第7話 ポダンさんからの採取依頼


 素材の売却を終えて懐が潤った俺は、雑貨屋の商品を見ることにした。


 神様から貰った異世界セットがマジックバッグにはあるが、それは最低限のも

の。


 せっかくマジックバッグがあるのだから、採った素材を外で料理して食べるため

の道具くらい揃えておきたい。


 素材を採取してその場で料理する。なんだかアウトドア的な感じがして憧れる。


 キャンプのように野外で料理する姿を浮かべながら、棚に並べられているフライ

パンや鍋、お皿、コップなどの必要な道具を手に取っていく。


「シュウさんは料理道具を買いたいの?」


「ああ、外で採った素材を料理とかしてみたくてね」


「それならおすすめの商品がありますよ」


 ポダンさんはそう言うと、奥の部屋に引っ込んだ。


 そして、ガサゴソと物を漁るような音が聞こえ、ほどなくして四角い箱と紫水晶

のようなものを持ってきた。


「これは?」


「魔道コンロという火をおこす魔道具です。魔物からとれる魔石を燃料としていま

す」


「それは便利そうですね!」


 ポダンさんの持ってきた魔道コンロとやらを鑑定して、詳しい情報を見てみる。




【魔道コンロ】

 魔石を燃料として火をおこす魔道具。ひねりを回すことで火加減を調節すること

ができる。火が強いほど魔石を多く消費する。魔石を交換して使うことで継続して使うことができる。




 おお、カセットコンロみたいなものか! ちゃんと火加減の調節もできるしこれ

は便利だ! 


 摩擦におって火をおこすなんて芸当ができない俺からすれば、これは大変役立つ

もの。


 バッグの中には初級魔法の書があり、ざっとだけ読んだが料理する時にはこちら

の方が俄然とやりやすそうだ。


「こちらにある紫水晶が燃料となる魔石ですか?」


 手の平にすっぽり収まるほどの紫水晶。


 濃厚な紫色をしており、中に魔力がこもっているのがわかる。


「ええ、魔石を見るのは初めてで?」


「素材採取ばかりで魔物の討伐をしてこなかったもので。ワーグナーの牙やホーン

ラビットの角も拾ったものなんです」


「なるほど。ちょうど生え変わりのものだったのでしょう。とても運が良かったです

ね」


 そんな運がなければ拾えないものでも、調査にかかれば確実に見つけられるんだ

よなぁ。



【魔石】

 魔物の体内に存在する魔力の結晶。魔道具や武具の精錬に利用される。純度が高いほど価値が高く、魔力が強い。



 試しに鑑定してみると魔石と表示された。


 あれ? もしかして、この魔石を素材として認識して調査すれば、すべての魔物

を感知できるんじゃないか?


 そうすれば魔物の個体を正確に感知できなくても、範囲内にいる害になりえる魔

物の全てを感知できる。


 まあ、そのことは後で試すとして、今は魔道コンロだ。


「ちょっと使ってみてもいいですか?」


「ええ、ここに魔石を入れてください」


 ポダンさんが箱側の蓋をあけるので、そこに魔石を入れてみる。


「後はこのつまみを押しながらゆっくり回すだけです」


 ポダンさんに言われた通りにつまみを回すと見事に火がついた。


「わっ、すごーい! たったこれだけで火がついちゃった!」


 試しにつまみを回してみると弱火から中火、そして強火へと変わる。


「火加減も調節しやすくて使いやすいな」


「うちにこれがあれば薪を集める必要もないのになぁ」


 ニコの言葉を聞く限りでは、この魔道具はあまり一般家庭に普及していないもの

のようだ。


 これだけ便利なものが普及していないとなると、結構なお値段がするのだろう。


「ちなみにこれの値段は?」


「本来ならば金貨十枚以上する代物ですが、稀少品を売ってくださったシュウさん

には特別に魔石付きで金貨八枚でお売りしましょう」


 ぐっ、相場からすれば大分安くなっているのかもしれないが、いきなり金貨八枚

も減ってしまうのは少し痛いな。


 他にもフライパンや鍋だって買いたいんだ。それらを買い込むと懐が随分と寂し

くなってしまう。


 だけど、ただでさえ格安にしてくれるものをさらに値切るのは申し訳がないなぁ。


 しょうがない。もう一度ホワイトスネークの皮を手に入れて売りにくるか。


「シュウさんの腕を見込んで採取の依頼をしたいです。その品を採ってきてもらえれ

ば金貨五枚でお売りしましょう」


「それは俺としても嬉しい限りですが、あまりに難しいものや強い魔物の素材など

は無理ですよ?」


 さらに安くなるのは嬉しいが、金貨三枚ほどが減額される依頼となると身構えて

しまう。


 あまりにも道が険しかったり、時間がかかるようなものは無理だ。調査があると

はいえ、俺は土地勘もないし、まだまだ初心者なのだから。


「いえ、そのような採取するものに危険が伴うものではなく、場所も近くの森です。

ただ、見つけるのが難しいと言われている花です」


「あっ! もしかして満月花?」


 ポダンさんの花という言葉だけで察しがついたのか、ニコが興奮した様子で言

う。


「はい、妻がもうすぐ誕生日なもので。満月草を贈ってあげようかと」


「素敵! 誕生日に満月花を贈ってもらえるなんて……」


 どこか照れ臭そうにするポダンさんと、うっとりとするニコ。


「ここでは満月花を贈ることに特別な意味があるのかい?」


「うん、満月の光を浴び続けて咲いた満月花には、これからも円満な生活を送りま

しょうって意味があるんだ! 言っちゃえば、これからもラブラブに暮らそうねっ

てこと!」


 おお、それは随分と素敵なことだ。


 ポダンさんくらいの年齢になると、そういう愛情表現などは薄れがちになる傾向

なのだからなおさら。


 ポダンさんとその奥さんの関係を深めるためにも、ここは協力しようじゃない

か。


 ポダンさんも幸せになるし、俺も魔道コンロは安く買えて幸せになるしな。


「わかりました。満月花を探してみようと思います」


 満月花がどんな形状かわからないし見たこともないので、調査を使って一発で見

つける。


 ということはできないかもしれないが、稀少だというのだし橙色をしていること

だろう。


 価値の高い橙の素材は数が少ないので、それを頼りに探せば見つかるはずだ。


「引き受けてくださってあいがとうございます。何分、稀少な花なので見つからない

ようであれば、遠慮なくおっしゃって下さい」


「ちなみに奥さんのお誕生日はいつで?」


「四日後になります」


 今日は探しにいく体力もないし、動き出すなら明日からだ。


 誕生日当日に渡すわけにもいかないし、実際の期間は三日というところか。その

期間の間で満月花とやらを見つけないとな。




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