第6話魄皇鬼 1

 ◾︎◽︎◾︎◽︎


 村を炎が襲う。

 大人も子供も悲鳴を上げ、逃げ惑い、襲いかかる妖魔になすすべなく狩られていく。

 渦巻く風が炎を煽り、家を人を飲み込んでいった。


 白く豊かな長い髪を、炎の熱気が巻き上げる。

 炎の舐める屋敷の屋根から、村を見下ろす美しい青年の顔に表情はない。

 彼にとって人の生き死になど、地を這う虫の様にどうでもいい物。


 ならばなぜ狩るのか?


 自問に、わずかに表情が動く。


 本能。殺戮さつりくの衝動は何にも代えがたく身を揺さぶる。


 ふと、心地よい人の悲鳴の中に妖魔の断末魔を聞き視線を巡らせた。


 その数は徐々に増し、消えていく妖魔の気配はこの村の中心、魄皇鬼はくおうきの居るここを目指している。


 ほぅ。

 強い者がいるな。


 屋根の上から見下ろすと数人の人間が、札や、こんを手に次々と妖魔を打ち倒していく。


魄皇鬼はくおうき様」

 かたわらに膝をつき、うやうやしくこうべを垂れる牛鬼には目もくれず、下の様子を見続ける。

「すぐに落ち着きますゆえ、この……」


 ザシュッ!


 聞き逃すかと思うほどの小さな音だった。

 牛鬼は最後まで言葉を発する事なく、その首は屋根を転がり落ち、炎の中に消えていく。


 ドサリと重い音を立てて崩れる牛鬼の身体の影から、朱色袴の細身の人間が姿を現した。


 女。


 輝くばかりに光に満ちた細い刀身が炎の照り返しを受ける。


「鬼。非道は許しません」

 歳は十五、六か。

 高く結った長い髪が、巻き上がる熱風になびく。

「神刀〈紅桜〉参ります」

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