第52話
自慢じゃないが、うちの領土は田舎だ。
人間の主要交易路からは大きく外れているし、名の知れた国も近くにはない。
魔族同士はもともと行き来も盛んじゃないから、知ってるやつしか住んでないみたいなところがある。
まあそれだけ平和だし、山だらけだし、わずかばかし海にも接してるから、暮らしに不備はない。
当たり前のように自然も豊かで、季節ごとの恵みもすばらしいぞ。
そう。
自然。
豊か。
「……なにこれ……?」
唖然としているイールギットを連れて訪れたのは、魔王城の北側。
裏門を出て、城内に水を引き込んでいる水車小屋を回りこみ、そのまま道なき道をまっすぐ。
さほどの距離もなくたどり着くのが、この、
「裏森だ」
「……それは知ってるけど。魔王城の裏の森だから、裏森でしょ」
「そう」
「アンタのネーミングセンスもほんとどうかと思うわ」
「照れるぜ」
「お黙り。……いや、そーじゃなくって」
イールギットの指さした先。
『シャゲエエエエエエ』
『ギシャアアアアアアアア』
『ヒギャギャギャギャギャギャアアアアアア』
うっそうと生い茂る、裏森の木々や草花。
それらの中で、とんでもなく目立つ
うーん。
今日も元気そうでなにより。
「こんなの……いなかったじゃん。前」
「いなかったなー」
「なんなの……? 見たことないんだけど、こんなモンスター」
「俺もだ」
「いやちょっと!? アンタはダメでしょ、魔王でしょ!?」
「魔王だからってぇ、すべての魔族や魔物を知ってるとかぁ、そーゆーのないんでぇ。決めつけないでほしいんでぇ」
「うわくそ腹立つっ……! いやでも自分の城からこの距離でしょ、さすがに知ってなさいよ!?」
「気がついたら生えてたんだよ。俺の許可もなしに」
「まあそりゃ、こんなのが許可とりに来たら、それはそれで怖いけど……」
確かに。
魔王ちょっとキョドっちゃうかもしれない。
「マロネが言うには、もともとこの森に生まれる可能性があった、植物系モンスター……トレントやら、スライムマンドラゴラやら、ミラージュマタンゴやら」
「そいつらもたいがいだけどね……」
「それらがなんか、うまいことダメな感じに融合して影響し合った結果、こんな感じになりました、ということらしい」
「マタンゴ要素は入ってなくない?」
「胞子飛ばしてくるんだよ、吸ったら麻痺するから気をつけろ」
「サイテー……」
「いっそ知能も高かったら良かったんだが、それはないみたいでなー。このあたりを縄張りと思いこんでるから、俺の言うこともぜんぜん聞いてくれなくて、いやはや困ってるわけだ」
「焼き払いなさいよ」
「まあ最終手段ではな。でもほら、こいつらを門番代わりにできるなら、北側の守りがより安心だと思わんか?」
「……まさか、アンタ」
頬を引きつらせるイールギットに、深々とうなずいてみせる。
「こいつらをテイムしてくれ。頼んだぞ」
「いやよいやよいやよッ!? なんであたしがこんな不気味なやつ、テイムしなくちゃなんないの!?」
「できないことはないだろ? 植物っちゃ植物だし」
「そりゃそうだけど! いやでも知能低いんでしょ!? だったら成功しづらいし、てゆーかなにより単純に近づきたくないし!」
「そこはー、ほらー、捕虜の仕事と言いますかー? いわゆるひとつの、尊い労働と言いますかー?」
「くっ……!?」
「ここでがんばっていただかないと、わたくしどもといたしましても、罰として夕食のおかずを1品減らさざるをえないと言いましょうかー」
「いやむしろあれ、多すぎて食べるの大変なんだけど。毎日おなかパンパンになっちゃう」
うむ、ちゃんとぜんぶ食べなさい。
でないと大っきくなれないから。
「う~、いやだけど……まあ、はあ、わかったわよ。やるわよ……」
「いよっ、待ってました! 専門家! テイムのお姫様!」
「アンタがやりゃー済む話じゃないのよ、アンタがっ……!」
「俺だって近づきたくない」
わあイールギット、ものすごい眼するのね。
「こいつらをしもべにして……隙見て魔王を食い殺させてやるッ……!」
しまった、そんな手があったか……!
**********
お読みくださり、ありがとうございます。
次は1/1、19時ごろの更新です。
皆様、良いお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます