義兄が溺愛してきます

ゆう

第1話 俺の義兄

 義兄がうざい。


俺の義兄は、容姿端麗で文武両道、高校二年生ながらも生徒会長をやっている。

ああ、違う人種なんだと近くにいると嫌でも思い知らされる。

現在15歳の義兄の名前は翔と書いてかけると呼ぶ。

かっこいい名前でずるいなあと思っている。


平々凡々な俺とは、全然似ていない。

現在14歳の俺の名前は恋と書いてれんと呼ぶ。

あまり男らしくないので(どちらかと言うと女っぽい)好きではない。


俺の母さんと再婚した義父の連れ子だ。

血はつながっていない。

そのことを知ったのはいつだったか。


11歳のころに、12歳の義兄と呼ばれる人に会った。

とてもきれいな顔をしていたので、見惚れてしまった。

よく俺から遊びに誘っていた。

それに笑顔で答えてくれていた義兄。

 

小さい頃は、とても仲が良かったと思う。

仲が良すぎたくらいだ。

小学生のころは特に何も思わなかったが、時がたつにつれ、周りが見えるようになってきた。

俺は義兄離れをしなければと思うようになったのが、中学2年生のころ。

義兄は寂しそうにしていたが、兄のためでもあるのだ。

俺とべったりしていたら、ろくに彼女もつくれないだろうから。


近すぎず、遠すぎずの絶妙なその距離感が、徐々に慣れてきた時だった。


俺が事故にあってしまったのだ。

信号無視のトラックに接触したのだが、幸運なことにかすり傷ですんだ。

まあ、病院に運ばれて、様々な検査は受けた。

異常なし。


母さんも義父もあわてていた。

一歩間違えれば死んでいたのだから、当たり前の反応かもしれないが、当の本人としてはそんな自覚はなく、助かってよかったーくらい。


義兄は………青ざめていた。

その日は、義兄と言葉を交わすことなかった。

両親によると部屋にこもっている、らしかった。

俺は、義兄もショックを受けたのだろう、翌日には、またあの笑顔をみせにきてくれるだろうと。

ただ、義兄の様子が異常だったような気がして、もやもやが残ったまま、眠りについた。


その翌日からだ。

義兄がおかしくなったのは。


「立ち上がれる?恋」

「なにか食べたいものある?」

「一緒に行こう」

「外は危険だから手、つなごう」

「ガーゼ替えるよ」


一人でできるし。

元から、義兄は面倒見がいいほうだった。

今は、うざいほど過保護になったみたいだけれど。

そんな調子の義兄に両親は何も口を出さない。

何故だ。

そんなこんなで、俺はぶじ退院した。

義兄は退院の時には昼頃に帰ってきて、一緒に帰った。

おい、学校はどうした。

と聞けば、恋が心配だったからと返ってきた。


「あー……、心配かけてごめん。翔義兄さん、俺は大丈夫だから。ほら、かすり傷程度だから」


そういって、頭の小さなガーゼをみせる。

それを見た義兄は、痛々しそうに顔を歪める。


「恋、痛かったでしょ。もう、二度とこんなことがないように、俺が恋を守るからね」


大げさな。

痛くないし、大丈夫だよ~というところをみせたかっただけ。

もう二度とこんなことがないようにって死ぬまで一緒にいるつもりか。

ぎょっとしていると、俺の癖のついた髪を撫でてくれる。

昔と一緒だ。

義兄に撫でられるとなぜか安心するから、嫌いじゃない。

まあ、こんなに過保護なのも、きっと今だけ。

俺が事故にあったから、心配してくれているのだろう。


「ありがと。で、翔義兄、目立つから手繋ぐのはやめてくんない?」


学校へ向かっている途中。

当然のように手をつないできたが、恥ずかしさしかない。

同じ学校の制服がちらほら見える。

義兄だって、弟と手をつなぐのをクラスメイトに見られて何とも思わないはずない。

確実にブラコンと思われるぞ。


「恋は嫌なの?」


「嫌だし!」


「そうなんだ、でも、ごめんね」


そう言って、放そうとしない手。

え、放せよ。

無理やり手を自分から放そうとすると、瞬間強く握ってくる。

それを繰り返し続け、兄のほうをちらりとみる。

そうすると、にこりとつくったような笑みを向けられる。

これは絶対逃がしてくれないやつだ。

最悪だ……。

クラスメイトからなんていわれるか。


「帰る時、迎えに行くからね。絶対、待ってるんだよ」


にこりと作ったような笑みをまた向けられる。

うん、絶対先に帰るわ。

だって、義兄といると目立つし。目立つの嫌いだし。

無言でいると肯定と察したのか、義兄は自分のクラスに向かっていった。


「はあ……」


一人ため息をつきながら、クラスへ入っていく。

ざわざわ。

女子も男子も俺を見てなにやら話をする。


「なあなあ!お前、生徒会長サマと仲が良かったんだな」


生徒会長というのは俺の義兄、翔だ。

なれなれしく肩に腕を回し、俺に向かって話すのは海崎凛。

目がさえるような赤髪に目つきの悪いといわれそうな切れ長の目。

耳にはピアスが何個かついている。

いわゆるヤンキーというやつだ。


目立ちたくないので、そういう人種とは関わらないようにしているのだが、今は1番の親友といっても過言ではない。

目つきは少し悪いが、飲み物をおごってくれるし、いい奴。


「今だけだって、ほら、俺事故に遭っただろ。それで心配して……」


「なにそれ!?聞いてねーんだけど!」


凛がひどく驚いた顔をする。

あー、そういえば言ってなかった。


「悪ぃ、言うの忘れてたわ」


「ちゃんと言えよな!で、大丈夫だったのかよ、怪我」


ちゃんと言えよな!と言った時の顔がマジだったので、驚いた。

焼きそばパンを横取りしたときもこんなに怒らなかった。

やっぱり心配して怒ってくれているのだろう。


「お、おう。怪我はこんくらい」


ほれと、髪をかきあげて頭に着いているガーゼを見せる。


「なら、いーけど。もしもの事があったら真っ先に俺に連絡しろよ!すぐに駆けつけるからな」


凛が真っ赤な顔して、嬉しいことを言ってくれる。

さすが親友。


「おー、凛は目付き悪いからな。カツアゲされそうになった時とか呼ぶわ」


「お前なー」


そう軽口を叩いていると、授業がはじまった。

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