第52話 消失2

 ウツロを保健室へと運んだ真田龍子さなだ りょうこ聖川清人ひじりかわ きよと


 星川雅ほしかわ みやびが応急処置をし、たまたまその場にいた南柾樹みなみ まさきも手伝いをした。


 聖川清人は星川雅がていよく退出させ、あとにはいつもの四名が残された。


「ウツロ、大丈夫かな……」


 治療は済んだものの、ウツロはベッドに横たわったまま、目を覚ます気配がない。


「ダメージがかなり大きいから、しばらくはすやすや眠ってると思うよ。まったく、龍子がいなかったら危なかったよ。自分で助けにいって助けられるなんてさ」


「まあ、雅。とにかく二人とも無事でよかったぜ。それにしても刀子かたなごのやつ、ずいぶんと大胆な行動に出るじゃねえか」


 毒づいた星川雅を、南柾樹は制した。


「どうする? 朱利しゅりの性格を考えると、すきを見計らってまた襲ってくる可能性が高いと思うよ?」


「ああ、おそらくはだな。とりあえずいまは、ウツロが目を覚ますのを待って、全員でさくら館に帰るのがベストだろうよ」


 こんなふうに二人は会話した。


「ウツロ……」


 真田龍子はずっとウツロの手を握っていた。


 治癒のアルトラ「パルジファル」の力を、少しずつ送りこんでいるのだ。


「龍子、あなたもあまり無理しちゃダメだよ? ここで力を使い果たして、また敵襲でもあったら、それこそ目も当てられないんだから」


「雅、龍子の気持ちも考えてやれよ。ウツロが心配なのは、おまえもいっしょだろ?」


「ふん、わかったような口を。わたしはただ、大局的な視野で忠告しているだけだよ?」


「あまのじゃくだな」


「……」


 真田龍子と星川雅を、南柾樹は同時に気づかった。


 星川雅はその手腕に感心するとともに、これも「帝王への意志」によるものなのかと、あれこれ考えをめぐらせていた。


 こうしてただ、時間だけが過ぎ去っていったのである。


   *


「だいぶ日が落ちてきたね。ここもそろそろ閉めなきゃ……」


「どうした? みや……」


 星川雅、次いで南柾樹が、ドサッと床へ崩れ落ちた。


「ちょっと、二人とも! いったいどうした――」


 におい。


 甘いにおいだった。


「これ、は……」


 真田龍子も気が遠くなって、ベッドサイドの椅子から落ち、転がるように床へとっ伏した。


 最後に目撃した映像、それに彼女は衝撃を受けた。


「どう、して……」


 こうして保健室にいた面々は、ことごとく気を失ってしまった。


「……」


 ウツロはベッドへそのままに、残る三名の姿は、忽然とその場所から消失した――

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