第25話


 スキル<グランド・【タイタン】・アロスメデッサ>もどきの効果は、しばらく維持される。

 そのせいもあってか、ファレンスは上機嫌だった。


「人々の生活をおびやかすモンスターどもめ! このファレンスの剣を受けてみよ!!」


 今どき英雄譚サーガでも聞かないようなセリフを高らかにうたい上げ、魔物たちを駆逐してゆく。

 ばったばったと小気味よく、それはもう大活躍というものだ。

 ダンジョンの奥に進むにつれ、気温がどんどん下がってきているようだが、まったく気にした様子もない。


 スノーゴーレムが現れようが。

 コールドフェアリーが現れようが。

 アイスバーンウルフが現れようが。

 すべて1人で立ち向かい、有無を言わさず勝ち抜いている。


 そう。

 1人で。


「ファイトだぜ、ファレンスのダンナ! 敵はあといくらも残ってねえぜ!」


 鎧くんは応援に余念がない。

 いや。

 確かに常にファレンスの後ろに構え、防御が必要な事態に備えてはいる……

 今風? ってやつなのか?


「ファレンスがすごすぎて、あたしらなんにもやることがないよ! すっごーい!」


 弓ちゃんの黄色い声援も途切れない。

 いや。

 確かに今のところ遠距離攻撃の出番はないし、それはファレンスが敵をすべて倒しているからだ……

 これも今風? っていうわけか?


「そういえば確認だが……」


 ファレンスに、相変わらずの肉体強化スキルをかけながら、俺は呟いた。

 油断なく周囲を警戒していたアリーシャが振り返る。

 たぶん今、パーティでいちばん集中してたな、この子。


「あの鎧くんと弓ちゃんは、勇者じゃないよな?」


「違います」


「だよな」


「あの2人も、ほんの数ヶ月前……ダクテム様がパーティを離れたあと、参加したとのことです」


「ほー。詳しいなあアリーシャ」


「……マロネ様の報告書に、書いてありましたよ?」


 やっべきれいに墓穴った。

 そーいやそーだった、勇者じゃないならひとまずいいやと思って。

 ファレンスのやつしか見てなかったんだった。


 いやその、ほら、俺も魔王だから。

 いろいろ忙しくて……対アリーシャ用ゲームの攻略練ったりとか……

 だ、大丈夫。

 マロネはサボってて聞いてないはずだ!


『ゼルス様……マロネ悲しい……』


 いやがるしよ!!

 こんなときだけ!!


『マロネ、いっしょけんめい調べたのに……身の危険もかえりみず……』


「な、なるほどな。勇者候補とか、そういうことなわけだな」


『ごまかそうとしてる……マジメな話してごまかそうとしてる……』


「いやあ、今はファレンスのサポートに徹しているようだが、つまりまだまだパーティの底力は見えていないということだな! いざ全員で戦うとなったとき、どれほどの強さになるのか、楽しみだなあ」


 果たして、とアリーシャが呟くのが聞こえた。


「そのときが来るでしょうか……?」


「うん?」


「あ……いえ」


「ああ。確かにこのままだと、ファレンス1人で最後まで倒しきってしまいそうだな? どうなんだマロネ、そのへんは?」


 質問のてい・・ででも、フォローしておかないとな……

 うーん、とマロネの首をかしげるような声が聞こえた。


『ずっと調べ続けてはいるんですが、実を言うと、あまり情報が集まってませんね』


「ほう?」


『魔王級の力を得てから、まだ日が浅いようです。人間のギルドにも、山での狩りなどに影響が出そうだ、という報告しかありませんでした』


「そうか……」


『ファレンスがいち早く目をつけた、って状況のようですね』


 なるほどな。

 確かに、魔族だろうが人間だろうが、『なりたて』のやつはたいてい弱々しいものだ。

 大きな力も、扱い慣れてこそ、だしな。


 ただ、あくまでたいてい・・・・の話だ。

 俺もいっとき、ここの魔王の強さについて、心配もしていたが……


 徐々に気温を下げているダンジョンの様子。

 配備されたモンスター。

 今襲ってきているクレバスワームのレベルなんかを見ても、うむ。

 ここの主は……


「ゼルスン!」


 まさしく現在進行形で戦いながら、ファレンスがこっちに叫んだ。


「私に聞こえない話はするな、と言ったはずだがな!」


「おお、そうだったそうだった。すまんね」


「弟子と何を話していた!?」


「ファレンス1人で魔王までやっつけちまうんじゃないか、ってな」


 うそは言ってないぞ。


「当然! そのつもりだッ!」


 ファレンスの剣が、氷のミミズのぶっとい胴体を断ち切る。

 このダンジョンに入って、それなりの距離を進んできた。

 気温も、息が白くなるほどになってきて……

 ふむ。


「なるほどな……」


 にや、と俺は口元で笑った。

 やはりなかなかやるな?

 このダンジョンの魔王は。


 まだパーティの、誰も気づいていないようだが……

 ファレンスが戦っている通路の、奥に見えている入り口。

 アイシクルガーゴイルが潜んでいる。


 岩カベにも、ところどころ氷が目立ちはじめている中で、透明化させた体をうまく紛れこませているな。

 クレバスワームに気を向けさせておいて。

 実はいわゆる、セットの門番なんだろう。


 いいねえ。

 いいじゃないか。

 勇者が活躍・・・・・するような罠・・・・・・

 力の底を見れるような罠は、大歓迎だ!


「……!」


 おっと。

 アリーシャも気づいたか。

 いいぞ、優秀優秀。


 だが手は出すなよ――と横目で制する。

 俺自身も腕を組み、手近な壁にもたれた。


『ゼルス様……?』


 どうした? マロネ。

 心配する必要などない。


 勇者なら、

 この程度、

 まったくどうとでもできる。

 悪い罠ではないが、勇者にとっては児戯に等しいはずだ。


 ファレンスも言っていたじゃないか。

 自分にすべてまかせておけ、と……

 なんて頼もしい言葉だろうか。

 勇者ほどの自負がなければ言えはしない。


「やれやれ! しつこい魔物だった……!」


 最後のクレバスワームを倒し終え、ファレンスが剣を納める。

 ……お?

 納める?

 鞘にしまったぞ、剣を。


 どうするつもりだ?

 気づいてないのか?

 いや。

 アイシクルガーゴイルごときには、剣もいらないということか!


「これは見物だ……!」


『ほんっと純真ピュアなんだからもう……』


 なにやらマロネが呟く中で。


「先へ進むぞ!」


 こっちを振り向いたファレンスの背後から。

 擬態していたアイシクルガーゴイルが――


 ガキイイインッ!!


 動き出しかけた、まさにその瞬間。

 ガーゴイルの頭に、1本の矢が突き刺さった。



**********



お読みくださり、ありがとうございます。


次は11/24、19時ごろの更新です。

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