相克剣御伽草子
銀鮭
1.
シグレという男は、予知夢のような曖昧なものを鵜呑みにするたちではない。
確かに夢を見せる魔物はいよう、魔法もあろう。現に、旅の仲間にもそうした類いの魔法を操る者はいる。しかし、大方の夢は人の恐れや願いが形になったものに過ぎず、それが現実の出来事を示唆するなど、到底有り得ぬ話である。それゆえに、
「そういえばシグレ、昨晩は随分とうなされていたけど。どうしたんだ?」
などと、朝餉を頬張るアルドに指摘されるその時までシグレは朝方に見た夢のことをすっかり忘れていたし、それがどのような悪夢であったのかを思い出すのにさえ暫しの時間を要した。
「……うむ。女人の夢であった」
「シグレらしい夢だなあ……」
あくまで真面目な表情のシグレを見て、アルドは顔に浮かんだ苦笑を深める。シグレは、およそいつもこの調子だった。つい先日まで嫁取りに奔走していたためか、息をするかのように女のことを考える悪癖は、まだしばらく抜けそうにない。本人には悪気がないのだから、どうしようもないのだが。
「夢の中でも求婚を断られたとか?」
「いや……」
朝餉の最後の一口を咀嚼しながら、シグレはもう一度、今朝の夢を反芻する。千切れた雲のごとく断片的な記憶ではあったが、あらましを思い出すことはできた。
「橋の上で、女人が泣いていたのだ」
しかし──夢というのは概してそういうものではあるが──その橋が実在するのか、何処にあるのか、というのはいくら首を捻っても思い出せなかった。とにかく橋の上で、美しい女が肩を震わせて泣いていたことだけは、よく覚えている。
「けど、それってそんなにうなされるほどの夢か? 確かに人が泣いていたら、いい気持ちはしないだろうけどさ……」
「ううむ……記憶は定かではないのだが、確か俺は夢の中で、そのオナゴに声をかけたのだ」
──もし、そこの者。
しかし、女は呼びかけに応えない。果たして何が悲しいのか、彼女はただすすり泣くだけであった。放っておくわけにもいかぬ、だが事情がわからねば慰めることもできぬ。痺れを切らして、シグレは女の細い肩を叩いた。そうして初めて、女はシグレに気づいたようで、叩かれた肩をびくりと震わせる。だがその瞬間、ひどく冷えた風が吹き抜けて、饐えた臭いを運んできた。両手で顔を覆ったままの女は、長く艶やかな濡羽の髪の隙間から、その顔を覗かせて──。
「いや、それはもう、この世のものとは思えぬ形相であった」
改めてその姿を見れば、それは屍と言うより他なかった。その白く細い首筋には、刀を滑らせたような生々しい傷跡が走っているではないか。
「そうして、その女人は言ったのだ。ようやく見つけた……とな」
「そ……それは嫌な夢だな。そんなものを見たら朝から気が滅入るというか、俺でもうなされそうだ」
「俺とて見てくれに拘泥するつもりはないが、流石に屍との間に子は成せまい? ゆえに、俺を慕ってくれたのは嬉しいが応えてやれぬ、と伝えようとしたのだが」
「いや強かだな!」
「だがその途端、女は花の散るがごとく掻き消えてしまった。あたりをいくら探しても見つからなんだ。最後にはすっかり参ってしまってなあ……うなされていたのはそのせいだろう」
「はは……何と言うかそういうところ、やっぱりシグレらしいよ」
けど、とアルドは続ける。
「ちょっと意味深な夢ではあるよな。もしかするとその女の人、シグレに何か伝えたかったのかも……」
「ふむ、そういうものか」
無論シグレとて、アルドとともに古今東西各地を旅してきた身である。必ずしも夢というものが無意味ではないということはよく知っていた。予知夢などという不確かな迷信を信じるたちではないが、魔力によって引き起こされた現象であれば話は別だ。何者かが悪意を持って、あるいは何者かが助けを求めて、その手の夢を見せているのかもしれない。いずれにせよ、なんの脈絡もなく見るような夢ではなかったとは断言できる。シグレは女の顔に覚えなどなかったし、顔も名も知らぬ他人を夢で見るというのもなかなか難しい話ではないだろうか。
「ならば、探してみるか。そのオナゴを」
「探す? 探すって、現実でってことか?」
「左様。あいにくとあれが何処の橋であったという記憶はないが、目にすればきっと思い出せよう」
「そうは言っても、橋なんて大陸じゅうにたくさんあるしなあ……。他に何か、手がかりはないのか?」
そうだな、とシグレは考える。女の泣いていたのがどんな橋であったのかも、その周囲に何があったのかも覚えていないが、女の姿だけはよく覚えていた。長く艶やかな黒い髪、大きな傷跡──そして、まとった着物の色に至るまで。はた、と一つの可能性に思い至る。
「……そういえば、あの着物は巳の国のものだな。ともすればイザナ近郊のいずこかかもしれん」
「イザナ近郊か……」
とはいえ、イザナは領主の座す城下町だ。街の中だけでも相当な広さがある。あの街のどこかにそういった橋があるかもしれぬし、近郊であればシグレの実家のあるイナナリ高原かもしれぬ。さらに巳の国すべてに範囲を広げるのなら、猫神神社や荒れ寺、辰の国へと続く紅葉街道という線もあろう。手蔓がないよりは幾分かましではあるが、かかる手間は依然として膨大なままだ。アルドとシグレは、顔を見合わせて、同時に乾いた笑みを浮かべた。
──予想どおり「橋探し」は難航した。
西方のミグレイナ大陸ほどでないにしろ、東方ガルレア大陸は非常に広大だ。その中から、ただでさえ大雑把極まりないシグレの、曖昧な記憶を元に一つの橋を探し出すとなれば、それはまるで砂浜に落とした縫い針を探すがごとき苦労である。アルドたちに多くの仲間がいたのは僥倖だと言えるだろう。彼らの中には東方の地理に明るい者も少なくはなかったし、シグレの酔狂に付き合おうという人物も決して皆無ではなかった。
「考えられるとすれば」
イザナの宿で地図を広げ、額を合わせていた一行のうち、口を開いたのはシグレの幼馴染であるシオンであった。彼は初め、夢で見た女を探すなどという突拍子もない話に困惑を隠さなかったが、振り回されるアルドたちを見るうち、そして──
「紅葉街道ですね、兄上!」
妹、アカネがすっかり乗り気だったこともあって、気づけばすっかり「同志」の一員となっていたのである。
「けど、街道沿いは一とおり探しただろ? やっぱり他を当たったほうがいいんじゃないかな」
この数日間、アルドたちは合成鬼竜の手を借りながら、東方の各地を探し回った。時には、別の所用を片付けがてら仲間たちと共に少し足を伸ばし、ミグレイナ大陸の南東端である蛇骨島、果ては古代の東方まで探索したほどだ。だが結果は芳しくなく、未だ先の見えぬ捜索を続けているというのが現状である。エイミやサイラスといったお決まりの面々は、今も片手間に思い当たる場所を探してくれているそうだが、今のところやはりそういった橋が見つかったという話は聞かない。
「……いや、他の場所は獣道の先まで探ったが、紅葉街道はまだ探索が不十分だ」
どうだ、とシオンが視線でシグレに問う。ここまで肝心要のシグレは会話に入らずに胡座をかいて皆の話に聞き入っていたが、暫し顎に手を当てて思案してから、にっと歯を見せて笑った。
「ま、もたつくうちにあの女人の姿を忘れてしまっては本末転倒。考えるよりも先に足を動かすのが得策よな!」
そう言って、刀を片手に立ち上がる。
ところで──好奇心は猫をも殺す、という慣用句がある。猫は、幾つもの命を持つとさえ言われるほど賢く執念深いが、持ち前の好奇心に駆られて死ぬこともある……転じて、強過ぎる好奇心は身を滅ぼすという訓戒だ。今のシグレの表情は、まさしく好奇心に取り憑かれた猫そのものであった。
どうあっても、あの夢の正体を暴く。
元より、気になったことをそのままにはしておけぬ気質なのである。
巳の国と辰の国とを結ぶ街道は、その見事な紅葉から紅葉街道と呼ばれている。風光明媚な土地柄、景勝地としての側面も強く、かねてより通行の為でなく、景色を楽しむ為だけにここを訪れる旅人も少なくはなかった。そのためか、ただ景色が美しいだけだった街道沿いには旅人が足を休める茶屋が建ち、そして彼らが歩きやすいように道が舗装され、さらに美しく調えられた景観へと姿を変えていき──そしてその過程で、元あった多くの獣道が打ち捨てられていったのである。
藪を抜け、木々の隙間を潜る。大木の根元に忘れられたように佇むのは道祖神か。かつてはこの辺りも街道の一部だったのかもしれないが、石像の頭に生した苔の具合を見れば、少なくとも数十年は誰も通っていなかったのだろうと推測できる。
道なき道を行くうち、シグレの内心には何か確信めいたものが生まれつつあった。ぼやけたままであった夢の輪郭が、少しずつ浮かび上がってくるような感覚とでも言えば良いだろうか。イザナの何処を歩いても、神社や荒れ寺を歩いてもついぞ湧かなかった不可思議な感覚が、もぞもぞと心中を掻き乱す。紅葉の木。その生え方。枝ぶり。何もかもに既視感を抱く。
「アルド、近いぞ」
「本当か? とてもこんなところに橋なんて……」
怪訝な顔でシグレを見たアルドは、すぐにその顔を驚きの表情に塗り替えることとなった。行手を阻むように生い茂った低木の茂みを掻き分けたそこには、確かに追い求めていたものが在ったのだから。
「……あった」
古びた、木造の橋だ。人が使わなくなって久しいのか、欄干はところどころが朽ちている。何も知らずに渡れば橋桁が抜けて、下に流れる小さな清流に転落する羽目になるだろう。
「ここですか、シグレ殿?」
後から歩いてきたアカネの問いに、シグレはうむ、と生返事をするので精一杯であった。忙しなく見回した周囲の情景は、見れば見るほどあの日の夢そのものである。
「けど、周りには何もないみたいだな」
「やはり、ただの夢だったのではないか?」
そうとは思えず、シグレはふむ、と腕を組んだ。
かつて、仲間に聞いたことがある。夢とは、見ている当人の記憶や無意識下の願望が形となったものだという。そうであるならば、影も形も知らぬものや場所を夢に見るなど不可思議な話だ。魔法の類によって見せられた夢ならばまだ有り得る話だが、それはそれで術者の意図というものが存在しているはずである。……というのは、リィカやヘレナといった遠い未来より来た仲間の受け売りであって、シグレにはとても理解の及ばぬ話であった。だが、今よりもずっと学問の進んだ時代の人々が言うのだ、疑う余地はあるまい。
「とりあえず、もう少し辺りを探してみようか。シオンとアカネも手伝ってくれ」
そう言ったアルドに、皆が一様に頷いた──と、その時である。
「!」
その声に、アカネが真っ先に気づく。
「悲鳴です! 猫の!」
「猫だって?」
「たぶん、この近くの茂みから……自分についてきてください!」
皆、手練れの戦士である。我に帰るのは速かった。近くの茂みの中へと消えたアカネを追ってみれば、そこには一匹の白い猫が倒れていた。
白い毛並みに傷はないようだが、その弱々しい様子を見れば、何らかの攻撃を受けたと見て間違いないだろう。
「まさか、魔物に襲われたのか」
シグレは猫の傍に膝をつき、未だその体が僅かに上下していることを確かめた。
「シオン……は駄目か、アカネ、手当てをしてやれ。まだ助かる」
「はい、シグレ殿!」
その傍らでアルドはすでに剣を抜き放ち、周囲を警戒していた。先程悲鳴が上がったということは、つまりまだあの猫を襲った魔物が近くにいるということだ。
「くっ……」
どこから何が飛び出してくるのかもわからぬ緊張の中、シグレとシオンもまた得物を抜き、構えた。視覚、聴覚、嗅覚、あらゆる感覚を研ぎ澄ませて敵を探る。
──シオンが動いた。
土を抉るほどの力を込めて一歩を大きく踏み込み、藪の中へと一閃する。途端、けたたましい悲鳴。魔物のものだ。
「出たな……!」
姿を表したのは、金色の毛並みを持つ獅子形の獣である。
「こいつか!」
言うや否やアルドの長剣が唸りを上げた。魔力の炎を纏った薙ぎ払いに、突っ込んできた魔物──この辺りでは見た目のとおりキンシシと呼ぶ──が蹈鞴を踏む。シグレはその隙を逃すほどの粗忽者ではない。一息に距離を詰める。
「普賢一刀流……」
だが、敵とてまだ諦めたわけではない。果敢にもその鋭い爪を振るい、眼前の男を引き裂こうとする。が、正眼に構えられた刃が僅かに動き、振り上げられたキンシシの腕を容易く弾いた。
東方最強と謳われる剣術のひとつ、普賢一刀流には多くの技が伝わっている。免許皆伝であるシグレの振るう技の一つが、攻防一体の連撃であった。即ちあらゆる事態に即して最も対応しやすいとされる正眼の構えを起点とし、敵の動きに対して後の先──つまりは「返し技」である──を取り、そのまま三連の剣技を叩き込むものである。大きく体制を崩したキンシシを、踏み込みながらの強烈な斬り下ろし、そして更にもう一歩を踏み込んで急所を狙う刺突が見舞う。
「……麒麟烈襲斬!」
斬撃に大きく傾いだキンシシの身体を見て、アルドは小さく「やった!」と声を上げる。だが斬った当人であるシグレは、傷を負って怖気付いたキンシシが藪の中に再び姿を消しても、その柳眉を寄せたままであった。
「流石だな、シグレ!」
「む……。ああ、俺にかかれば朝飯前というものよ」
シグレにしては珍しい表情であった。いつもの彼ならば、もっと豪放磊落に笑って返すか、あるいはニヤリと笑って、応と答えるかのどちらかだろう。
「……何か、気になることでもあるのか?」
「いや、少しな。……それよりあの猫はどうなった?」
とシグレが言ったのと、慌てふためくアカネの声が聞こえてきたのはほぼ同時であった。
「だ、駄目ですっ! まだ走っては!」
アカネよりも先に、アルドたちの元へ走ってきたのは、あの白い猫であった。先程までの弱々しい様子とは打って変わり、アカネをもたじたじとさせるほど俊敏である。
「よかった、結構元気そうじゃないか」
しゃがみ込んで猫を覗き込むアルドをちらと見て、すぐに猫はシグレとシオンのほうに視線を移した。
「どれ……」
シグレは膝をつき、猫に視線を落とす。生来猫に好かれやすい男だ。どう言った理屈か、彼に警戒を向ける猫は稀である。ともすれば猫たちは彼を同類か何かだと思っているのかもしれない、とは、幼い頃、猫に嫌われがちであったシオンがシグレに言った小さな負け惜しみのひとつではあったが、シグレ自身はそれもあながち間違いではないのかもしれぬと思っていた。
だがそんな彼に対して、その白い猫は全身の毛を逆立てて警戒心を露わにする。
「珍しいな、シグレが猫に怖がられるなんて」
「まあ、危険な目に遭ったのだ。警戒されるのも無理はなかろ……む?」
シグレはその猫に、普通の猫とは異なる特徴を見て首を捻った。その猫の尾は根元から二つに裂けているではないか。
「こやつ……猫又、というやつか?」
東方では長い年月を生きて妖力を溜め込んだ猫だとも、元々魔性に属する生き物だとも言われるが、少なくとも確かなのは強い妖力を持っているということだ。そして賢い。人の言葉を解することさえあるという。
「へえ……オトハがいたら、何か詳しい話を聞けたかもしれないけど……」
猫又はまだ、シグレたちへの警戒を解かない。ともすれば賢しく老獪であるがゆえ、警戒を解かないのかもしれない。
「私のせいかもしれん」
シグレの側にシオンが歩み寄ると、その警戒ぶりはますます顕著になった。威嚇するように唸りを上げさえする。シオンはあえてその側にしゃがみ込むと、懐中に手をやって「煮干しはいるか?」などと問う。猫はそんなものは要らぬと言わんばかりに背を向けて、アカネの足元を素早くすり抜けると、藪の中へと消えていったのであった。
「……いらんか。そうか……」
「お、落ち込むなって、シオン……」
お決まりの流れとはいえ、やはり猫に逃げられるのは堪えるらしい。先程までの鋭い闘気はどこへやら、シオンはすっかり意気消沈してしまっていた。切り替えるように小さく溜息を落とすと、しかし、と切り出す。
「シグレの夢というのは、もしやあの猫又が見せたものだったのではないか?」
ふむ、とシグレは考える。猫又は妖力を持つ猫だ。誰かに夢を見せる力の一つや二つ、持っていても不思議ではないのかもしれない。魔物に襲われるのを予見して、助けを求めたということか?
「しかし、なぜ俺に? 他にも心ある者はいただろうに」
「うーん、波長が合ったとか……?」
「ああ! 確かに有り得ます! シグレ殿はなんだか猫のようですし!」
「ははは、確かに俺は普賢一刀流の『龍虎』の虎、もとい猫と呼ばれてはおるが。そんなおやじ殿のような猫又がいてたまるか」
アルドの捻り出した頓珍漢な答えに、シオンが苦笑する。
「……仮にそうだとして、見せる夢の趣味が些か悪い気もするな。泣く女人、だったか」
「うむ。あれは助けを求めているという感じではなかった」
例えるならば、そう。千年待ち詫びた恋人との再会。あるいは、長らく憎んだ仇との邂逅。彼女の顔に浮かんでいたのは、そういった類の執着心のほうが近い。だからこそ、女を見つけたら一言断ってやろうと思っていたのだ。
「とにかく、シグレの夢を追ったおかげであいつを助けてやれたんだ。良いってことにしておこうよ」
「うむ……そうだな、アルド。ひとまずはこれで一件落着だ」
シグレがニカッと笑ったのと、ぐう、と気の抜けるような腹の音が鳴ったのはほとんど同時だった。顔を見れば、誰のものなのかはすぐにわかる。あからさまに空腹そうな顔をしているのは、アカネをおいて他にいない。
「シグレ殿! 折角紅葉街道まで来たことですし、自分、団子が食べたいです!」
「おう、良いぞ! 付き合ってもらった礼もある、俺が奢ってやろう!」
「本当ですか? やったー!」
無邪気に走っていくアカネと、それを嗜めるシオンの背中を眺める。いつもの微笑ましい光景を見守るシグレの表情はやはり優れない。いつもであれば、自分が先頭を切って我先にと走っていってもおかしくないところだが──。
「……軽かったな」
「え?」
歩き出そうとしていたアルドが、足を止めて振り向いた。
「あの魔物、手負いだったのかもしれん」
「手負い……どういうことだ?」
「言葉のとおりよ。軽く二太刀浴びせただけで、奴はあっさりと逃げ去った。怯えていたのだ」
「怯えていたって何に……まさかあの猫にか?」
アルドの声には、そんなまさか、という苦笑が滲んでいた。確かにあの猫は特別かもしれない。謂れどおり、強い妖力を持っていたのかもしれない。だが、あれほど巨大な魔物を怯えさせるほどの芸当など、本当にできるものだろうか。
「さあな、それは俺にもさっぱりわからん。わからんことをこれ以上考えても仕方あるまい」
ふっ、とシグレは笑みを溢すと、シオンたちを追って歩き出した。
「さてアルド、今日はたらふく食うとしようか。ここの団子は格別だぞ!」
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