第54話王都動乱23
ここはどこだ?
目が覚めた俺は辺りを見回す、四方を石壁に囲まれて扉は鉄製の扉が一つ。
俺が寝ていたのはベッドだろう部屋の中にはテーブルと椅子がある・・・ここ前に入ったことがあるな、たぶん魔王城の地下牢だ。
俺はゆっくりと上半身を起こそうとするが上手く体が動かない。
・・・思いだした、魔王様と戦ってこれからって時に、ロータスが来て吹っ飛ばされて気を失った?
「はぁぁ・・・何で俺は生きてるんだ?そういえば、リルがいたような気がしたが・・・」
身体が動かないのは・・・たぶん限界だったんだろう、制限時間切れってところか。
セリスはどうなった?キアリスさんは?
俺は起きられないまま首を何とか動かして体を見るが、装備は外されていて腕に封魔の腕輪、指には五色の指輪がついているだけだ。
もちろん服はそのまま着ているが、上半身の服は魔王様に斬られた時に裂けたままだ。
一つだけ変わっていることといえば、両腕の封魔の腕輪に鎖みたいのがつけられていて、外すことができないようになっている。
「負けたのか・・・そりゃそうだよな。初めから勝てるとは思ってはいなかったけど、勝負にはなっていたとは思うんだよ、俺頑張ったよな・・・」
もっと早く剣のことに気がついていれば、もっと早く指輪のことに気がついていれば、もっと早く・・・
後悔だけが頭によぎる。
どれぐらいそうしていただろうか鉄の扉が開いて誰かが入ってくる。
俺は寝たままそっちに顔を向けると、エヴァさんがいた。
「目を覚ましましたかナイン様。お加減はどうですか?」
「最悪です・・・」
エヴァさんは近づいてくると椅子に座ってこっちを見ている。
「あれから・・・どうなったか教えてもらえますか?」
正直あまり聞きたくはないが聞かないわけにはいかないだろう。
「ナイン様が気を失われてから七日がたっています。あの時、ロータス様とリル様が来たのは覚えていますか?」
俺は頷く、ロータスが来なければ、もしかしたら何とかできたかもしれなかったのだ、思いっきり蹴り飛ばされたのは絶対忘れん・・・やっぱりリルも来ていたのか・・・。
「あの後、ロータス様とリル様がきて、気を失ったナイン様をリル様が庇ったのです。殺さないで欲しいと。」
リルが助けてくれたのか・・・お礼を言う時間があればいいけど。
「そして、セリス様もナイン様を殺さないで欲しいと、自分は何でもするし、殺されてもいいからと。」
そうか・・・セリスも助けてくれたのか、生きているのだろうか・・・。
「セリスは・・・生きているのですか?」
ここが一番重要なところだ。
「生きていますよ。セリス様もキアリス様も。」
は?どういうことだ?セリスを生かすために俺は戦って負けたはずなんだけど・・・。
エヴァさんはことの顛末を話してくれた。
セリスとリルが泣きながら助けてほしいとお願いしたことで魔王様も、次期魔王候補のお願いということで聞きいれたそうだ。
セリスに関しては、魔王軍の捕虜になるということで今は普通にリルと一緒に勉強しつつ魔眼をコントロールできるように特訓しているそうだ。
キアリスさんはセリスの世話係として城でメイドとして働きだしているらしい。
ちなみにあの場にリルとロータスが来たのは、リルがエヴァさんが長期で仕事でいなくなり、魔王様すら出かけていったのを不審に思い、ロータスにお願いしてあの場に連れてきてもらったそうだ。
なのであの場にリルを連れてきたロータスは罰として、魔族領の村などを周って雑用仕事の刑になり、リルは当分の間おやつ禁止とお出かけ禁止になっているそうだ。
なんだそれは?ロータスはざまぁといったところだが、魔王軍て結構緩い感じの罰なんだな。
「そうですか、生きているなら、それで十分です。ありがとうございます。それで、俺はこの後どうなるんでしょうか?」
エヴァさんは首をかしげる、何だそのリアクションは?
「ナイン様に関しては、何も聞いていません。もしかしたら一生ここで過ごすことになるかもしれませんね」
何で俺だけそんな重い罰?と思ったが、まあ普通に考えると当然か・・・魔王軍に敵対して魔王様を殺そうとしたと言われてもしょうがないしな。
俺の顔を見たエヴァさんはくすくす笑いながら
「冗談です。身体が動くようになったら魔王様のところに行きますから、居心地はいいとは言えませんがここでゆっくり身体を休めてください」
それからエヴァさんは王都のことなども教えてくれた。
俺が仕組んだ通り、セリスの屋敷が燃えたことで、逃げた影族の一人がセリスを殺し、地下水路の鍵が壊されていたことでそこから逃げたのではと考えられているそうだ。
ただ、スラムに逃げたほうはそこからの足取りがつかめず、王都の警戒態勢は続いているということだ。
実際には、俺と魔王様の戦闘後にエヴァさんたちサキュバス隊が王都に潜入して、影族を確保したらしい。
影族が潜伏していた場所は、前に捕獲していた仲間から聞いていたのですぐに見つかったそうだ。
「ナイン様は、本気で魔王様を殺そうとなさっていたのですか?」
ふと、エヴァさんが真顔で聞いてくる。
本気でか・・・本気にならなきゃ勝てないとは思っていたことは確かだけど・・・。
「いえ、本気で戦わないと勝機は全くないとは思っていましたけど、命の恩人ですし、何とかダメージを与えて撤退してもらえればとは思っていました。まあ長期戦になれば俺に勝ち目はないのはわかっていましたが・・・」
「やはりそうですか、私と戦った時も、最終的には逃げることを選択していましたし、そうじゃないかとは思っていました」
知り合いでお世話になっている人達だからな。
いくら敵対しているといっても、殺すことまでは俺だってしたくない。
今の俺には、魔族とか人族とかほとんど関係ないからな。
「そういえば、あの剣は何だったんです?ちょっと強いなって思っていたんですが、まさかあそこまでとは思っていませんでした」
そう、雷鳴の剣、ちょっと強すぎるとは思っていたけど、何か封印とか魔王様が言ってたし普通の人が扱えるような代物じゃない気がする。
「魔王様から聞いた話ですが、あれは昔の勇者が使っていた神剣だそうです。強すぎて危険だからということで魔王様が二重の封印をしていたそうなんですが、半分ほどナイン様に壊されてしまったと」
神剣か、相当な強さだったな・・・まさか魔王様の無限牢獄を斬り裂けるとは思ってもみなかった。
一つ目の封印があの雷撃をバチバチするものだそうだ、剣に通した魔力を雷に変換することで魔力を消費させて剣に溜めさせない。
二つ目の封印が、刃を薄く覆うようになっている銀色の鉄みたいなもので、魔王様の結界術だそうだ。
それを俺が実質無限の魔力を通すことで力技で破壊したということらしい。
壊れたのは雷がバチバチする部分だけで、銀色の刃を覆う結界術の方は完全に壊れていなかったので自動で修復されるという。
それ以上のことはエヴァさんも知らないようで、魔王様に会った時に直接聞いてみたほうがいいということだった。
何でそんな危険なものを俺に渡していたのか・・・まぁ前に話した時に俺がイレギュラーだって言ってたし、何か魔王様なりに考えがあるんだろう。
「では、何かありましたらお呼びください。動けないといろいろ大変でしょうから」
そういうとエヴァさんは牢屋を出ていった。
ああ、この封魔の腕輪につけられている鎖のことを聞くの忘れてたな、俺が暴れださないようにってことだったのかな・・・。
何にせよ、セリスが死ななくてよかった、魔王様が保護してくれたなら安全だろう。
ただ、やっぱり負けるのはちょっと悔しいし、それに今回はよかったけど、負けるってことは死ぬこともあるわけで、ただ運が良かったってだけだな。
もっと強くなっていかないといけないな。
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