百合テロ同好会
朝食を済ませ、オレは街まで向かう。
待ち合わせの場所には、すでにソフィとツンディーリアが待っていた。
ソフィは白いブラウスの衣にピンクのカーディガンを羽織り、水色のロングカート姿である。
白いパンプスが、彼女の高貴さと清らかさを際立たせた。清楚が、足下からわき上がってくる。
「休みの日にまで呼び出して、すまんな」
「いえいえ。王子たってのご希望ですから」
顔は笑顔を作っているが、ソフィの目は笑っていない。「せっかくの休みデートを邪魔しやがって」と、顔に書いてある。
一方、ツンディーリアはベージュのポンチョマントと、ブラウンのミニスカートだ。
ヒザの上まで足を包んでいる黒く薄い膜は、ニーソではない。ウロコである。よく観察すると、小さな鱗状の集合体でできているのがわかった。
「あまり、足をジロジロ見ないでくださいまし」
「悪い。珍しい物でな」
実に個性的だ。オシャレというより、「羽根と尻尾を隠す手段」を、さりげなく着る物に取り入れている。
「さて、行こうか」
オレは再び、三人で集まれそうな場所を探す。
「どちらまで?」
「アテはある」
一同を連れて、オレは不動産屋へ。
「失礼する」
「これはこれは王子。ごきげんうるわしゅう」
商業ギルドの名札を持つ主人は、にこやかにお辞儀をした。
「家を一軒購入できぬか?」
「ファ!?」
オレが指を立てると、不動産屋は目を見開く。
「誰にも邪魔されない、注目もされない場所に、家がないだろうか? できれば僻地がいい。一部屋でも構わん。とにかく人の目を避けたいのだ」
「いやいやいや、お待ちください! いくら王子と言えど、未成年に家などお売りできませんよ! あたしが国王にどやされまさぁ!」
不動産屋は、オレの前で両手を振った。
「その歳で○リ部屋とか、とんでもねえことをお考えなさる!」
「主人、ヤ○部屋とは?」
「ウブぶってもダメでさあ! お引き取り下さい!」
「何をいうか。オレはオレ個人として部屋を借りたいだけだ」
「それがヤリ○屋って言うんでさあ!」
不動産屋は、頑として家を売らないし、部屋も貸さない。
「こんのバカ!」
ソフィがツンディーリアと協力して、オレの片腕ずつを掴む。
「おいおい、なんだ?」
オレは、店の外に出されてしまった。
「なにをする、オレはお前たちを思って」
「バカバカバカバカーッ! あんた、バカじゃないのマジで!?」
顔を赤らめながら、ソフィが怒鳴る。
「ちくしょう。部屋が開いているなら買うというに」
「冗談じゃありません! それだと新居だと思われますわ!」
オレの提案を、ツンディーリアが拒否した。
「ナイスだと思ったんだが。ダメか?」
「決まってますわ! 『随分と気が早いですわね』と世間からウワサされてしまいます!」
身体をくねらせ、ツンディーリアがイヤイヤをする。
「そうウワサされた方が、メリットアリアリでは? 密室だぞ?」
「密室だからナシナシだと言っているのですわ! 嫁入り前に同棲なんて、そんなふしだらなことできません!」
横では、ソフィも「うんうん」とうなずいていた。
「いいじゃないか。実際に密会するのはお前たちだけなんだ。オレは下の階でコーヒーでも嗜んでおこうではないか」
二人のイチャイチャ声を聞きながら飲むコーヒーは、きっと甘いに違いない。たとえ糖分が入ってなかろうと!
「結局あんたもいるんじゃない! 却下よ却下!」
ダメか。素晴らしいアイデアだと思ったんだが。
「オレの財力をもってすれば、案外容易いと睨んでいるのだが?」
「そのせいで足が付いたら、たまったもんじゃないわ。私たちはね、もっと自然な形で交際をしたいの」
トンチンカンな理想を、ソフィが語る。
男装しておいて、自然も何もなかろう。
「あれ、何か妙なコトを考えてたでしょ?」
「別に何も思ってない!」
こいつ、エスパーかよ!
「あら、あそこにいらっしゃるのはトーモスさんでは?」
ツンディーリアが、一軒のカフェを指さしていた。
窓の向こうには、男女二人組がいる。向かい合って、から揚げの山を攻略していた。女子の方はもうすぐ山を片付けそうだが、男子の方は苦戦しているらしい。
あいつは、やはりトーモスではないか。
「ホントだ。行ってみよう」
例のカフェに入る。
窓際の席には、青ざめた様子のトーモスと、同じ顔をしたピッグテールの少女がいた。妹のイモーティファである。
「たしか、から揚げ定食にチャレンジするとか話していたなぁ」
イモーティファの皿は、とっくに空になっていた。しかし、トーモスは半分も食べていない。
「やってるな、トーモス」
「おー、おおうユリアン。うっぷ」
口を押さえながら、トーモスが応答する。
「大丈夫か?」
「声を出すと、リバースしそうだ」
から揚げが大量に残った自分のお皿を、トーモスはイモーティファに差し出す。
「なあティファ、後は頼む。兄の敵を取ってくれ」
ちなみに、ティファとはイモーティファの略称である。
「もー兄上は。しょうがないな。景気づけにラーメンなんか追加するからじゃん」
ティファは嫌な顔どころか、うれしそうな表情を見せた。
託された定食を、数分で平らげてしまう。
「妹さんって、双子だったんですわね!」
ツンディーリアから質問され、トーモスがうなずいた。
「そうなんだ。紹介するよ。エメラルド組のイモーティファだ」
兄に紹介され、ティファがあいさつをする。
「イモーティファ・モグです。兄がいつもお世話になっています。ティファとお呼び下さい」
「ああ、あなたたちが、『モグモグついんず』でしたか」
ソフィの言葉に、「はい」とティファが答える。
外食産業の跡取りであるトーモスと妹のティファは、学内では
「大食い兄妹 モグモグついんず」との愛称で呼ばれている。
「ちょうどいい、知恵を貸してくれるか?」
トーモスに「部活を作れないか」と相談をした。
ちなみに、ソフィとツンディーリアの話はしない。
「紅茶部に入れば? あらゆる謎部活を取り込んで、今や最大派閥だぜ」
「オレは紅茶を飲めぬ」
別に紅茶も紅茶好きも嫌うわけではないが、体質に合わないのだ。モノを飲んだという気がしない。
「じゃあ、【メシテロ研究会】でも作るか? 大食い研究会でもいいぜ」
レストラン・カフェのメニューや、露店の商品を食レポする部活だという。
「大食いなのは、お前たち兄妹だけだろ?」
オレが言うと、ソフィも追随する。
「ツンディーリアはともかく、私は小食よ」
「どうして、わたくしが大食い設定になってますの!?」
ソフィの文句に、ツンディーリアが噛み付いた。
「食べるのか?」
「いくらドラゴン族でも、わたくしは量を食べませんよ! 激辛には自信がありますけれど!」
適正十分じゃねえか。
「それなんだけどな。妹を見守る会でいいじゃん」
しれっと、トーモスが簡単に言う。
「ではなくて、活動内容はいかがしましょうと」
「食レポでいいじゃん。店レポはティファに任せてくれ」
「系列店の宣伝ができるし、モグ家にもメリットがある」とのこと。
「それでも、我が校には紅茶部と料理研究会があるそ。バッティングせんか?」
「どっちも追い出されたんだよ、俺たち。だから都合がいい」
なんでも、食べ過ぎて追放されてしまったらしい。
「俺らも混ぜてくれよ。人を避けたいんだろ? 俺たちはうってつけだぜ」
確かに、オレも周囲から敬遠されているし、これだけ濃いメンツがいれば誰も干渉できまい。
これはまさしく、飯テロならぬ「百合テロ同好会」とも言える!
「協力に感謝するそ、モグモグついんずよ」
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