第48話王都動乱17
俺が影族の男に言い放つ。
もうこれ以上はやる必要はないだろうと俺は思うが、相手だって捕虜にはなりたくないだろう。
「クソが!お前は何なんだ!?変な仮面、その強さ!おまえだって魔族なんだろ?・・・何で俺たちを狙ってくる!?」
王都には強い冒険者がいないって知っているのだろう、だけど俺を魔族だと思うのはどうかと思うけど。
「こっちにも事情があってね・・・お前ら魔王様に従ってないんだろ?その程度の腕じゃすぐに殺されるぞ」
魔族ではないが、わざわざ情報を渡す必要性は感じない。
もっとヤバいやつらが魔王軍から離反していると思ったが・・・そうでもなかったんだよな、何でだ?
「魔王に従って何になる!?戦争を仕掛けてきたのは人族だろうがっ!なぜこっちから攻めていかない?お前はおかしいと思わなかったのか?」
そうか・・・前回の戦争で人族の連合は魔族領に攻め入ったからな。
俺が覚えている限りだと、村を攻めたりする前の陣地を作る段階で魔族に奇襲を受けたから、魔族側には軍人以外の被害はなかったがそういう問題でもないか・・・。
確かに攻められたら、戦力的には勝っているんだから攻め返そうというのが道理か。
でも、魔王様は攻めることをしなかった。
「確かに何で攻めなかったのかってのは思ったさ。だが勇者が死んで人族にも一部バカな考えのやつがいるだけで人族も疲弊している。勇者はもう出てこないはずだ。お互い不干渉ということでいいだろう」
「それが間違いだと言っている。俺は見ていたぞ!勇者に匹敵する勇者もどきが何人もいたことを!そしてこの国に出現したセリス・ツリーベルの・・・」
ざっと風が吹いて木々が揺らめき人影が姿を現す。
「そこまでです!」
ちっ・・・到着してしまったか。
影族の男の言葉を遮ったのは、十人の仮面をつけた黒ずくめの集団。
パッと見た感じは男か女かも判断はつかない、しかし最近聞いた声だ。
まあエヴァさんとサキュバスの部隊だ。
「早かったですね、もうちょっと遅くなると思っていましたが・・・」
「この者たちは私たちが引き取ります。異存はないですね?」
引き取るときたか、だがこっちも四人とも渡すわけにはいかない。
最低でも一人は王国に巣食う魔族がいるということを周知させるための生贄になってもらわないといけない。
「それはできません。最低でも一人、俺がもらいますよ。」
俺の言葉にサキュバス部隊が構えだす。
たぶんあからさまな殺気が飛んでこないのは・・・クリスさんと模擬戦したり何度か訓練にお邪魔した時に話したり、仲良くなったりしたサキュバスさんたちだろうな。
仲良くなった人達と敵対するのは本当に気分が悪いし、物凄くキツい。
でも悪いけど引けないんだよな。
「すみませんが、先ほど言った通りです。別に影族の彼らの味方をするわけでも、王国の味方をするわけでも、魔王様に敵対したいわけでもありません。ただ・・・これだけは引きたくないんです。」
俺は覚悟を決める、本当に覚悟を決められているのかは疑問だが、敵対することを前提として封魔の腕輪を一つ外してきている。
相手はサキュバス隊十人。
たぶんあの仮面の中には、クリスさんもいるだろう。
殺す気でやらなければ十人の対処は・・・難しいかもしれない。
「仮面!俺と手を組め!そうすればここから逃げることぐらいはできるはずだ。腰の引けた魔王の使いなんて俺とお前が手を組めば一蹴できるはずだ!」
影族の男が何か言っている、こいつは何もわかっていない、俺が魔族の第三勢力だとでも勘違いしているのだろう。
俺は男のほうに向きなおると、一瞬で距離を詰めて思いっきり蹴りを入れてサキュバス隊の方へ吹っ飛ばす。
「ぐべぇ・・・」
変な声を出しながら吹っ飛んでいき、サキュバス隊数名に叩き落とされて地面に顔面から着地する。
こいつは渡しておこう、あっちに転がっているデカい影族の男をもらっていこう。
「理由はわかりませんが、その男は差し上げます。俺はあのデカい男をもらっていきます」
「渡すとお思いですか?」
エヴァさんが構えをとり、いつでも飛びかかれる体勢になる。
「さっきのは、わかってもらうためでもあったんですが・・・俺がすでに腕輪を外してるってのは気がついていますよね?」
俺とエヴァさん、サキュバス隊に緊張が走る。
ふと、索敵に引っかかる集団がある、こっちに向かってきている暗殺者集団だ。
これはちょうどいい、エヴァさんたちは存在を人族に知られたくないはずだ。
「魔族だっ!ここに魔族がいるぞっ!ファイア・ランス」
俺は大声を出すと、真上に向かって魔法を放つ。
「ナイン様っ!また逃げるつもりですか!そんなことをしても一時凌ぎに過ぎませんよ!」
俺はエヴァさんの声を無視すると、サキュバスたちが反応するよりも早くデカい影族の男のところに駆けよる。
「リジェクト・ケージ」
俺と影族の男を結界で包み、向かってくるサキュバスたちを何とか食い止める。
「仕方ありません。その影族の男以外を回収して撤退します。」
エヴァさんが指示を出す。
サキュバスたちはてきぱきと女二名とリーダーを回収して去っていく。
「エヴァさん!決着はまたの機会でお願いします。」
エヴァさんは俺と一瞬目を合わせると、何も言わずに去っていった。
ふう・・・これでまた少しは時間を稼げた。
セリスの件は何とか進んでいるが、俺の個人的な状況はどんどん悪くなっていく。
次に会った時は・・・もう逃げられないだろうな。
考えるのは後だ、暗殺者集団が来る前に影族の男をある程度治療して、ある程度交戦させたい。
俺は切り落としたデカい影族の男の左腕を回収すると、一番いいポーションでくっつける。
腕が動くかわからないが、何もしないよりはいいだろう。
出血で体力は落ちているはずだから、森に潜伏していた人族たちでも何とかなると思う。
もうすぐ冒険者たちが到着するタイミングで水魔法をデカい男にぶっかけて目を覚まさせる。
「ぐあっ・・・ここは・・・みんなは・・・どこに行ったんだ?」
俺はすぐにその場を離れるとフードを被って気配を殺す。
「いたぞっ!ここに魔族がいる!ここだっ!」
「人族だとっ!」
デカい影族は状況がわからないままに暗殺者たちと交戦する。
やはり体力がなくなっているのか、暗殺者たちに押されていても影を使った攻撃はできないみたいだ。
ここまできたら俺の役目は終わりだな。
最後に遠目から投げナイフを影族の男に投げつけると、足に刺さって転倒する。
そこに暗殺者たちが群がって男を捕縛した。
俺はそれを見届けると、アイテムボックスから腕輪を取りだしはめ直す。
全身を倦怠感が包んで、ふらふらするがすぐに慣れるだろう。
索敵を使いながらゆっくりと人がいない場所を通って、遠くの空が明るくなっていく森を歩いていく。
腕輪をはめてしまったので高範囲はわからないが、かなり混乱させることはできたみたいだ。
まだ人族同士で戦っている者たち、檻から放たれて暴れている魔物と戦っている者たち、森から離れようとしている者たち。
これだけ混乱させて、さらに魔族がいるとなったら課外授業は中止になるんじゃないかな。
完全に夜が明けてしまうと町にこっそり入るのも難しくなるので早めに帰ろう。
俺は森を抜けると全速力で走りだす。
長時間腕輪を外していたからかもの凄く自分の動きが遅く感じ、スピードが出てないように感じてしまう。
俺は町につくと門から離れたところを必死になってよじ登る、いや、腕輪つけるタイミング間違ってるな。
貴族門は出入りを記録されるから、日が昇ってしまうと入るのに苦労するかもしれない。
何とか外壁をよじ登り、まだ暗い街の中を疾走する。
ちょこちょこと人通りは出てきたが、まだ大丈夫だ。
貴族門に到着すると、また門から離れて門番の見えないところをよじ登る。
貴族街に入ったところで、息を整えゆっくりと歩き出す。
ここまでくれば、声をかけられても何も問題はない。
歩いて屋敷に着いた時には辺りは明るくなっていた。
屋敷の窓から部屋に入ると、衣と仮面を外す・・・いや危なかった、仮面したままだったよ。
声をかけられたら不審者として通報ものだった!
ベッドに横になるとちょっと考える。
影族の男が言っていた、勇者もどきとセリス・ツリーベル。
エヴァさん達がきて遮られてしまったが、勇者もどきって俺達『人工勇者』のことだろう。
それと同列に挙げられたセリスの魔眼て・・・。
俺の知らないことがあるのか?魔眼は確かに強力だ、セリスは魔力が多いみたいだから屋敷の周辺を破壊した様な力が出せるのだろう。
だがそれだけだ。
強いには強いが、勇者やそれの劣化版の人工勇者と同列に扱われる様な人外さは聞いたことはない。
魔眼の破壊は防げない様なものではないし、簡単に相手の精神に干渉できるものではないはずだ。
魔眼に関しては希少過ぎて詳しい記述はないが、人族では知らない何かがあるのだろうか?
少しだけ寝よう、起きた時には森の混乱が伝わっているはずだ。
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