無名の頃から応援している人気VTuberが元カノの妹のSSS級大和撫子だった件

山下ひろかず

プロローグ 僕の方が好きだ、私の方が好きだ論争で彼女が圧倒的な大勝利を収めました

「はふう……」

 愛しの彼女のEカップの胸に顔を埋め、僕の口から極楽の吐息が漏れる。


文人ふみとさん、私のおっぱい気持ちいいですか?」

「うん、最高。赤ちゃんの頃に戻ったみたいで凄く安心する」


「そうですか。良かったです♪」

 緩みきっている僕を見て彼女である神野巫子かんのみこが、微笑ましそうに僕の頭を撫でた。


「ああ、幸せだなあ」

 僕は平日の昼間から1人暮らしの自分の部屋で、彼女とイチャイチャしている幸せを噛みしめる。


 それも普通の彼女じゃない。

 巫子は腰の辺りまで伸びる長い黒髪が似合う清楚系の美人。


 身長は僕とほぼ変わらない160センチ台後半、スレンダーだけど出るところはしっかりと出ているスタイル抜群のモデル体型。


 さらにスキンシップやエッチなことが大好きで、相性も良く体を重ねた時の快楽は生まれてきて良かったと思える程だ。


 巫子の魅力は外見だけじゃない。

 1年前まで女子校生だったにも関わらず、大人っぽい雰囲気と色気を持ち、まるで僕の心が読めるのかと思うくらい察しが良くて気が利く。


 例えば僕が仕事で思うような成果が出せずに気持ちが沈んでいる時や、体調が悪い時はすぐに気づくし、手料理を作る時は僕が今何を食べたいかをヒントなしで当てることができる。


 おまけに読書が趣味で知性まで兼ね備えた、S級……いや、SSS級の超ハイスペック大和撫子なのだ。


「巫子、僕の彼女になってくれてありがとう。大好きだよ」

 しかも僕にベタ惚れしていて、告白したのは巫子の方から。


 そのおかげで今があると思うと巫子には感謝しても感謝しきれず、こうして言葉にせずにはいられなかった。


「ありがとうございます♪ 私も文人さんのことが大大大好きですよ♪」

 僕の言葉に巫子が嬉しそうにニッコリと笑う。


「じゃあ僕は大大大大大好きだな」

「それなら私は大大大大大大大好きですね♪」


「じゃあ僕は大大大大大大大大大好きだ」

「それなら私は大大大大大大大――」


「ちょっと待って! 切りがないんだけど?」

 僕が先に言い出したとはいえ、全く譲る気がない巫子に僕は呆れる。


「だって私の方が文人さんよりも好きな気持ちが大きいですから♪」

「それはないな。僕の方が巫子よりも好きな気持ちが大きいに決まってる」


「あら? じゃあ勝負してみますか? 相手の好きな所を多く言えた方が勝ちということで」


「いいよ。望むところだ!」

 小学生のような下らない意地の張り合いから勝負が始まり、僕は巫子の胸から顔を上げ、離れて姿勢を正した。


「じゃあ先攻は文人さんでお願いします♪」

「うん。ふう……」

 僕は気合いを入れるために一つ息を吐く。

 巫子、聞いて。これが僕の気持ちだ!


「いくよ! かわいい所、優しい所、胸が大きい所、脚が細くて長い所、手が綺麗な所、髪がサラサラな所、いつもいい匂いがする所、頭が良い所、上品な所、綺麗好きな所、料理が上手な所、子守歌が上手な所、耳掃除が上手な所、裁縫が上手な所、お金を大切に使う所……まあザッとこんなところかな?」


 15個言ったところで一瞬詰まり、僕は切り上げて巫子に自慢気な顔を向ける。


 巫子の能力を考えるとこれくらい当然というかむしろ少ないくらいだけど、勝負に勝つだけならこれで十分だろう。


「文人さん、いっぱい褒めてくれてありがとうございます。でも、その程度で私に勝てると思ったら大間違いですよ♪」

 しかし僕の予想に反して、巫子は余裕という表情をした。


「へえ? じゃあ言ってみてよ」

「はい。では、いきますね」

 それを見た僕が挑発的な言葉をかけた後、巫子はすうっと大きく息を吸い込む。


 自慢じゃないけど僕は巫子と全く釣り合わないくらい、特に取り柄がなくどこにでもいるような普通の人間だ。


 正直、自分で1時間くらい考えて探しても15個言うことはできないと思う。

 さあ巫子、僕のことが好きなんだろ?

 言えるものなら言ってみろ!


「笑顔が素敵な所に気遣いができる所、素直な所、正直な所、誠実な所に褒め上手な所。ご飯を美味しそうに食べてくれる所や頭を撫でるのが上手な所も好きですね。私の好きなようにさせてくれる包容力がある所、いざという時にリードしてくれる頼もしさがある所、一緒にいると安心する所、その一方で寝顔がかわいくて隙を見せてくれる所や甘え上手な所もいいですね。母性本能がくすぐられます。向上心がある所、何事にも一生懸命な所、どんなに苦しくても諦めない所も尽くし甲斐があって――」


「参りましたああああっ!!」

 あっと言う間に僕を超える16個目を言った巫子に、僕は土下座して負けを認める。


 どうしてこんなにスラスラと、しかも具体的に言えるんだ!?

 しかも内容は能力のような表面的なものではなく人間性ばかり。

 どれだけ僕のことが好きなんだよ!?


「他には私以外の人にも優しい所に礼儀正しくて感謝の気持ちを忘れない所、自分が間違っていたらすぐに謝れる謙虚さがある所、人の痛みが分かり寄り添える所と、慈悲深い所に悪口を言わない所も――」


「み、巫子? もういいよ! 僕の負けでいいからこれ以上は止めて! 何か照れ臭いから!」


 勝利が決まってからも僕への褒め殺しを続ける巫子を僕は慌てて止める。


「嫌です♪ 文人さんは自分のことを過小評価しているみたいなので、少しでも自信を持ってもらえるように私の気が済むまで言わせてもらいますね♪」


 しかし巫子は女神のような微笑みを浮かべながら、キッパリと僕の頼みを却下する。


「特に好きな所は一途で愛情深い所で、ベッドの上で見せる情熱的で男らしい所が普段の優しい顔とのギャップがあって最高なんです♪」


「止めて! もう許して! お願いだからベッドの上でのことは言わないで! 恥ずかしくて死ぬ!」


 ベッドの上で格好つけながら巫子に甘い愛の言葉を囁いている自分を思い出し、オーバーキルレベルの精神的ダメージを受けた僕は体にむず痒さを感じて悶える。


「後は計画性があって思慮深い所が私の足りない視点を補ってくれて凄く助かりますし、聞き上手な所や無言でも一緒にいて居心地良く感じる所とかも――」


「ああもう!」

「んうっ!?」

 もうこれ以上聞いていられなくなった僕は、巫子の口を塞ぐように唇を奪って黙らせる。


「ん……」

 巫子は最初こそ驚いて目を見開いたものの、抵抗することなく気持ち良さそうに僕のキスを受け入れた。


「ふう……もう文人さんダメじゃないですか。まだ途中なのに力ずくで止めるなんて反則ですよ?」


「ご、ごめん。何と言うか巫子の愛が大き過ぎて受け止め切れなくなって……」

 唇を離すと巫子は拗ねるように怒り、僕は申し訳なく思いながら言い訳する。


「いいですよ。文人さんキス上手ですし、時々強引な所も大好きですから♪」

「ま、まだ言うか……」

 しかし本気では怒っていないようで、すぐに許すと僕の胸に抱きつき頬ずりして甘え出した。


 つまり巫子は僕が何をしても喜ぶくらい、僕の全てが好きってことだな。

 絶対に勝つ自信があるのも納得だ。


「というわけで文人さん、私の勝ちなのでご褒美として今度はちゃんとキスしてください♪」


「ご褒美とかそんな約束はしてないけど……まあいいか。じゃあ巫子」

「はい♪」

 僕は巫子の肩に手を置き、目を閉じてキスをする。


「はむっ、んふっ」

「ん~」

 そして巫子の口の中に舌を入れて絡め、舌の弾力と特有のぬるりとした感触を味わう。


「ふう……」

「文人さん、もう一回……」

「うん」


 ピンポーン♪


「あっ……」

 巫子におねだりされて僕がまた唇を近づけようとすると部屋のインターホンが鳴った。


「お客さん、きちゃいましたね。出てきますね」

「いや、いいよ」

 さっきのキスで気持ちが盛り上がった僕は、玄関に向かおうとする巫子を引き止める。


 ピンポーン♪


「いいんですか? お客さん、留守だと思って帰っちゃいますよ?」

「大丈夫だよ。荷物が届く予定はないし、郵便や何か大事な用件ならまた訪ねてくるよ」


「それもそうですね♪」

 僕は心の中で訪問者に謝りながら、また巫子にキスをする。


 ピリリリリッ……


 今度は僕のスマートフォンが鳴り出すが、後でかけ直せばいいと僕たちは気にすることなくキスを楽しむ。


「ぷはあ……」

 数十秒続けて唇を離す頃には、スマートフォンの着信音は鳴り止んでいた。


「巫子……」

「文人さん……」

 すっかり2人の世界に入った僕と巫子は、いい雰囲気の中お互いを見つめ合う。


「あらあら、まだ日が高いというのにお熱いことで、見ているこっちが恥ずかしくなるわ」


「うわあああっ!?」

「きゃああああっ!?」

 すると突然第3の人物の声が聞こえ、驚いた僕と巫子はビクッと体を震わせて悲鳴を上げる。


「ま、真白ましろ!?」

「真白さん!?」

 声が聞こえた方を向くと、そこには僕が住んでいるマンションのお隣さんで仕事仲間でもある白髪の女の子、真白が呆れた顔をして立っていた。


「ど、どうやって入ってきた!? ドアには鍵がかかっていたはずなのに……」

「え? 普通にピッキングで鍵を開けて入ってきたけど?」

「いや、それは普通とは言わない。どこの世界の常識だよ?」


「あら? じゃあ彼女とイチャつくために居留守を使うのはどこの世界の常識かしら? 電話にも出ないし、何かあったのかと思ったじゃない」


「う……ご、ごめん」

 真顔でおかしなことを言う真白に僕はツッコミを入れるが、逆に痛いところを突かれて何も言えなくなってしまう。


 真白は僕と同じ23歳なのだが、とてもそうは見えないくらい小柄で体の凹凸も少ない。


 ゴスロリファションが似合いそうな童顔に儚げな雰囲気を持っていて、普段はクールというか醒めたような表情をしていることが多く感情の変化も乏しい。


 喋り方も淡々としていて作り物のような綺麗な顔立ちをしていることから、僕は時々真白を人間ではなく人形やロボットなんじゃないかと思っていた。


「罰として、今度は夜に文人と巫子がヤってる時に突撃してあげるわ♪」


「いや本気で止めて? 怖いし、思いっきり不法侵入で犯罪だから」

 しかし例外もあり、真白は無類の悪戯好きで僕や巫子をからかったり何かを企んでいる時はとても楽しそうな顔をする。


 しかも先程のようにピッキング程度なら簡単にやってのけるくらい器用で要領もよく、巫子とは違うタイプの優秀な人間なのだが、その能力が発揮されるのは仕事よりも悪戯の時の方が圧倒的に多い。


 まさに才能の無駄遣いである。


「じゃあいつでもいいから1日だけ巫子貸して? 百合るから」

「嫌だよ! 僕にそっちの趣味はない!」

「ちぇっ、文人のケチ。減るものじゃないのに」


「と、ところで真白さん。ご用件は何ですか?」

 僕と真白の話がどんどん脱線していくのを感じたからか、巫子が話を本題に進める。


「あ、そうそう。さっき中国旅行から帰ってきたからお土産を渡しにきたの。というわけでこれ」

 真白が思い出したように右手に持っていた袋を差し出す。


「何ですかこれ?」

「クッキーよ。買った店の人の話だと今ネット上で話題になってるらしいわ」


「本当ですか! ありがとうございます。じゃあ早速これでお茶にしましょう♪」

「あ、私の分はいいわ。すぐに帰るから」


「分かりました♪」

 巫子が上機嫌で台所へ行き、紅茶が入ったティーカップ2つと皿1枚をお盆に乗せて戻ってくると、ティーカップと皿を座卓テーブルの上に置き、袋からクッキーの箱を取り出して開けて中身を皿に盛る。


「じゃあいただきまーす」

「いただきます」

 そして僕と巫子はクッキーを手に持ってかじった。


「ん~?」

「何と言うか……独特な味ですね」

 僕と巫子は微妙な表情を浮かべる。


 クッキーなのに全くと言っていいくらい甘さがなく、さらに茶葉の粉みたいなものが入っているのか妙な苦みと風味がある。


 口当たりもパサパサしていて、お世辞にも美味しいとは言えなかった。


 まあ日本人と中国人では味覚が違うだろうし、外国のお菓子ってこんなものだろう。


「……っ!?」

 すると2、3枚食べたところで僕と巫子に異変が起こった


「あぐ……が……ああ!!」

「か、体が……熱い!?」

 まるで野生の本能が目覚めたかのような、繁殖のためのエネルギーが体の奥底から噴き上がるようにみなぎってきたのだ。


「効いてきたみたいね♪」

「ま、真白! いったい僕たちに何を食べさせた!?」

 僕は頭がクラクラして理性を失いそうになりながら、愉快そうに僕たちの様子を眺める真白を追及する。


「夫婦円満に効くと評判の漢方薬がいっぱい入ったクッキーよ♪」

「何だってええええっ!? 真白! 僕たちを嵌めたな!」


「でも美味しいと評判なんて言ってないし、食べたのは文人たちの意思だから私は悪くないわ♪」


「くっ! 余計なお節介を……」

 ニヤニヤする真白に、僕は「やられた!」と歯を食いしばる。


 真白は僕と巫子の仲を応援してくれてはいるんだけど、今みたいにちょっかいをかけ、おもちゃのように面白おかしく振り回してくることが多い。


 しかも多少良心が欠けているところがあり、面白そうだと思ったら常識外れのことでも躊躇なくやってくるところがとても厄介なのだ。


「それじゃあ2人とも、お幸せに。おめでたの報告を楽しみにしてるわ♪」

 真白は悪戯が上手くいって満足したのか、僕たちに向けてサムズアップすると部屋から逃げるように出ていった。


「はあっ、はあっ、く、苦しい……」

 体が壊れそうなくらい心拍数が上がり、激しく主張してくるオスの欲望を、僕は息を荒くして冷や汗をかきながら必死で堪える。


 は、早く発散しないと頭がおかしくなりそうだ。


「み、巫子ごめん。悪いけど少しの間好きにさせて。僕、もう我慢できない……」

「は、はい。文人さん、その、私も……きゃあっ!?」


 顔を上気させ目を潤ませる巫子からお許しを貰うや否や、僕は乱暴に巫子の肩を掴むと投げ飛ばす勢いでベッドの上に押し倒す。


 この後、性欲に脳を支配された僕と巫子はお互いの体の火照りが収まるまでケダモノのように激しく愛し合ったのだった。


◆◆◆


「それにしても、こんなに幸せな未来がやってくるなんて、あの時は夢にも思わなかったなあ」


 その日の夜、ベッドの上で僕の左腕を抱き枕のように抱き締めて眠る巫子を隣に、僕はしみじみと巫子と付き合う前のことを振り返る。


 当時の僕は就職に失敗して付き合っていた彼女にもフラれ、生きる意味を見失うくらいの絶望の中にいた。

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