第58話



「ゼルス様あ~~~」


 のこのこと、闇の精霊が短い歩幅で現れた。


「酔い覚まし持ってきましたよ~。いらないかもしれませんけど」


「そう言うということは、少なくともお茶作るあたりからは見てたということだな」


「まあ、はい」


「追いかけなくていいのか?」


「なんでマロネがそんな。うすらしこたまめんどっちー」


 ははは。

 ま、おまえはそう言うだろうな。言う分には。


「まー、考えたってどーしよーもないことをうじゃうじゃ考え続けるのは、人間の特権といえばそうですからね~。いいんじゃないスか、別に」


「どうしようもないことなのか?」


「はい。新たにわかったことですが、あいつ、勤めていた国の城にドラゴンとムーマク、手塩にかけた数頭ずつを置いてきています」


「……ほう? それは前に受けた報告の……」


「ええ。宮廷テイマーとして預かっていた魔獣を、ま、置いてきたっていうより、取り上げられたって感じですかね。ペガサスは、あいつが個人で世話してたみたいです」


「そうか。ペガサスは元気にしてるか?」


「スレイプニルに預けてあるんで、大丈夫でしょう」


 なるほど、それは適材適所だ。


「ドラゴンもムーマクも、慣れりゃおとなしいモンスターです。テイマーに高い給料払わなくてもいける、と踏んだみたいですね」


「それで追放か? いきなり? いわば国家公務員を?」


「……ヒッヒッ。若くてかわいくて人望あふれるマロネには、よくわかんないんですけどお。人間社会って、特にチカラがものを言う界隈って、そーゆーヤカラ・・・・・・・も多いみたいですねえ」


 マロネがわらっている。

 ああ。

 まさしく嗤っている。


「自分よりずーっと若くって、おまけにナマイキでちみっちゃいメス。そういうのめざわりでしょうがないってタイプが、その城にもいたみたいです」


「……マロネ。すごい顔・・・・してるぞ? 大丈夫か?」


「え? すごいかわいい? やだあ、知ってますよ~」


「難聴か。いやまあ、実年齢を考えるとやむなし」


「とりあえずマロネは気分がいいので、小川で足でも洗っちゃいますね」


「なぜ急に!?」


「え、だって、下流であのアホが顔洗ってるから」


「やめたげて! 油断も隙もないなおまえだけは!」


 そうそう、と本当に小川に向かいながら、マロネが森の向こうを指さした。

 西の方角。


「ラギアルドから報告です。ひとことだけ」


「……おう」


「『通しました』と。ゼルス様のご命令通りに」


「わかった」


「身を隠しているつもりらしいので進行はゆっくりですが、それでも2日はかからないでしょう」


「ふむ。なら、こちらから出向くか」


「仰せのままに」


 イールギットを関わらせずにすませたい。

 そう難しいことではないだろう。


「あっ、バカ精霊……っちょっと何やってんのよ!? 人の上流で!」


「ひょほほほほ、美人になるでえ! マロネの足のあいだ通った水で顔洗ったらのう!」


「ハンパな西言葉やめろ腹立つっ!」


 ははは。やはりイールギットはいいな。

 怒った顔も太陽のようだ。

 彼女がしっかり照らしたならば、おれなど存在できようもないだろう。


 その邪魔は。

 させん。



**********



お読みくださり、ありがとうございます。


次は1/19、19時ごろの更新です。


少々トラブルがあり、更新が遅れてしまいました。

失礼いたしました。

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