第8話
なあ? と目を向けたマロネが、ぽりぽりとあごの先を指でかく。
「マロネは魔王様ほどピュアじゃありませんけど、ま、とりあえずその方向で考えないと……。実際、勇者にふさわしい力がなかったから、パーティを追い出された。それ以外になにか理由ある、アリーシャ?」
「いいえ、まあ……。ただ、わたしの目には、ダクテム様はたいへんお強く見えました。魔王様相手に堂々の立ち回り、見事なものだったかと」
「えぇ~すごいじゃんマロネも見たかった~ん」
「魔王様は、ダクテム様のどういったところが、勇者として不足と見なされたと思われるのですか?」
「あ、そう、それは確かに。マロネも気になっちゃいました」
そこだ、と俺はうなずいた。
マロネとアリーシャを交互に見やり、にやりと笑って、正直に答える。
「わからん」
「……はあ」
「こんな気持ちは初めてなんだ」
「ほえ……?」
マロネが大きな両目をぱちぱちさせる。
川辺できれいな石を見つけたような心地で、俺はイスから立ち上がった。
「ダクテムはじゅうぶんに強いと、俺も思っていた。だから
「ええ、そうですね」
「だが。俺が……俺が間違っているのかもしれない!」
「ほあ」
「あの修行では足りなかったのかもしれない! だから役に立てなかったのかもしれない! あるいは今、人間の勇者たちが求めているのは、また別の強さなのかもしれない!!」
「ちょっと落ち着いてくださいゼルス様、なんでテンション上がってるんです?」
「これが落ち着いていられるかバカマロネ!」
「ば!? ば、ばかってゆわれたー!!」
「ダクテムですら! 及びもつかないほどの実力が、今の勇者たちにあるのなら! この辺境の地まで、彼らがやってくる日も近い。俺が彼らと戦う日も近い!! そうなれば……!!」
そうなれば。
……こほん、と俺はひとつ咳払いをした。
確かに少し、興奮しすぎたようだな。
「ま……もろもろ冷静に考えてみても、ダクテムを追い出すとはただごとでない。少なくとも俺にとってはな」
「そーですねー。おバカなマロネには、なんにもわかりませんけどねー。へっ」
「すねるなよ、かわいいな」
「うっ……うえ、う、うへへへ。かわいいってゆわれたー……♪」
「ともかく、いちばんまずいのが……さっきも言ったが、今の勇者たちが必要としていることが、俺の認識とずれている場合だ。修行の内容を考え直さねばならなくなる」
ちらりと横目でアリーシャを見やる。
ダクテムだけのことじゃない。
アリーシャの今後にも、かかわってくるかもしれないからな。
「この目で、耳で、肌で、今現在の『冒険』を確かめておきたい。そしてかなうものなら、今の勇者たちの強さを実感しておきたい!」
「あー」
「ふふふ……かわいいダクテムを追放するようなやつらだぞ。想像するだけでたまらんじゃあないか……!」
「なるほど。このマロネ、オッサンを
「おまえほんとその
「しかれどもそのお役目、ゼルス様御自ら赴かれる必要はないのでは? マロネにおまかせくだされば、あらゆる情報・諜報技術を駆使して、ダクテムの元パーティを調べ上げましょう」
「無論、それも頼む……だが、俺が行く理由がふたつある」
俺は指を2本立て……
ふところから白い手袋を取り出し、右手にはめて。
改めて、指を2本立てた。
「ひとつめの理由は」
「なんでやり直したんです?」
「手袋してたほうが指かっこいいだろ。ひとつめの理由は、ダクテムの追放を決めた勇者当人からこそ、聞けることがあるはずだ。心の内のことなのだからな、やはり直接会う以外あるまい」
「そこまで勇者に接近なさっては……」
「そう。最初に言っただろ、勇者と同じパーティに入る。つまり正体を見破られてはならんということだ。相当な実力が求められるし、演技力や思いきりも大事だぞ」
「思いきり?」
「当然、場合によっては勇者とともに、魔族たちと戦うからな!」
「ゼルス様あ!?」
「
うへぇ~、とマロネが肩を落とした。
説得はあきらめてくれたようだな。助かるぞ。
**********
お読みくださり、ありがとうございます。
次は11/18、21時ごろの更新です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます