事だしさ! ……うん、赤点でなくてホント良かった。


 えーと、それで次は……配信したいゲームの指定をして、その状態でフルダイブを開始すれば良いんだね。あ、その時に使用するアバターも指定するんだ。

 操作は連携した携帯端末から出来るんだね。ゲームのダウンロードとインストールと最新版へのアップデートも終わってるから、そこも問題なし。

 

「配信したいゲームは『Monsters Evolve』を指定して、配信に使うアバターは力作の『九尾の妖狐』! アバター名はゲームでいつも使ってる『サクラ』で!」


 ふふん、私が作ったアバターは銀髪で狐耳のもふもふな尻尾が9本ある、和服姿の可愛らしい狐っ子なのさ! 大人っぽいのにしようかとも思ったけど、可愛らしさを優先した! 妖狐のサクラ、うん、気に入った!

 でも、アバターってゲームに切り替わったら、ゲームのアバターに変わっちゃうんだよねー。まぁ、視聴してる時は画面の隅にアバターも表示されてるのは見た事あるし、問題ないはず!


「それじゃフルダイブ、いってみよー!」


 そうして、ヘルメット型のVR機器を頭に被り、ベッドに横になって、フルダイブを開始する。えーと、直接ゲームを起動するんじゃなくて、先に配信用に用意したホームサーバーのVR空間にフルダイブしろって書いてたね。


 さーて、配信開始まであと少し! そういや全然ゲームの説明も読んでないんだけど、どんなゲームなんだろ?

 うろ覚えだけど、確かモンスターになって、進化していくってゲームだったよね? あ、そういやEvolveって進化って意味だ! ゲームタイトル、捻りもなくそのままじゃん!


 ま、それはやりながら覚えればいっか! 初見プレイなのに、事前に情報を調べてるのもあれだしねー! よーし、お金も欲しいけど、純粋に楽しんでやってみよー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る