第26話決意と奈落
〈紅桜〉に支配され、人ではなくなる。
構える〈紅桜〉が、小さく震える。
私は……何を信じればいいのだ。
確かに歴代の刀隠れの巫女は戦に倒れる者が多いが、宿命と信じていた。
優しく幼子に言い聞かせるように口を開く魄皇鬼に、桜の花びらが舞う。
それは私に見せた儚くも美しい桜の姿ではなかった。
怒り、叫ぶように花は魄皇鬼に立ち向かう。
桜が鬼と戦っている。
そんな風に感じて、視線を桜に走らせる。
一人の巫女が、確かにそこに立っていた。
「
短く呟き、開いた手のひらから蒼白い炎が踊る。
チリチリと焼け焦げる桜の下には、もう巫女の姿は消えていた。
朱色袴に高く結った髪。
年の頃は私と同じ十五、六だろうか。
あの顔は、見覚えがある。
〈紅桜〉の刀身に写り込んだ、記憶の中の巫女。
おそらく、おおじじ様の話してくれた、この村を救う為に戦った刀隠れの巫女。
そうだ。
カチャリと刀身を鳴らし、しっかりと〈紅桜〉を構える。
「今〈紅桜〉を手放せば、お前を滅ぼすことが出来る物がなくなってしまう」
おサナばぁちゃん。おヨウ、おフウ。
おミヨの大好きだったこの村。
「考えるのは、お前を葬ってからだ」
今は信じるしかないんだ。神刀〈紅桜〉の力を。
「愚かな」
私の愚行をたしなめるわけではない、むしろその口調は抵抗を待っていたかのような喜びを含んでいる。
「聞き分けの悪い妹を持つとは、貴様の苦労が
「兄に、何かしたのかっ!」
そろそろ帰る頃かとは思っていたが、確かに遅い。
魄皇鬼の掲げる左手のひらに、ボォっと霞がかかり、徐々に丸く形を成していく。
暗く落ちる影は、人の顔を創り出す。
その光景に私は立っていられなくなり、回廊に崩れ落ちた。
肉塊がゆっくりと瞳を開く。
「
暗く淀んだ兄の首、その唇が私の名を呼んだ。
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