第3章 ウツロ VS 万城目日和

第54話 湾岸で

 30分ほどで、ウツロは坊松区ぼうのまつく湾岸の港へと到着した。


 あたりはすっかりと暮れなずんできて、人影も見当たらない。


 そこからの案内は、万城目日和まきめ ひよりの「殺気」がしてくれた。


 おそらくこれも、「あえて」だろう。


 ウツロは周囲を警戒しながら、一番奥に位置する廃工場の倉庫へと入った。


「万城目日和っ――!」


 さびついたシャッターはぱっくりと口を開けており、彼はそこから中に向かって叫んだ。


「約束どおりやってきたぞ! みんなをどこへやった!?」


 倉庫の中は暗くてよく見えないが、かなりの広さがあるようだ。


「どうした、万城目日和! 姿を現さないか!」


 ウツロは襲撃に備えながら、ゆっくりとその足を踏み入れた。


「んっ――!?」


 突然飛び込んできた光に、彼は反射的に顔を隠した。


 倉庫内の明かりが、すべてつけられたのだ。


「うっ……」


 手をそっとどけると、奥のほうが視界に入った。


「みんなっ……!」


 平らに敷き詰められたコンテナ群の上に、気を失った数名が倒れている。


 真田龍子さなだ りょうこ南柾樹みなみ まさき星川雅ほしかわ みやび、そして刀子朱利かたなご しゅり氷潟夕真ひがた ゆうまも。


 それはあたかも、ステージの上に乗せられた見世物のように映った。


「そんな、刀子と氷潟まで……おい、みんな、大丈夫かっ!」


 駆け寄ろうとしたところで、ウツロはピタリと足を止めた。


「ステージ」の左下。


 だだっ広い倉庫内のライトアップからは、死角になっている部分。


 開かれた搬入口の闇の奥から、強烈なオーラが漂ってくる。


「そこにいるな、万城目日和! 出てこい! 姿を見せろ!」


 コツ、コツ……


 靴の鳴る音が、少しずつこちらへ近づいてくる。


「……」


 ウツロは生温かい汗を垂らし、その場所を凝視した。


「やっと会えたな、ウツロ。いや、正確には、万城目日和としては・・・・・・・・・、か」


 ぬうっと現れたその人物は、挑発するように語りかけた。


「やはり、おまえだったのか、万城目日和の正体・・は……!」

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