第4話 のじゃロリ×人狼少女①

「さて、飯にするかの」


 といってラニャは、厨房からぬるいスープの入った鍋をそのまま持ってきて、パンも切らずにかじり始めた。


 彼女の食生活はめちゃくちゃで1日1食もよくある。あとは乾き物と、酒。


 昔からこうだったわけではない。

 こうなった理由もある。


 その理由で

 彼女は人生をほとんど諦めてしまっている。


 いつなのかもわからない寿命を待つだけの、人生というロスタイムを漫然と過ごしていた。


 夜は寂寥感がひたひたとやってくる。


 それをごまかすために酒を飲む。


 孤独が怖いのではない。


 自分が孤独だと感じることが怖い。


 だからもう夜は正気ではいられない。

 酒がなければ、おびえる子供のように布団に包まってシクシク泣くしかない。


 酒はそういうことを忘れさせる。


 のじゃロリは大きな自己矛盾を抱える儚い生き物。



「(もう面倒じゃからソファーで寝よう)」


 食べてすぐソファーに横になり目を閉じた。


 パチンと指を鳴らすとろうそくが消えた。


 あと何回この夜を繰り返さないといけないのか。




 酒のせいですぐに眠りに入った。



 ・・・・



 満月が暗い部屋を照らす。


 どこかで狼の遠吠えが聞こえた。


「(……狼の……遠吠え…………が?)」


 目が覚めた。

 この森に狼はいないのだ。


『ガン!』



『ガンガン!ガリガリガリ……』

『ドォン!ドォン!』


 凄まじいうるささだった。

 外から何かがドアを破ろうとしている?!


 ラニャはとっさに杖を手に取った。


 ・・・・


 一瞬の静寂


 外から扉を叩く音は、しばらくして止んだ。


 が。


『パリィィイン!!!』


 窓を割って何かが入ってきた。


 とっさに家のろうそくを一斉に魔術でつけたが


 見えないスピードで黒い何かが家の中を縦横無尽に飛び回っている。


 不意に

『ガァツ!』

「くっ!」


 目で追いきれなくなった所を襲ってくる謎生物を何とか避けるラニャ。


 ドアに向かって走る。


 途中で外套を手に取った。


「家の中じゃ埒があかんし、散らかされるのは面倒じゃ…な!」


 ドアを開けて外へ出る。裸足でワークブーツは少し痛い。



 しかし、外に出たのは悪手だった。



 人間に夜外でのアドバンテージはない。

 夜目のきかない者にはこの状況は不利だ。

 仕方なく森を走る。


 ・・・・


「へぇ、へぇ、もう走れん……」


 足が止まる。

 一面木しか見えない薄暗い森。


 そこにラニャは立ち尽くす。


『ウゥゥゥウ……』


 うなり声はよく聞くとまだ若い声だった。


 ラニャは杖を掲げ

「汝の姿をあらわせ、光よ!(ルクス!)」


 と唱えた。


 杖先から小さな光がうち上がりぱっとはじけた瞬間、一面が明るく照らされた。


「さて~、ヘルハウンドかモーザ・ドゥーグか……」


 照らされた黒い影は四足の獣。

 しかし、結構小さい。


「んん?」


『ウァァァァア!!』


 走って向かってくる影。


 しかし


『バリバリバリ!』

『キャォン!』


 走ってくる獣の手前の地面が光り、青白い電流がその獣を襲った。陣術が発動したのだ。


 刹那-

「おおおりゃぁあ!」


 ひるんだ隙を逃さずその獣を杖でぶん殴った。

 見事なフルスイング。

 かなり、飛んだ。

「キャウーーン!」

「はぁはぁ……老人に……何させるんじゃ……。」


 息を整え、獣に向け話し始める。


「この森はわしが管理してるのも同然じゃ……勝手にじゃが。じゃからあちこちに法陣を仕掛けとる。おぬしはワシには届かんよ。」


『ウゥゥウゥゥウゥゥゥウ』


 獣は立ち上がる。

 何かしらの術をかけられているのか、ひたすらに、無策に、こちらの命を狙っている。


「まあ、獣に策もなにもないじゃろうが」


『グァァァァア!!』


 再び暗い森の中を木から木へ、地面へ、また木へ、飛び回る。


 ラニャは杖先でポンと地面に突くと

 構えたままその場から動かなくなった。


「そっちが向かってくるんじゃから、こっちから動く必要はないのぅ。」


 獣は速すぎて目では追えない。

 すさまじいスピードで風が巻き起こり木の葉がまう。

 ラニャは目をつむる。



 突然、無音の闇から獣は現れた


 獣の爪が

 ラニャの

 首に触れる


 瞬間




「——紫電青雷(しでんせいらい)」




 小声で唱える。


『パァン!』


 一条の細い雷が空から獣を貫いた。


『ッ!』


 獣は声もあげられずにラニャの目の前で倒れた。





ーメモー


法陣・雷:雷系の配置型トラップ魔術。踏み込んだものを電撃でマヒさせる。仕掛けた術者の有効範囲内でのみ自動で発動。


紫電青雷(しでんせいらい):雷の中級属性魔術。雷に指向性を持たせて攻撃する。ある程度の詠唱時間がいる。一点集中型でノックダウンに有効。




※この物語はフィクションです。

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